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20 バリスの大掃除 2

周囲の心配をよそに、勇者はマリー王女を愛でていた。それにマリー王女も懐いている。


「マリーちゃんは可愛いなあ。それっ!!モフモフ・・・尻尾攻撃だぞ・・・・」


「わあ!!勇者様にモフモフされたあ」


羨ましくなったニコラスがマリー王女をモフろうとしたところをデイジーが止めた。


ナイス!!デイジー!!


事情を知らない者からしたら、凄く微笑ましい光景だろうが・・・・


「勇者殿は、大の獣人嫌いではなかったのか?」


「勇者の活動が始まる前までは大嫌いだったけど、最近獣人の良さに目覚めてね。今では、僕のモフモフは獣人たちからも好評なんだ」


周囲から驚きの声が上がる。15分100ゴールドの身銭を切ってまで獲得したスキルだからな。

俺は疑問を口にした。


「ところで、なんでそんなに獣人が嫌いだったんだ?最初船に乗ったときも酷かったしな」


「ああ、言ってなかったっけ?

僕が実験で毎日、何回も殺されていた頃、僕を殺すのはいつも獣人だったんだ。後で知ったんだけど、その獣人は奴隷で、お風呂にもそんなに入れてもらってないから、凄く臭かったんだ。夏場で、10回目に殺しに来たときなんか、この世の物とは思えない臭いがしたんだ。血と臓物と糞尿がブレンドされた臭いって本当にヤバいからね。

だから、獣人は僕を殺しに来る、凄く臭い奴って思うようになったんだ。そんなことないのにね。知らないって本当に怖いねえ・・・ハハハハ」


勇者はあっけらかんと言うが、周囲はドン引きだ。そりゃあ俺でも、獣人が嫌いになる。問題は獣人にそんなことをさせていた奴らだ。そいつらこそ、人間のクズだ。

とんでもない空気になったところで、第三王子が口を開く。


「マリー、お母様が迎えに来たよ。勇者殿もお仕事だから、お母様のところに行ってなさい」


「ハーイ!!」


マリー王女の母親マリア王子妃は虎獣人で、元は第三王子の親衛隊だったらしい。手早く挨拶だけして、マリー王女を連れて退出した。

部屋全体が仕事モードに切り替わった。


★★★


しばらくして、武官の一人が第三王子に報告書を持って、相談に来た。


「バリスにあるアジトすべてに部隊配置を完了しました。いつでも踏み込めます。ただ、この一箇所は私の判断では・・・」


「そうだな。私も頭を悩ますところだ。私はおろか、父上でも判断に迷うだろうな。一歩間違えれば戦争になる・・・」


武官が持ってきた報告書をチラ見する。

これってどうするんだ?俺はこの関係から降りたほうがいいかもな・・・・


「どうしたの?困ったなら僕に言ってみなよ。すべて勇者の力で解決してあげるからね」


渋っていた第三王子だったが、言いにくそうに話始めた。


「実はアジトに指令を出していたのは、帝国の領事館なのだ。流石に私の一存では踏み込めないし、それが元で戦争になるかもしれん。かといって、そこを捜索しなければ、トカゲの尻尾斬りにされるだけだしな・・・悩ましいところだ」


「なんだ、そんなことか。だったら僕が行けばいいんだ。僕は勇者だからね。悪い奴をやっつければ、それでいいんだ」


これには第三王子も悩む。


「貴殿は帝国の公爵令嬢ではないのか?」


「そうだけど、その前に勇者だからね」


心を決めたように第三王子が言う。


「領事館への立ち入りは、我々が何も関与しない。勇者殿が独断で勝手にやったこと、というのはどうだろうか?」


まあ、そうなるよな。第三王子も王族だからな。不本意でも、そう言った姑息な方法も取らないと駄目なときもあるよな・・・後はあの馬鹿がどう答えるかだけど・・・


「やったあ!!すべて僕の手柄ってことだよね。今回の事件を解決したのはすべて勇者だってことかあ・・・ちょっと悪いような気もするけど、そこまで言うなら、やってあげるよ」


盛大に勘違いをしていた。



★★★


第三王子とその部下達は本当に優秀だ。この短期間で、すべてのアジトに部隊を配置し、いつでも踏み込めるようにしていたのだから。俺達も帝国領事館の前に配置する。俺達は配置するだけで手出しはしない。だって、クリスタ連邦国海軍特任大佐の俺が、ボンジョール王国でグレイティムール大帝国の領事館を襲撃したなんてことになったら、想像もつかないような事態を引き起こすだろう。俺一人の問題で済むはずはない。


そして、一斉に踏み込む時間午前10時になった。なぜこの時間かというと、領事館では午前9時30分から朝の会議があり、職員も全員集合しているし、しかも会議が終わった直後で、みんな油断しているからというのが理由だ。その他のアジトもこれに合わせるらしい。


ところで勇者はどうやるつもりだろうか?


俺が第三王子から基本的なやり方を聞いていたので、教えようとしたら、勇者に「指図するな!!」と怒鳴られた。


もういい、勝手にしろ!!


時間になり、勇者達が行動を開始する。

いきなり拡声の魔道具で、勧告し始めた。


「僕は勇者アトラ・ルースだ!!これから全員逮捕する!!大人しくしろ!!5秒だけ待ってやる。それまでに投降しなければ、武力行使に出る!!5・4・3・2・1・ゼロ!!時間切れだ、突撃!!」


勇者はいきなり、門番に殴りかかる。門番は吹っ飛ばされた。更に増援でやって来た衛兵5人は、デイジーが槍の石突きで滅多打ちにしていた。


「おいセガス!!勇者って逮捕権ってあるのか?」


「そんなものはありません。公爵令嬢であらせられますから、公爵領であれば、裁量として認められてはいるでしょうが、ここは他国ですからね」


「ということは・・・」


「もちろん、帝国法、ボンジョール王国法、国際法、すべてに違反しています」


これって誰が責任を取るんだ?

まさか、船長の俺ってことはないよな?


なおも勇者達の暴挙は続く、いきなり領事館の壁を壊し始めた。


「5秒以内に出てこいって言っただろうが!!僕は怒ったぞ!!建物ごと壊してやる。デイジー!!」


「了解だ!!百裂突き!!」


壁が吹き飛んだ。デイジーが槍使いだとは知らなかった。それもなかなかの手練れだ。

俺が感心しているとマルカが言う。


「ドルドナ王国は元々槍の名手が多くいました。帝国領になってからも、その武勇は衰えず、「ドルドナの者に槍を持たせるな」という格言があるくらいですから。デイジーがザドラさんを慕っているのもその影響ですかね?ザドラさんも槍というか銛を使いますからね」


「そうか・・・というかお前は参加しないのか?」


「はい、乱戦向きではありません。研究者タイプの魔導士ですから。それにどう見ても国際問題になるでしょ?面倒事はご免ですよ」


馬鹿勇者達が拡声の魔道具を使い、大騒ぎしたことで、野次馬が集まり出した。それに町を巡回していた衛兵も多く集まって来た。この後、お前らどうする気だ?

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