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22 使節団到着

「・・・・つまり、僕が海賊船を沈めまくってね。海賊を降伏させたんだ!!それだけじゃあ、終わらないよ。更に裏で糸を引いていた領事館に乗り込んだのさ。手荒なことはしたくなかったけど、激しく抵抗するから、仕方なくやって来た衛兵をばったばったとなぎ倒し、不正を暴いたんだ!!」


今、使節団を前に領事館の応接室で、ボンジョール王国での活動を熱く語っているのは、青髪、青目の美少女、大馬鹿鬼畜勇者ことアトラ・ルースだ。8割以上真実と異なるが、この際どうでもいい。だって、視察団のコム―ル外務大臣以下は全く聞いていないのだから。

それよりも俺たちが作った資料を見て青ざめている。そりゃそうだろう。何年もかけて育ててきた組織は壊滅、果ては「王太子暗殺計画」まで発覚してしまったのだからな。


ただ、一人だけ勇者の話を熱心に聞き入る人物がいた。大柄な体で暑苦しい感じのするレオニール将軍だ。勇者の話に相槌を打ち、感嘆の声を上げている。


「勇者様と一緒にこの地に来られなかったことが非常に悔やまれます。一緒に来られてさえいれば、我々も勇者様の英雄譚の一端に加えていただけたのに・・・」


お世辞ではなく、心底悔しそうだ。


このレオニール将軍は、海兵隊の准将だ。海兵隊は、主戦派が作った、陸軍でも海軍でもない新たな組織で、敵地に上陸しての制圧をその任務としている。平たく言えば、「殴り込み部隊」だ。創設のきっかけはクリスタ連邦国との戦争だった。主戦派は敗戦の理由の一つに陸軍と海軍の連携不足を挙げ、その対策として、陸軍と海軍の戦力を併せ持った海兵隊を新設したというわけだ。

これには穏健派のノーギー大将とヤマット大将が陸軍と海軍のトップになったことも大きい。陸軍と海軍ともに反対されれば、流石に戦争なんてできないからな。

それで、主戦派は陸軍や海軍を使わずに独自の軍事行動が行えるようになったというわけだ。

そんなことがヤマット大将の手紙に書いてあった。


そしてこのレオニール将軍は、陸軍から移籍した男で、二つ名が「クレイジーボア」と言うくらい、猪突猛進タイプなのだ。少し話をした感じは、素直で真面目だが、考えなしに突っ走る暴走男といった印象を受けた。

ただ死にたがりの爆弾女とは相性がいいようで、意気投合している。


「大丈夫だよ。これからサウザン海賊の拠点を叩きに行くからね。そこに君も一緒に来ればいいんだ」


「なんと有難い!!我々海兵隊の力を見せつけてやりましょう!!」


「よし!!そうと決まれば明日にでも出発しよう。船長!!準備を頼むよ」


主戦派はこの馬鹿二人が化学反応を起こして暴発することを期待して送り込んだのだろうが、逆に自分達が被弾するとは皮肉なもんだ。サウザン諸島の独立作戦ももう成功しないだろうし。

だが、流石に明日攻め入るのは無謀すぎる。


「明日は食事会があるとか言ってなかったか?有名シェフが来るんだろう?」


「そうだいけない、忘れていた。それに今日もこれから食事会だった。レオニール将軍も一緒に来ればいい。勇者が普段どんな物を食べているか興味があるだろう?」


「もちろんです。食事をしながら、海賊殲滅計画でも立てましょう!!」


「君は分かっているね」


計画を立てるのは勝手だが、絶対に採用しないからな。



ここで少し、最近の勇者パーティーの活動をまとめておこう。


領事館は領事以下、不正に携わっていた職員が軒並み拘束された。責任者が誰もいない状態なので、臨時で公爵令嬢である勇者が領事の代理をすることになり、領事館で寝泊まりするようになったのだ。そして、勇者パーティーはそれぞれで活動をし始める。


まず勇者だが、連日有名シェフを招いて食事会をしている。というのも運がいいのか、悪いのか分からないが、デイジーが壊した壁から大量の金塊や宝石が見付かり、勇者は「これはすべて僕のものだ!!取り上げるなら今すぐ死んでやる!!」と言い出して無理やり自分のものにしてしまった。

領事館の職員によると、元々帳簿に記載されていない物品なので、無くなっても問題ないとのことだった。そして勇者は、この隠し財産を使って好き勝手しているのだ。


勇者は顔と体に似合わずよく食べる。マルカが言うには、すべて魔力に変換されているので太らないという見解だった。ダイエット女子が聞いたら羨ましがるだろう。

それで勇者は有名料理人を呼びつけて料理を作らせているのだ。

そしてシェフの料理が気に入れば、気前よく金塊1個をプレゼントしたりするのだ。勇者に料理を食べさせようって考えるシェフなのだから腕は立つ。なので、みるみる隠し財産は減っていった。まあ、元がボンジョール王国から巻き上げた物だから、還元すると思えばいいと思う。


そして、勇者が渡す財宝によって、そのシェフの称号が決定する。

既にゴールデンシェフ、プラチナシェフ、ルビーシェフ、サファイヤシェフ、ダイヤモンドシェフが誕生しているのだ。後々彼らが中心となり、美食の町バリスを発展させていくのだが、それはまた別の話だ。


他のメンバーは勇者の活動に比べたら大人しい。デイジーは衛兵と模擬戦をしたことがきっかけで、バリス中から騎士や冒険者が模擬戦をしにやってくる。それに目を付けたミケが、トーナメント戦を企画して、小銭を稼いでいた。

ニコラスは得意の治療魔法を活用して、孤児や貧民達に無償で治療を行い、マルカは部屋に籠りっきりで、何やら怪しげな研究をしていた。


とまあ、みんな好き勝手に行動しているが、そろそろ今後、どうするかを決めなければいけないだろうな。


★★★


資料を読み終えたコム―ル大臣は口を開く。


「謝罪だ。とにかく謝罪だ。すぐに使者を出せ!!詳しいことは言わずにとにかく平謝りするんだ!!」


文官がこれに反対する。


「そうは言っても、本国の意向も確認しなければ・・・」


「とにかく、もうそういう事態ではないのだ。資料によれば、すべて勇者様がやったことになっている。本当のところは分からんがな。それで、勇者様は新聞記事にもあるとおり、『僕は勇者、不正は許さない』と声明を出している。これで我々が下手に庇い立てしたら、我々も馬鹿どもの一味だと思われるだろうが。

今考えるとおかしいと思ったんだ。日和見派を自認する私がこの国に派遣されるなんてな。この資料を見る限り、テロに合わせて私も始末するつもりだったのだろう。こんな私でも大臣だから、戦争の理由にはなる。それで、すぐに戦争に移行できるように護衛にしては過剰すぎる戦力を押し付けられたのだろう。軍の責任者はあの暴走レオニールだしな。放っておいても戦争になる可能性が高い」


ヤマット大将の手紙によるとコム―ル大臣は、どっちつかずの日和見派だが、バランス感覚に優れた、話が分かる男らしい。だからこそ、主戦派に狙われたのかもしれない。


「だからこそ、一にも二にも謝罪だ。これ以上は傷口を広げたくない。主戦派の尻拭いをさせられるのは業腹だが、国益を考えるとそれが最適だ。それと勇者様をこれ以上ボンジョール王国の関係者と接触させるな。これ以上余計な言質を取られたら大変なことになる」


そんなとき、応接室の扉が開く。


「謝罪の気持ちは分かったが、少し遅すぎないか?真っ先にそちらが出向くのが筋だろうに。こちらは待ちきれずここまで来てしまったからね」


そう言ったのは、第三王子だった。

そして、その後ろにはマリー王女をモフモフしながら勇者が登場した。


「先程まで、勇者殿と食事をしていたのだが、非常に有意義だった。勇者殿は総力を上げて、この国に蔓延る悪の元凶を排除してくれるそうだ」


「そうさ!!悪を打ち倒すのが勇者だからね。マリー、勇者ってカッコいいだろ?」


それにドヤ顔で答える勇者。


当然コム―ル大臣は絶望の表情を浮かべている。


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