3 女王との謁見
首都エジンバラに寄港した。
姉貴は王城で手続き、俺たちは積荷を捌いたり、海洋ギルドで報酬を受け取ったりとそれなりに忙しかった。ある程度、仕事が片付いた時点で姉貴から指示があった。
「女王陛下が直接貴方達にお礼が言いたいらしいの。だから、面倒だけど航海士以上は正装で出席してちょうだい。少尉に昇進したときに軍服もらったでしょ?それでいいって」
「あれ、窮屈なんだよな・・・まあ仕方ないか。俺達も形上は軍人だしな」
「じゃあ、明日の昼には出発するから、くれぐれも飲み過ぎないでね」
「分かってるよ。女王陛下の前でゲロでもしたら、死刑確定だからな」
★★★
俺たちは正装して王城に馬車で向かう。途中、俺とザドラが3回吐いたけど。
ベイラが言う。
「あれで二日酔いなんて、船長達は軟弱すぎるッス」
「馬鹿、ドワーフと比べるんじゃねえよ」
姉貴が怒鳴る。
「馬鹿はどっちよ!!あれだけ気を付けろって言ったのに」
「そういう振りかと思って・・・」
気合いで何とかやり過ごし、いよいよ女王陛下と謁見が始まる。女王陛下はマーマン・・・女だからマーメイドか、こちらもクリスタ連邦国には多くいる種族で、水中活動が得意だ。
「皆の者、面を上げよ。楽にしてよいぞ」
女王陛下の言葉を受けて、俺達は顔を上げる。
「まずはスターシア・ドレイク子爵、貴殿の優れた施策は国策として取り入れることも検討しておる。今後も精進するがよい」
「ありがとうございます」
「ネルソン・ドレイク特任少佐、ホーンシャークの群れの討伐は見事であった。親玉のキラーホーンシャークの献上も礼を言う。それで、貴殿をこれまでの功績と合わせて特任大佐に昇進させる」
「有難いですけど・・・二階級特進なんて、殉職したようで縁起が悪いですね」
「お主は相変わらずよのう。昔のやんちゃ坊主のままじゃ。まあ、前置きはこのくらいにして、本題に入る」
緩んだ雰囲気は、一瞬で引き締まった。俺も酔いが一発で覚めた。
「魔王復活の件は、話くらいは聞いておろう?それで、人族も対抗して連合軍を編成することとなった。それと、魔王と対をなす存在の勇者も誕生したのじゃ。それでドレイク特任大佐、貴殿を勇者パーティーの船長に任命する」
女王が何を言っているのか分からない。いきなり勇者パーティーの船長になれだって?
「あのう・・・仰られている意味がよく分からないのですが・・・」
「おい、宰相。詳しく説明してやれ」
「ハッ!!分かりました」
宰相の説明によると勇者は魔王の脅威から守るため、世界各地を回るらしい。そのためにはどうも俺達のクリスタリブレ号が最適ということになった。小回りが利くし、戦闘力もある。危険な海域を進むこともあるので当然だろう。
「報酬についても、連合軍本部から毎月定額支払われますし、領の稼ぎ頭を失うドレイク領には税制の優遇措置、それと必要があれば補助金を出します。それにもまして、勇者パーティーの一員となれることは非常に名誉なことであり、我が国としても・・・・・」
凄くメリットを強調しているが、何か歯切れが悪い。何か言いにくいことでもあるのか?
「それで・・・大変言いにくいことなのですが・・・そのつまり・・・ええと・・・その勇者というのがグレイティムール大帝国の公爵令嬢なのです」
頭が真っ白になった。
グレイティムール大帝国の公爵令嬢が勇者だと!!あの強欲な馬鹿どもの上級貴族じゃないか!!
俺は怒りで震えているし、姉貴も泣きそうになっている。
「お気持ちはよく分かります。しかし、どうしても必要なことなのです。止むにやまれぬ事情がありまして・・・・」
言いかけたところで、俺は怒鳴っていた。女王の御前であるということも忘れて。
「何が止むにやまれぬ事情だ!!俺や姉貴だけじゃない。多くの国民がそう思ってる。じゃあ聞くが俺達の親父やお袋は何のために死んだんだ!!帝国に尻尾を振るためか?とんだ腰抜けどもが!!帝国と戦争するから力を貸してくれって言うんならまだ話は分かる。そんなことなら、すぐにでも海軍を辞めてやるよ!!」
★★★
話は10年前に遡る。
グレイティムール大帝国が大艦隊を率いて、クリスタ連邦国に攻めて来たのだ。大義名分は「魔族と結託して、人族に脅威を与える恐れがあり、魔族の戦力を削ぐために必要な侵攻」であった。
こんなのは嘘八百だ。
他国に比べたら魔族の住民の数は多い。しかし、魔族領と接する国に比べれば圧倒的に多いとは言えない。帝国はただ、クリスタ連邦国の豊富な海洋資源と高値で取引されるスパイスが欲しかっただけだ。適当な理由をつけて、手っ取り早く植民地にしてしまおうと思ったのだろう。実際に帝国の近隣の国々は植民地にされたり、領土を割譲されたりしている。
ここで女王は苦渋の決断を迫られた。必死に抗うか、帝国の奴隷となって生きながらえるか。
そして、「自由は命よりも尊い」という信念の元、開戦が決定した。当初は圧倒的な物量を誇る大艦隊に為す術なく領土を奪われ続けたが、ここで救世主が現れる。
そう、俺の親父とお袋だ。二人は幼馴染で船長と副官だった。実はお袋が船長なんだけどな。
幼い俺と姉貴を残し、一隻の船に乗り込み戦場に乗り込んだ。奇襲や夜襲何でもござれ、大艦隊を中型の戦艦で翻弄する。海賊のように神出鬼没でとらえどころがなく、帝国海軍は大混乱だ。この活躍を利用して一気に攻勢に出たクリスタ連邦国は領土を奪還する。
地の利も大きかった。島国特有の複雑な海流を読み切るのは地元の船乗りでも至難の業で、ましてや他国から来た船乗りなど為す術もない。後で聞いた話だが、親父達の進言で一端領土を奪わせて、狭い海峡に引き込んで叩く作戦だったらしい。
戦況は有利になったが、帝国は諦めなかった。更に大艦隊を差し向ける。こんな島国の小国を攻め落とせないなんて、帝国の威信に関わると思ったらしい。それでも戦況は変わらず、攻め落とせずにいる。一方クリスタ連邦国も苦しい。戦力が違い過ぎるからだ。いくら一隻一隻の能力が高くても10対1の戦力差では、如何ともしがたい面がある。
そして、戦争は佳境を迎える。
世にも有名なドール海海戦だ。ゲリラ戦を戦い抜いた親父達だったが、女王からの勅命で、この一大決戦に参戦するようになってしまった。ゲリラ戦がメインの親父達の長所を生かせないが、それよりも英雄としての位置付けが大きかった。それにいつしか親父達の船は「クリスタの自由」、クリスタリブレ号と呼ばれるようになっていたからだ。
海戦はクリスタ連邦国が劣勢だった。圧倒的物量で、9隻沈められても1隻沈めれば勝てるという人命無視の作戦に苦戦していた。
それを覆したのは、親父達の活躍だ。決死の覚悟で敵船団に飛び込み、縦横無尽に暴れ回る。まさに獅子奮迅の活躍だったらしい。
そのお陰で、この一大決戦はクリスタ連邦国の勝利で幕を閉じた。
この知らせを聞いた時、俺と姉貴は子供ながらに大喜びしたものだ。領民も口々に「領主様と奥様は凄い。我々の誇りだ!!」と叫んでいた。本当に誇らしかった。俺たちも領民も浮かれきっていた。
ボロボロのクリスタリブレ号がスパイシアに寄港するまでは・・・・・
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