21 バリスの大掃除 3
全ての職員が庭に並べられた。ニコラスが怪我人を回復魔法で治療しながら、ロープで拘束していく。
拘束が終わったところで、勇者が門番に問い詰める。
「お前が何をやったか分かっているんだ!!自首しろ!!」
もう逮捕しておいて、自首しろって、コイツは法律の知識が全くないようだ。
「特に・・・あの事ですか?酔って喧嘩をして・・・でもあれは治療費を払って示談に・・・」
「それだ!!次はお前だ。言え!!」
よく分からないが、今度は使用人達を尋問し始めた。何か言うまで、尋問は終わらないので、言うに事を欠いた使用人達は無断欠勤やつまみ食い、仕事をサボったこと等を自供していく。
集まった野次馬たちも困惑している。デイジーとニコラスもどうしていいか分からずにいる。後で聞いた話だが、勇者に「すべて僕に任せろ。僕の指示に従っていたら解決するから」と言われていたそうだ。
これはなんとかしないといけない。
「セガス、何か策はあるか?」
「仕方ないですね。あまり表には出したくないのですが・・・・アデーレ、頼みます」
「承りました」
アデーレは領事館の敷地に入って行く。そこで、尋問中の勇者に声を掛ける。
「勇者様、清掃に参りました。建物内を清掃しても、よろしいでしょうか?」
「いいよ。綺麗にしてあげてね」
アデーレは領事館の建物に入って行った。
庭では、勇者による意味不明な公開尋問が続いている。しばらくして、アデーレが書類の束を持って建物から出て来た。
「勇者様、こちらの「バリス爆弾テロ計画」という書類は捨ててもいいのでしょうか?」
「なんだって!!それをこちらに寄越せ、確認する」
「分かりました。仕事に戻ります」
野次馬達が騒がしくなる。
何を思ったか勇者は、メイドの一人に詰め寄る。
「君がやったんだね。そうだろ?正直に言いなさい!!」
まだやってもないし、どう見ても若いメイドが計画できることじゃないだろう。
すると、そのメイドは泣き出した。
「領事様が『バリスを火の海にしてやれ』って柄の悪そうな人に指示しているのを見てしまって・・・それから怖くて怖くて、どうしていいか分からないし・・・・勇者様助けてください。バリスを救ってください」
野次馬達から怒号が飛び交う。
「帝国のクソ野郎!!」
「バリスに手を出そうとしていたのか!!」
「そうか!!勇者様は、目撃者が話しやすい環境を整えていたのか!!今までの意味不明な尋問は布石だったんだ」
馬鹿勇者は運よく、目撃者を引き当てたようだった。しかも市民たちの評価まで上がった。
しばらくして、またアデーレが勇者のところにやって来た。
「こちらの「私掠船管理簿」と「海賊によるサウザン諸島独立計画」と書かれた簿冊はどうしましょうか?」
「なんだそれは?よく分からないなあ・・・僕はいらないから捨てておくように」
おいおい!!重要な証拠だろうが!!
何を捨ててんだ!!
アデーレは言われたとおり、集まっていた衛兵と新聞記者の前に捨てた。
「なんだこれは!!海賊を裏で操っていたのは、帝国ってことじゃないか!!」
「それに親帝国派の貴族に海賊の資金が流れている。売国奴のクズが!!」
「とにかく報告だ!!我々衛兵クラスでは対処できん」
勇者はというと頓珍漢な質問を繰り返す。
「君達は書類の管理もできないのか?僕の仕事を増やすな!!何が原因なんだ言ってみろ!!」
仕事を増やしているのはお前だろ。アデーレが気を利かせて証拠を持って来て、お前をお膳立てしてくれてるのをいい加減気付けよ!!
アデーレも仕事が早い、次々に書類を持ってくる。
「勇者様、今度はこちらの「王太子暗殺計画」という資料なのですが・・・」
一瞬騒いでいた野次馬も静かになる。王太子まで暗殺しようとしていたのか!!
そうか、王太子と第三王子が反帝国、第二王子が親帝国だからだろう。どうせ、第三王子に罪を被せるとか、そんな感じだろうな。
しかし、馬鹿勇者は事の重大性に気付かない。
「もう一々聞かなくていいから、どんどん捨ててくれていいよ。何なら領事館ごと爆破してもいいくらいだ」
コイツなら本当にやりかねん!!
そんなとき、12時を知らせる鐘が鳴る。
「もうお昼か。食事にしよう。僕達は帰るから君達は各自で反省しておくように」
そう言うと、勇者はデイジーとニコラスを連れて歩き出した。
途中、アデーレが勇者に声を掛ける。
「勇者様、資料につきましては、「資金の流れが分かる帳簿関係」「各種計画書関係」「海賊関係」という風に分別しております」
「そうか、君は優秀だな。ゴミの分別は大事だって言うからね」
そういう意味ではないだろうけど・・・
勇者による領事館襲撃事件はこれで幕を閉じた。誰一人連行することもなく。
★★★
他のアジトへの突入も成功したようで、バリスで活動していた海賊団はほぼ壊滅となった。新聞記事によると海賊団は全部で5団体で、細々と活動していたようで、捕まった海賊達は、テロ計画を知らされ、流石にバリスを火の海にする計画に加担させられなくてよかったと安堵しているようだった。最後にサウザン諸島の海賊を早期に殲滅することが重要であると締められていた。
新聞はすべて、馬鹿勇者を称える記事ばかりだった。新聞を読んでいる俺にドヤ顔で話しかけて来る勇者が、本当にウザい。殺せるものなら殺してやりたい。
「いやあ、インタビューっていうのは疲れるね。面倒くさいから、適当に答えたけどね」
なぜ、「領事館を襲撃に行ったのか?」という問いに勇者は「掃除に行った」と答えていた。適当過ぎると思ったが、新聞記事は称賛していた。
「難しい国際情勢の中、「掃除に行ったら偶々悪事を発見した」と言い張るしかないのだろう。言えないことも多くあるだろうし、余計なことを言えば国際問題に発展してしまう。そこを「掃除」と例えるところは、知性が感じられる。また、メイドを巧みに使役し、証拠資料を押さえた手腕は素晴らしい。
現地で取材したところ、勇者はメイドに証拠資料を「捨てろ」と指示したという。これは絶妙な手で、捨てた物をどうしようが、拾った者の勝手という論理が成り立つ。それが領事館関係者の逮捕につながったことは言うまでもない。勇者について懐疑的な者も多くいる現状だが、勇者に対する評価も改めなければならないと感じる事件であった」
この勇者は運が良すぎる。なぜあんな無茶苦茶しておいて称賛されるんだ?
「忙しいなあ、握手とかサインとか求められるし・・・もう死ぬかもしれないなあ」
ウザいので無視するとまた怒り出した。
「おい!!船長、本当に死んでもいいんだぞ!!真面目に僕の話を聞けよ」
「今死んでも、あそこの教会に転移するだけだろ?別に困らないからどうぞご自由に」
「なんだその態度は!!死ぬぞ!!」
「だ・か・ら!!どうぞご自由に!!」
「いいんだな?5・4・3・・・」
言いかけたところで、怖くなって止めた。ないとは思うが万が一ということもある。まだ自爆対策はしていないからな。
「すいません勇者様、死なないでください。お願いします」
「まあ、分ればいいんだ。それよりも今日は何を食べる?不味かったら死んでやるけどね」
そんな馬鹿の相手をしながら、ふと思った。
そろそろ、使節団が着く。この惨状を見たら、責任者の大臣は卒倒するだろうな。
まあ、俺は大臣になることもない、タダの船長だから、関係ないんだけどな。
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