23 サウザン海賊団壊滅計画
コム―ル大臣が言う。
「王子殿下!!すぐに謝罪に伺おうかと思っておりましたが、到着したばかりで大変忙しく・・・・」
「そうかな?呑気に食事会を開いているようだけど?因みに今日の食事会のシェフは、私のお抱えだからね。謝罪の前にこんなことをさせられるなんて少し腹が立ったけど、シェフが勇者殿にプラチナダイアモンドシェフに認められたから、許してやろうとは思うが・・・」
第三王子は、帝国使節団の切っ先を制するためにここに乗り込んできたんだ。この食事会も裏で企画していたのだろうしな。
だが、いい手だ。「こんな事態を引き起こしたのに、謝罪にも来ないで呑気に食事会を開いている」と喧伝できるし、勇者を娘のマリー王女を使ってまで手懐けているからな。
「勇者殿、先程してくれた話をみんなにもしてやってくれないか?私はいい案だと思うんだが」
「ああ、我ながら名案だと思ったね。つまり僕達勇者パーティーと、こちらのレオニール将軍の部隊で海賊団の拠点に正面から殴り込みをかけるんだ。なんでも、レオニール将軍の部隊は「殴り込み部隊」って呼ばれているらしいから、打って付けの任務だと思うんだよ。適材適所は兵法の基本だからね」
「まさに勇者様は名軍師だ!!我々のこともよく分かっていらっしゃる。上陸して敵を殲滅するのが、我らが海兵隊ですからな」
コム―ル大臣は諦めの表情を浮かべていた。
「それで明日、サウザン海賊討伐作戦の会議を行うから、我が屋敷を訪ねてきてくれたまえ。コム―ル大臣、異論はあるかな?」
「ありません。討伐作戦は我が国も全力でサポート致します」
★★★
俺たちはコム―ル大臣やレオニール将軍達と共に第三王子の屋敷に向かう。早速会議が始まる。
「まずは敵戦力の分析だが、スコールズ中尉、説明してやってくれ」
根が真面目なスコールズ中尉は第三王子の信頼を得ているようだった。
「少し脇道に逸れますが、まずは海賊組織の成り立ちについて話します。当初はサウザン諸島を根城にするサウザン海賊団しかいませんでした。このサウザン海賊団は帝国領内で賞金首となっている海賊や盗賊、海軍や陸軍で素行が悪く強制除隊となった者達をスカウトし、地元の海賊を抱き込む形で発足しました。当然そんな奴らを集めたのですから、上手く行くはずはありません。作戦行動など無理です。好きに暴れるだけですからね。普通の海賊と違う点は、帝国船籍を襲わないことくらいで、それ以外は普通の海賊よりも酷い。私掠免状という帝国のお墨付きを得ているのですから、やりたい放題です。
そこで、私たちが少しでもその状況を改善させるため選ばれたのです」
スコールズ中尉が言う私たちとは、バリスの海賊団の各団体のトップのことだ。既に拘束されているが、全員にある特徴があった。陸軍か海軍に所属の軍人で、勤務態度が真面目で優秀、そして何か弱みを抱えている。スコールズ中尉の場合は娘さんの病気だった。
「私たちも軍人です。いくら敵国といっても無差別に民間人に迷惑を掛けたくはない。なので、獲物を限定して海賊行為をすることにしました。サウザン諸島に向かう商船で、護衛も付けずに1隻で航行している船ですね。そんな無防備な者たちなら、すぐにサウザン海賊団に皆殺しにされてしまいます。それならばということで、私達が海賊行為を行い、『次からは注意して、キチンと護衛の船を雇え』と叱りつけて帰らせていました。完全に騙されてしまいましたが、勇者様の船を襲ったのも、浮かれ切っている若い姉弟を厳しく叱ってやるつもりだったのですがね。
まあ、どう言い訳しても海賊行為をしていたことは消えませんが」
因みにバリス海賊団のメインの収入は海賊行為ではなく、商船の護衛料だ。流石にサウザン海賊団も同じ帝国の私掠船の彼らが護衛していれば襲ってこない。マッチポンプ的な感じだが、賢いやり方だ。
ここで第三王子が捕捉する。
「因みにだが、スコールズ中尉達がバリス海賊団を結成した3年前から、バリスのスラム街の犯罪率も海賊被害もかなり減少しているんだ。スコールズ中尉達がスラムの職にあぶれた若者を軍隊式で鍛えてくれたお陰だろうし、護衛料をケチる商船が減ったことも要因だろうな。私としては十分減刑の理由になると思っている」
スコールズ中尉が続ける。
「当初は上手くいっていましたが、昨年頃から話が変わってきました。サウザン海賊団が私達のやり方に文句をつけてきたのです。それはそうです。私達の所為で自分達の実入りが減っているのですから。
要求としてはもっと上納金を増やせということでした。サウザン海賊団に一端資金を集め、それを本国に送金するというのが建て前ですが、実際はすべて着服していたと思います。更に私掠免状が廃止されて、海賊行為に正当性が無くなってからは要求が酷くなりました。そして、サウザン海賊団のボスが、起死回生の一手として、町や村を襲撃して、略奪すると言い出したのです。
もちろん反対しました。しかしボスは、今度は本国と連絡を取り、『もっと支援しろ。そうしないと今までの悪事をバラす』と脅して、武器と資金の援助を引き出しました。更にどうせなら島ごと乗っ取ってしまおうという話になって、本国もこれを承認して追加の支援も来ました。なので、並みの軍隊よりもいい装備をしています。
最後まで反対していた私達は、サウザン諸島の独立作戦ではなく、バリスのテロ活動に回されることになったのです。流石に子供達にそんなことはさせられませんので、引退させることにしていたんです」
話を聞くとスコールズ中尉達は、本当に優秀な軍人だと思った。こんな人材を使い潰す帝国は何を考えているのだと、他国の人間でも思う。まあ、人命軽視は帝国の伝統だろうけど。
「ところで、そのボスってのは誰だ?話からするとそこそこ優秀なんだろ?」
「そうですね。元帝国陸軍大尉の二ック・アンダーソンという男です。陸軍時代から・・・・」
そこで大声を上げる人物がいた。レオニール将軍だ。
「なんだと!!首狩りニックだと?」
「レオニール将軍は陸軍出身でしたね。まあ、海軍の私でも知っているくらいの有名人ですから」
首狩りニック。
武勇も指揮能力もある優秀な軍人だったらしいが、性格は残忍で問題行動も多かったそうだ。
レオニール将軍は言う。
「我が帝国は侵略国家だ。だからこそ、捕虜の扱い、降伏をしてきた村や町には法に則って適切な措置を講ずることが厳しく指導されている。だが首狩りニックは違った。面白半分に無抵抗の住民を虐殺していた。しかし、発覚するまで時間を要した。なぜなら、村ごと住民を皆殺しにしていたからだ。処刑されたと聞いていたが・・・もう許せん。あいつは陸軍のみならず、帝国軍人の恥だ。
勇者様、頼みます。どうか私に奴を討ち取る機会をお与えください!!」
「そんなに悪い奴だと言うんなら、放っておけないな。すぐにでも乗り込もう!!この際細かい作戦はいいや。正面から突撃だ!!」
「流石は勇者様!!地獄の底までお供いたします」
「気持ちは分かったよ。でも地獄に行くのは君だけだけどね。よし!!船長、明日にでも出発だ。準備をしておいてくれ」
「明日は流石に無理だ。それに相手の戦力についてはまだ、詳しくは聞いてないしな」
「だったらいつになったら行けるんだよ?」
「どんなに頑張っても3日後だな」
「分ったよ。それでいいよ。でも少しでも遅れたら死んでやるからな。
そうだ!!今日も食事会だった。僕は帰るから、後の細かいことは頼むよ。まあ、僕がいれば作戦なんて必要ないんだけどね」
「勇者様、我もお供いたします。期日と攻撃目標があれば、我も同じですからな」
勇者とレオニール将軍は勝手に帰って行った。
ふとスコールズ中尉を見ると少し暗い表情をしていた。
これは第三王子に嵌められたな。
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