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27 旅立ちの日に

セレモニーも無事に終了し、それぞれが別れの挨拶をしている。

そんなとき第三王子が声を掛けてきた。


「少しいいかな?君と話がしたい」


まあ、断ることなんてできなんだけどな。


「君はポコ総督が言っていたとおりの男だったな。私の思惑を見破り、直前で計画を変更するとはな・・・」


「私は言われたところに船を進めていたでけですよ。すべては勇者様の策略です」


「馬鹿勇者にそんなことができるわけがないだろう。私は怒っているわけじゃないんだ。むしろ感心しているんだ。あのまま、あそこで多くの帝国兵が死んだとする。それは将来に渡って大きな禍根を残すことになる。それは巡り巡って戦争の火種になり、ボンジョール王国の兵士も国民も多く死ぬかもしれない。帝国への憎しみで、短絡的な手を打ったことを反省している。君の方法が一番良かったのかもしれないな」


「我がクリスタ連邦国にとって、最適な手を打っただけですよ。だっていくら強力な軍隊でも、クリスタ連邦国には、船が無ければ来られませんからね。まあ、ドラゴンにでも乗ってくれば別ですけど」


「クリスタ連邦国だけが得をしたわけではないぞ。帝国も軍艦は失ったが多くの兵士の命が助かったし、我々も多くの利益を得たからな」


「ええ、それにしても戦後の処理は見事でしたね。向こう10年は帝国はボンジョール王国に攻めてきませんよ。それに殿下が、なぜポコ総督と懇意なのか分かりました。殿下もかなりの腹黒ですよね?」


「まあ、王族なんてみんなそんなものだ。話せてよかったよ。これは個人的な君への贈り物だ。好きに使ってくれ」


王子が渡してきたのは宝箱だった。その中には多くの紹介状が入っていた。


「私は第三王子だから外遊は多くてね。それなりに他国には知り合いが多いんだ。これを見せれば、それなりの対応をしてくれると思うよ」


「それは有難いのですが、馬鹿勇者が大暴れして、殿下の信用を損ねるようなことになるかもしれませんよ?」


「それぐらい覚悟しているよ。

最後にポコ総督は君のことを『勇者を舵の壊れた暴走船とするなら、その船を留め置くイカリだ』と評していたよ。これに私も付け加えるとするなら『勇者より勇者のような船長』だな。

長話が過ぎた。君達の航海の無事を祈る」


そう言うと第三王子は去って行った。

俺が勇者のイカリで、勇者よりも勇者のようだって?ただの船長に多くを求めすぎじゃないのか?



ふと勇者パーティーを見ると多くの者達にまだ囲まれていた。その中心にはマリー王女がいる。


「ポチ、元気でね。勇者様たちに可愛がってもらうのよ」


「大丈夫ですよ。僕が責任をもって面倒を見ます。マリー王女にもモフモフさせていただき・・・・」


間一髪でデイジーがニコラスを抑え込んだ。今後はニコラスも要注意人物の一人として見なければいけないな。


ポチというのはニコラスがもらった子犬だ。マリー王女が外遊先で行き倒れになっているポチを発見して保護したそうだ。流石に野良犬を王宮で育て続けることはできないので里親を探していたそうだ。ニコラスも喜んでいるし、良かったと思っている。


「勇者様、私も勇者になりたいです。どうやったらなれますか?」


「勇者は辛く厳しいよ。みんなの為に命を懸けて戦わないといけないときもあるんだ。マリーにその覚悟はあるかい?」


「はい、もちろんです」


「だったら君は、もう立派な勇者だ」


マリー王女の顔がとびきりの笑顔を浮かべて、勇者に抱き着いた。


柄にもなく、少し勇者っぽいと思ってしまった。


「船長どうしたの?僕の顔に何かついてるのかな?」


「いや、少し勇者っぽいなと思っただけだよ」


「ぽいって・・・僕は本当の勇者だぞ。失礼なことを言うと死んでやるからな」


「物騒なことを言うな。勇者のイメージが壊れるぞ」


「そうだね。マリー、今のは冗談さ。お別れのモフモフをさせてくれ」




その後、別れの挨拶を済ませ、機嫌の良くなった勇者を乗船させ、俺達はバリスを出港した。グレイティムール大帝国帝都ベルダンへと。



★★★


~勇者アトラ研究者の論文より抜粋~


勇者アトラは世界平和に多大な貢献をした。それは今回紹介するボンジョール王国においてもだ。この地では、バリス爆弾テロ事件を計画段階で潰し、さらに凶悪なサウザン海賊団を壊滅させるという偉業を成し遂げた。この偉業については、多くの研究者が研究しているところであり、本稿では詳しくは触れない。


本稿は、勇者アトラが残した知られざる功績を考察している。主なものは下記のとおりだ。今ではお馴染みのものばかりだが、当時は革新的なことで、勇者アトラが存在しなかったと仮定するならば、これらのものが誕生することはなかったであろう。


万国旗

勇者アトラの船には、活動を支援する国の国旗が掲げられていた。彼女の船に国旗が掲げられることは大変名誉なことであった。これは後年、船乗りたちの間で勇者アトラにあやかり、航海の安全を祈願して多くの旗を取り付けることが流行した。国籍や所属を表す旗を掲げることは国際法で取り決められているので、関係のない多くの国旗を取り付けると違反となる。よって、小さな国旗をいくつもロープに括り付けることにしたようだ。これが万国旗の始まりである。

万国旗には世界平和を願う勇者アトラの思いが込められているのだ。


シェフの階級制度

勇者アトラは美食家としても知られている。料理人は正当な評価を受けていないと感じた勇者アトラは、彼女が認めた料理人に金塊や宝石を手渡して、称賛したそうだ。これがシェフの階級制度となったのだ。「あそこはゴールデンシェフの実力がある」や「サファイヤシェフも落ちたものだ」という会話を日常的にしていると思うが、これも起源を遡れば勇者アトラに行き着くのだ。バリスで最初に宝石を授与されたシェフ達が今日の「美食の町バリス」の礎を築いたことからも、彼女の舌は確かだったようである。


格言「船を沈めて、兵を助く」

これも有名な格言だ。サウザン海賊団を全滅させた作戦で、当時最新鋭の軍艦を多数犠牲にして、兵を助けたことに由来する。人命最優先の格言として知られ、為政者や経営者の心構えの基本とされている。


気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!


今回で第二章は終了です。第三章は「麻薬捜査官アトラ」です。お楽しみに

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