29 まずは情報収集
宮殿でヤマット大将から仕事を受けた俺達だが、まずやって来たのは冒険者ギルドだった。普通ならヤマット大将から説明があるはずなのだが、3日後に海軍沿岸警備隊詰所を訪ねてくれしか言わなかった。多分何か伝えられないことや言いにくいことがあるのかもと考えて、冒険者ギルドを訪ねたのだ。
受付に着くと受付嬢からゴーストからの手紙を預かり、そのまま中身を確認する。
「いやあ、仕事を依頼した儂が言うのもなんだが、お主らのやることは想像の斜め上を行っておるな。まあ、あの勇者がおる限り、想像することも無意味のようじゃがな。
前置きはこれくらいにして、仕事の話をする。今回の依頼は海軍としての依頼じゃからギルドで受け付けをする必要はない。だが、ギルマスを呼んで「ゴーストの代理で来た」と言え。調査資料を渡してもらえる。なぜギルドに調査を依頼したかは聞かんでほしい。恥ずかしいことじゃが、身内も信じられんのじゃ。今回もよろしく頼む。
ゴーストより」
まあそうだろうな。ヤマット大将の苦労も伺える。
「すまないが、ギルマスを呼んでくれ。ゴーストの代理と言えば分かるはずだ」
★★★
すぐに別室に案内され、程なくしてギルマスの男がやって来た。50代の筋肉質の男だった。多分冒険者上がりだろう。
「ギルマスのトッドだ。しかし、驚いたなあ、ゴーストの代理が勇者様御一行とはな。まあ、詳しいことは聞かないってことで、早速本題に入る。現在判明した事項を資料にしているから、それを見ながら説明させてもらう」
資料によると麻薬の密売が問題になり出したのは、2年位前からだった。そして徐々に増え始め、昨年からは一気に件数が増える。スラムを中心に麻薬中毒者による事件が後を絶たず。オーバードーズによる死者も大幅に増えた。
「昨年から異常に末端使用者の検挙件数が増えているが、何か原因があるのか?」
「流石は勇者御一行様だ。いいところに目を付けたな。これは想像だが、大口の取引先が潰れ、そのブツがこっちに流れて来たんじゃないかって、俺は睨んでいるんだ」
「推測で構わないが、その大口の取引先ってどこだ?」
「ボンジョール王国の王都バリスのスラムだ。2年前から薬物犯罪だけでなく、大幅に犯罪件数全体が低下しているんだ。どういう施策を取ったのかは分からんが、王国の連中が優秀な奴でも雇ったんだろう。本当に羨ましいかぎりだ。帝国にも、そんな奴がいれば、ここのスラムもちっとはマシになるのにな」
その優秀な奴は、帝国の元軍人だけどな。
大体話は見えて来る。帝国のボンジョール王国に対する弱体化工作の一環だろう。麻薬を蔓延させて、犯罪発生数を増やし、地味に国力を削ごうとするなんて酷すぎるな。ただ、同じ弱体化工作で送り込んだ帝国人に阻止され、ブーメランとなって帝国に返ってくるなんて、本当に皮肉なもんだ。
「クリスタ連邦国とかはどうなんだ?」
「あそこは昔から、麻薬の取締りに関しちゃ世界一かもって言われてるから、大口の売人や密売組織は近寄らないぜ。薬中になって正常な判断ができない奴らが少量持ち込むくらいだが、それも全部捕まっているらしいぜ。それに女王陛下は薬物犯罪に厳しいらしいから、俺が売人だったとしても絶対に近寄らないぜ。資料にもあるとおり、例年どおりだ」
まあ、俺達の船にはその優秀な捜査官がいっぱいいるんだけどな。
少し誇らしくなる。
「ここまでは、帳面をめくれば誰でも分かることで、これで大金を貰ったんじゃあ冒険者ギルドの名が廃る。だから冒険者を使って、末端の売人を締めあげたりして分かったことなんだが、権力者とつながっているし、それも大物のようだ。捜査機関の中にも内通者がいる。せっかく勇者様がいるんだ。何とか組織を潰してくれ。そのためなら、何でも協力する」
ここでドヤ顔を浮かべて勇者は言った。
「もちろんだ!!密売組織も何もかも、僕が勇者砲で海の底に沈めてあげるよ」
「そいつは頼もしい!!やっぱり勇者様だ。それで別件で悪いんだが、サインも何枚か書いてくれないか?」
「そうだね。忙しいけど書いてあげるよ」
お前は忙しくないだろ?
★★★
クリスタリブレ号に戻り作戦会議を行う。
「ミケ、悪いが船から降りてスラムを中心に陸での調査をやってくれ」
「了解ニャ」
「危険かもしれないから、アデーレ、ミケの護衛を頼めるか?」
「お任せを」
「ゴベル、コボル、ブーイ、久しぶりの麻薬捜査だ。初めての奴もいるから、よく指導しておいてくれ」
「「「了解!!」」」
「セガス、取締りに使う帝国法を資料に・・・」
「こちらでございます。準備できております」
優秀過ぎて、少し怖いんだけど。
「ザドラ、いつもどおり馬鹿が海にブツを捨てるかもしれんから、そのときは頼むぞ」
「了解」
「リュドミラ、ベイラは、何か不測の事態があれば対処できるようにクリスタリブレ号で待機だ。場合によっては俺の代わりに指揮を取ってもらう」
「了解ッス」
「了解」
「ハープは空からの偵察。不審船や検問を回避しようとする船がいれば教えてくれ」
「分かっているよ~」
大体の指示はこんなもんだ。場所が帝国ってだけで、今までやって来たことと変わらないからな。そんなとき、また馬鹿がが騒ぎ出した。
「ちょっと僕たちを無視するな!!死んでほしいのか?」
「無視はしてない。一度俺達のやり方を見てもらってから決めようと思っていたんだがな。まあ、ある程度の構想はあるけどな」
「それでいいから教えろ!!」
「じゃあ、デイジーはコボルト達の護衛だ。反撃してでも逃げようとする奴がいるからな。ニコラスはポチが戦力になるかどうか見極めるため、コボルト達と一緒に行動して欲しい」
「分かった」
「もちろんだよ。頑張ろうね、ポチ」
デイジーの武力は当てにしているが、ポチにはあまり期待していない。まだ子犬だし、それにすべての犬に適性があるわけじゃないしな。まあ、それっぽくしてウロウロさせれば、相手がビビッてボロを出すこともあるからな。
ただ、ポチは普通の子犬よりもかなり賢い。こちらの言葉が少しは理解できているようだしな。駄目元で使ってみるのも面白いかもしれない。
「マルカは鑑定士だったよな?鑑定士としての仕事を頼めるか?」
「まあ、そうなるでしょうね」
帝国法では、鑑定士の資格を持った者が認定して初めて、違法薬物と認定され、逮捕することができる。なので、重要な鑑定士としての役目を頼んだ。因みにクリスタ連邦国での麻薬鑑定士の資格持ちはコボル隊長を含めて現在5人いる。ここは帝国だからその権限は使えないけどな。
「それで勇者様は、全体的な監督をしてもらいたい。基本的には俺の側に居て欲しい」
勇者はトラブル防止のため、名ばかり監督とした。
「そうか・・・・船長も不安なんだね。まあ、僕が側に居れば安心だね。勇者で監督ってカッコいいな」
勇者は上機嫌になった。
このまま、煽てながらトラブルを起こさせないようにしないとな。
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