26 それそれの思惑
サウザン海賊団は壊滅した。
人的被害は海兵隊員が数名の重傷者を出しただけであったが、艦船の被害は甚大であった。5隻中4隻の最新鋭艦が廃艦となり、新設されて歴史の浅い海兵隊には大きな痛手となった。敵地に上陸しての制圧がその任務だが、足を奪われ、物理的に敵地に乗り込めない事態に陥っているからだ。
一海賊団との戦闘で軍艦4隻を廃艦にしてしまうような指揮官は、クリスタ連邦国でもボンジョール王国でも軍法会議に掛けられ、間違いなく処刑されるだろう。しかしそうはならなかった。
「グレイティムール大帝国海兵隊准将フーラス・レオ―ル殿。貴殿をボンジョール王国名誉少将に任命する。この度の働き、大変見事であった。ボンジョール王国国民を代表して礼を言う」
「有難き幸せ、謹んで拝命させていただきます」
俺達はボンジョール王国の王宮に招かれ、国王から褒賞を順番に受け取っている。
本当に上手い手を考える。
名誉少将なんてボンジョール王国では何の権限もないが、これじゃあ帝国は、レオニール将軍を処罰できない。それどころか、准将から少将に昇格させなければならない。通例としては、同階級の名誉階級を授与するか、予め昇格が決まっている者に一つ上の名誉階級を授与するのだが、いきなり一つ上の名誉階級を授与してしまった。
「コム―ル大臣すまないな。余はこの度のことに感動して、勢いでこうしてしもうた」
「いえいえ、大変名誉なことですから・・・・」
コム―ル大臣は引き攣った笑みを浮かべている。国王も謝っているが確信犯だろう。
海兵隊は名目上、陸軍と海軍に遠慮する形で、最高位を中将としている。なので、少将ともなれば海兵隊で5本の指に入る程の実力者になる。レオニール将軍は決して無能ではないのだが、少将には役者不足だ。俺としては100人規模の中隊長位が適任だと思っている。それならば、あの暑苦しさも向こう見ずなところも、面倒見の良さでカバーできるのだろうが・・・
なので、海兵隊の上層部の考えでは、ボンジョール王国の騒乱で責任を取らせて引退させるか、始末する予定だったのだろう。「真に恐れるべきは無能な何とか」ってやつだ。
しかし、結果は階級を上げて帰ってくるという予想外の事態となる。海兵隊の上層部も、さぞ焦っていることだろう。
それにレオニール将軍は、ここまでしてもらったボンジョール王国に攻め入ることになったら、大反対するだろうしな。海軍、陸軍、そして海兵隊の少将が反対するなら、流石にボンジョール王国と戦争はできない。
「グレイティムール大帝国海軍中尉デニス・スコールズ殿。貴殿もよくやってくれた。我が軍との秘匿の作戦任務ご苦労だった。バリス爆弾テロ計画を防いだのは貴殿達の功績だ。グレイティムール大帝国からも報奨金が届いている。これを授与し、引き続き我が国とグレイティムール大帝国との橋渡しになってもらいたい」
大人の事情だ。
領事館を中心にテロを計画し、更に現役の軍人を海賊として送り込んでいたことを表沙汰にしたくない帝国は、多大な譲歩と引き換えにスコールズ中尉たちが当初から、ボンジョール王国軍と共同で作戦任務に当たっていたということにしたのだ。
この報奨金も、報奨金という名の退職金と口止め料だ。
スコールズ中尉達は優秀なので、引く手あまたらしい。スコールズ中尉は第三王子の側近になることが決まっている。帝国にとったら、彼らを失ったことが一番の損失だろうな。
「勇者アトラ・ルース殿。貴殿には勇者劇団の名誉代表に任命し、その収益の一部を貴殿に贈与する。更に貴殿が認めたシェフ達の店、並びにその支店においては、すべて無料でサービスを受けることができる。国際情勢から考えて我が国だけが多大な褒賞を与えるわけにはいかないのだ。分かってほしい」
「やったあ!!演劇見放題、料理食べ放題だ!!」
勇者は演劇好きでもある。その所為で物語の主人公のつもりで現実世界も生きようとするので、一緒にいるこっちは堪ったもんじゃないんだけど。
これにも思惑がある。演劇を通じて、情報操作ができるのだ。ましてや勇者のお墨付きの劇団であるので信憑性も高くなる。実際、今回の海賊討伐劇も美談として、すでに上演されており、帝国での公演も予定されている。そうなれば勇者と共に戦ったレオニール将軍の発言力も大きくなるというわけだ。
食べ放題の関係はおまけみたいなものだろう。ただ、シェフたちにとっては大きな宣伝効果となる。大喰いの勇者がいくら食べたところで安いものだ。本人は大喜びしているのだが。
「満足していただけたようで、余も嬉しく思う。他に望みがあれば言ってくれ。できる範囲で叶えよう」
「そうだなあ・・・うーん・・・」
そこは、遠慮するところだろうが!!
そう思っていたら、予想もしないことを言い出した。
「だったら僕のバーティ―メンバーにも何かあげてよ。僕は仲間思いな勇者なんだ!!」
仲間思いな奴がネックレスを取りに帰るという理由だけで、惨殺したりしないとは思うのだが・・・・
勇者パーティーのメンバーは個別に聞かれている。マルカは魔導書、ニコラスは子犬をもらっていた。因みにマルカは人体実験用に海賊を何人かほしいと要望したようだが、当然却下されていた。デイジーの要望はよく分からなかった。回答は少し保留にしてくれとのことだった。
そしてなぜか俺のところにも・・・・
「船長殿も活躍したと聞いている。申してみよ」
となりで馬鹿勇者が「船長は違うって言えばよかった」と小声でつぶやいている。
特にこれといって欲しい物はないんだけどな。少し考える。
駄目元で言ってみるか!!
「できれば、勇者パーティーの船にクリスタ連邦国旗とドレイク領旗を掲げる許可をください。帝国旗の横でも構いません」
「そんなことでよいのか?余は許可しようと思うのだが・・・コム―ル大臣はどう考える?」
「そうですね・・・はい・・・・えっと・・・」
事情を知っているコム―ル大臣は悩む。そりゃあ、国内向けには、「クリスタの亡霊」を配下に置いたと喧伝しているからな。
ここで意外な人物が声を上げる。第三王子だ。
「父上!!素晴らしいではありませんか!!何なら我が国の国旗も掲げてもらいましょう。そうすれば、世界各国が協力して勇者殿を支えているというシンボルとなり、世界の平和、打倒魔王に向けて一致団結する足掛かりとなるでしょう」
「そうだな!!それは素晴らしい。クリスタ連邦国旗とボンジョール王国旗を掲げるのは勇者殿が出発する日としよう。勇者殿の英雄譚の名シーンとなる式典にしようぞ!!コム―ル大臣よ如何か?」
「は、はい。それは素晴らしいと思います・・・・はあ・・・」
この流れで断れないだろうな。旗を掲げる掲げないで揉めて、これまでの交渉がすべて駄目になったら目も当てられないしな。
★★★
そして、バリスを出発する日が来た。
大々的にセレモニーが開かれている。芸術の町だけあって、バリス市民はこういったことが大好きなようだ。もちろん王家の人間も。
セレモニーで、帝国旗と聖神教会の旗に並ぶようにクリスタ連邦国旗、ボンジョール王国旗、ドレイク領旗が掲げられる。帝国旗や聖神教会の旗は邪魔に思えるが、感慨深いものがある。少し目頭が熱くなる。水夫達も泣いている。
勇者は・・・・
「旗がいっぱいだあ!!旗がいっぱいでカッコいいなあ、僕の船は本当にカッコいい」
クリスタリブレ号を気に入ってくれて嬉しくは思うが、この船はお前の船ではないからな。あくまでレンタルみないなものだぞ。乗員付きのな。
そんな思いを抱えながら、セレモニーは進行していく。
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