24 サウザン諸島へ
どうも気になる。スコールズ中尉の浮かない表情もそうだ。冷静に考えてみる。
普通ならサウザン海賊団は、こういった戦力で、軍艦が何隻、魔道砲が何問、兵力は何人とかの話をするのだが、孤児の話や如何に海賊団の親玉のニックが残忍かという話しか、スコールズ中尉にさせなかった。
第三王子が言う。
「勇者殿もレオニール将軍も行ってしまわれた。我が軍も派遣して共同作戦を考えていたのにな・・・無理に我が軍が参加したら、勇者様の不興を買ってしまうだろうし・・・」
「それでは、ボンジョール王国軍は出してもらえないということでしょうか?」
「そうだな。我々も勇者殿の要請があれば考えるが・・・観戦武官の派遣に留める予定だ」
今ので分かった。これは意趣返しだ。
帝国は自他ともに認める侵略国家だ。その定石のひとつに相手国の対立と分断を煽るというのがある。一枚岩の国なんてまずない。例えば第一王子派もいれば第二王子派もいる。工業推進派もいれば農業重視派もいる。そこに付け込み対立を煽る。場合によっては武器や資金を融通する。そして、対立が激しくなり、内戦にでもなればしめたものだ。治安維持の名のもとに出兵して領土を搔っ攫う。そこまでいかなくても有利な条件を呑ませることもできる。
今回は、レオニール将軍の海兵隊もサウザン海賊団も帝国人がほとんどだ。帝国人同士で、盛大に殺し合いをさせたいのだろう。だから双方に多くの被害が出る全面衝突を選択させたかったんだな。ここまでは成功している。スコールズ中尉もサウザン海賊団の壊滅作戦には賛成だが、帝国人同士が大勢死ぬのは望んでないのだろう。それが顔に出ていた。
コム―ル大臣を見ると、諦めの表情を浮かべている。大臣としては、少しでも帝国軍の被害を減らし、願わくば、ボンジョール王国軍を前面に出して戦わせようとでも思っていたのだろう。
俺も帝国は大っ嫌いだから、いい気味だと思う気持ちもある。ただ、ここで馬鹿勇者の顔が頭に浮かんだ。自分の所為で大勢の人が死んだら、どう思うだろうか?「責任を取って死ぬ!!」とか言い出すだろうか?
そうなったら、被害を被るのは俺だ。決して勇者のためではないが、この作戦を少し失敗させてやることにした。
「ちょっとすいません。具体的な戦力、それに魔道砲の位置、敵の主力艦などについて詳しく教えてくれませんかね。不死身の勇者様と違って、俺たちの命は一つしかありませんからね」
スコールズ中尉が言う。
「そうですね。具体的には・・・・・」
なるほどね。だったらやりようがある。
★★★
ということで急かす勇者を何とか宥め、やって来たのはサウザン諸島ではない。スコールズ中尉が率いる海賊団に襲撃を受けたあの小島だ。
「何で、こんな島に一々寄らなくちゃならないんだ?僕に死ねってことか?」
「さっき説明しただろうが、ここでレオニール将軍達の部隊を別の船に乗り換えさせるって」
「もう正面から攻めちゃえば、あっという間でしょ?」
「お前はそれでいいかもしれんが、他の奴は命は一つだ。生き返ったりはしない。そのことを忘れるな」
「分ったよ。なるべく早くしてよね。そうしないと間違いなく死ぬからね」
後はもう一人の馬鹿を説得しないとな。
「レオニール将軍、調子はどうですか?」
「どうもこうもない。なんでこんな島に停泊するのだ?作戦では正面から上陸して殲滅するはずだ」
「それがですね。勇者様は内通者の存在を疑っていまして・・・信頼できるのはレオニール将軍だけだと勇者様は仰っていました」
「それは本当か?嬉しい限りだが、内通者がいるのか・・・」
内通者がいるとは言っていない。疑っていると言っただけだ。把握していないが、実際に主戦派の息のかかったのはいるだろうし。
「そうなんです。それで相談なのですが、これ以後は、指示があるまで勇者様とは接触しないでいただきたいのです」
「なんだと!!それはなぜだ?」
「これも勇者様の発案なのですが・・・・」
俺が話した内容はこうだ。
馬鹿勇者とレオニール将軍が仲違いしたことにする。当初は勇者もレオニール将軍の軍艦に乗る予定だったのだが、癇癪を起した勇者は俺の船に乗り込んで先に出航してしまった。レオニール将軍の軍艦5隻は兵士を満載して、魔道砲もこれでもかと言うくらい詰め込んでいる。のろまな亀と言われるくらいに船足は遅いので追いつくことはできない。そこで、補給艦として従軍していたバリス海賊団から接収した5隻の船に乗り換えて勇者を追うという筋書きだ。
そして、これが作戦の肝となるのだが・・・・
「しかし・・・これでは・・・・」
「勇者様は人命を第一に考えておられます。ご協力を!!それに物語として考えたら、多くの兵の命を散らした将軍と船の損害を顧みず、多くの兵の命を救った将軍、どちらが物語の主人公として相応しいでしょうか?」
このレオニール将軍は物語の英雄に憧れる少年のような心を持っている。まあ、暑苦しいおっさんだけど。
「分かった、ネルソン殿。我は兵の命のためにこの首を懸ける」
まあ勇者よりもこっちの馬鹿のほうが扱いやすい。それに悪い奴ではないから、それなりに慕っている兵士も多いしな。
頃合いを見て、クリスタリブレ号は出発した。
いつも以上にゆっくりと進む。帝国軍に追いついてもらわなければならないからな。
出発してすぐ、また勇者に絡まれた。
「ちょっと、何か企んでるでしょ?教えてくれないと死ぬよ」
「説明しようとしてもお前が話を聞かないから仕方ないだろ」
「そこはもっと僕のことを褒め称え、尊敬の念を込めながら話さないと。船長の努力が足りないんだ」
「デイジーやマルカ、ニコラスには説明してるぞ。聞いてないお前が悪い」
「僕が悪いとか言うな!!船長が悪いんだ。謝れ!!」
「はいはい、私が悪うございました。作戦の説明をさせてもらってもよろしいでしょうか?」
「分ればいいんだ。説明を聞いてあげるよ」
本当にコイツは面倒くさい。「作戦を教えてください」と一言いえば済む話なのに・・・・
そう思いながら説明を続ける。
「今少し、僕を馬鹿にしたよね。死んでもいいだけどなあ・・・」
魔王が復活するなら、早く復活して欲しい。もう限界だ。早く討伐に行きたい。
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