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2 寄港

母港、ドレイク領の領都スパイシアに寄港した。ドレイク領は4つの島からなる領で、スパイスと海産物が特産品だ。

アットホームな領であり、寄港時には領民総出で出迎えてくれるのが慣例になっている。その中には我が姉で領主のスターシアもいた。荷下ろしに大忙しの水夫達を尻目に俺は急いで、船を降りて、姉の元に向かう。


「領主様自らお出迎えとは、光栄なことにございます。いつ見てもお美しい」


冗談だが、身内の贔屓目に見ても姉は美人と言ってもいい。俺と同じ黒い髪に黒い瞳、日に焼けた健康的な肌、社交界に出れば多くの男達が群がってくる。


「もう!!冗談はそれぐらいにしなさい。依頼達成ご苦労様。ゆっくり休んでと言いたいけど、そうはいかないのよ。女王様からの緊急招集が掛かっちゃって、貴方も王都エジンバラに行くんでしょ?私も一緒に乗って行くから、よろしくね」


「そうだけど、素材の買い取りもまだだしな・・・最低でも5日は掛かりそうだけど」


ここに猫獣人の少女が会話に入って来た。ドレイク領の御用商人、ミケ猫商会のミケだ。


「魚肉はここですぐに買い取りますニャ。卵と角はエジンバラの方が高く売れますから積んだままにしてもれえれば有難いニャ。私も一緒に乗りますからご安心を。それと当商会の積荷も一緒に乗せていただけたら助かるニャ。もちろん搬送料は、弾みますニャ」


ミケとは幼馴染でもあり、不定期で乗船し、クリスタリブレ号の主計長をしてくれてもいる。


「相変わらず商売上手だな。それでいつ出発できるんだ?」


「明日には出発できますニャ。儲けもかなりのものになりますニャ。前金で10000ゴールドを渡しておきますニャ」


かなりの額だ。これだけで贅沢をしなければ3ケ月は船を動かせる。これに素材の買い取り料や依頼達成報酬を上乗せすれば・・・笑いが止まらない。


「ミケに任せるよ。それで何でお前までエジンバラに行くんだ?」


「そりゃあ、儲けの匂いがプンプンするからですニャ。それでいつも通り、航海士ということで女王陛下との謁見の際はよろしくお願いしますニャ。その分サービスしますニャ」


その日は乗員、領民総出で荷下ろしや積み込みを行い、ホーンシャーク料理で大宴会が始まった。まあ、いつものことだけど。


しかし、領主の姉貴を呼び出すなんてどういうことだろうか?


悪い予感がする。また戦争とかじゃなければいいんだが・・・



★★★


次の日の正午、二日酔いの航海士や水夫を叩き起こし、無事出発することができた。普通に行けば3日で着く。裏技を使えば1日とかからないが、それは止めておく。秘密兵器だからな。


クリスタリブレ号の船内を姉貴と歩きながら案内する。


「久しぶりに乗ったけど、立派になったものね。あの廃艦寸前の船がねえ・・・」


感慨深そうに姉貴が言う。

現在のクリスタリブレ号は2本マストの中型帆船だ。中央には主砲となる大型魔道砲を設置しているし、左右には10門ずつの小型魔道砲を設置している。そこら辺の魔物や海賊なら一撃で撃沈だ。


「じゃあ、中も案内するよ。新設した装備があるからな」


「楽しみね」


新設したのは、まずは冷凍室と保管庫だ。冷凍室は氷結魔法が付与されていて、積荷や食材を冷やすことができる。これがあるので当艦の食糧事情は急激に改善された。長い航海で食事は楽しみの一つだからな。保管庫は空間魔法が付与されており、見た目の5倍収納できる。冒険者が持っている収納袋を部屋にした形だ。


続いては多分、世界で使っているのは俺たちくらいだと思われる推進装置のスクリューで、動力は俺の魔力だ。というのも俺は珍しいジョブである「船長」なのだ。「船長」には操船スキルがあり、魔力を込めれば船を自在に動かせる。ぶっちゃけこの船であれば1~2日であれば気合で一人で動かせてしまう。そうするのは本当に緊急のときだけだ。偶にあまりにも早く依頼を達成したことがあって不審に思われたが、その時はハープが風魔法で無理やり帆に風を当てて、航行したと言い張った。実際やったこともあるしな。


ついでだが、我が航海士のジョブや役割りを紹介しておこう。


リュドミラ(エルフ)副官

ジョブ 「スナイパー」(一撃必殺の威力を持つ遠距離攻撃ができる)


ベイラ(ドワーフ)船大工

ジョブ「鍛冶師」(普段は船大工をやってもらっている)


ハープ(鳥人族)遊撃隊長

ジョブ「風使い」(本人に聞いてもよく分からない。風のように掴みどころがない)


ザドラ(リザードマン)甲板長

ジョブ「潜水士」(水中戦には無類の強さを誇る)


ミケ(猫獣人)主計長

ジョブ「商人」(今の仕事が天職なのだろう)


と言った感じだ。多分、冒険者だったらAランク以上の実力はあると思う。因みに冒険者はA~Fの等級に分けられている。Aランクより上のSランクの冒険者はいるにはいるがごくごく少数で、実質Aランクが最高ランクらしい。


船内を回っていると領主である姉貴に水夫達がこぞって挨拶して来る。


「領主様、仕事をくれてありがとうございます」

「本当に・・・虐げられていた俺達に優しくしてくれて・・・・」


「気にしなくていいわ。みんな仲間じゃないの。でもみんな元気そうでよかったわ。しっかりやれているようで本当に嬉しいわ」


水夫達はゴブリン族、インプ族、コボルト族の三種族しかいない。この三種族は魔族最弱の種族で、魔族領から逃げ込んで来たのだ。三種族ともに成人しても10歳程度の子供と身長は変わらない。当然力も弱いし、それに魔力もあまりない。


三種族のそれぞれの特徴を言うとゴブリン族は集団行動が得意で手先が器用だ。インプ族はゴブリン族と見た目はあまり変わらないが、背中に羽が生えていて飛ぶことができる。しかし、1時間以上飛ぶことが出来ず、速さも最大で人間の小走り程度なので戦闘にはあまり向かない。その昔、魔族領では逃げまどうインプを弓で射落とす「インプ狩り」という競技があったくらいで、戦場ではただの的になってしまう。

コボルト族は鼻が利く。食材の痛みを早期に発見したり、探索で重宝する。禁制品の取締りなんかの依頼があれば大活躍だ。


運用だが、それぞれに隊長を置き、10名を基本にして隊長以外は随時入れ替えている。姉貴の方針で経験を積ませるためだ。ゆくゆくはこの三種族だけで、艦隊を編成しようと思っているらしい。

因みにゴブリン隊長がゴベル、インプ隊長がブーイ、コボルト隊長がコボルだ。


「みんないい人達ばかりなのにね。クリスタリブレ号が成功して有名になれば、彼らの扱いを女王陛下に正式に進言しようと思っているのよ。国全体がそうなれば、彼らだってもっと生きやすくなると思うわ」


「まあ、俺としてはただ依頼をこなすだけだからな。船長として言うと、プライドばっかり高くて、仕事をしない人族の馬鹿より、よっぽどマシだぜ」


「そうね・・・まだ、クリスタ連邦国は女王陛下もマーマンだし、獣人も多いからいいけど。大陸は差別が酷いらしいわ。それに教会が主導しているみたいだし」


「あの強欲連中め!!絶対にこの地は踏ませない。たとえ戦争になってもな!!」


「貴方も戦争になると思ってるのね?」


「ああ、できればやりたくないけどな」


本当に女王の緊急招集とは何なのだろうか?


不安だ。

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