19 バリスの大掃除 1
日没前に出発し、フルスピードでバリスに戻った。着いたのは深夜だった。海賊のお頭のスコールズ中尉は目を丸くして、驚いていた。
「そんな・・・信じられん。これが勇者様の力というのか・・・」
勘違いしているが、訂正はしない。情報を漏らしてもいいことはないし、馬鹿勇者がドヤ顔をして上機嫌なので、放っておく。
夜間の入港を決めたのは目立たないためだ。拿捕した海賊船を引き連れて、入港したらそれこそ大騒ぎになる。なので、元輸送艦のみ、バリスに引っ張って来た。元輸送艦は3年前に退役した船で、調べれば、背後関係が分かるかもしれないと思ったからだ。まあ、俺のスキルでは引っ張る船が1隻が限界というのもあるけど。
まずは冒険者ギルドに行き、事情を説明する。当直が最初に応対してくれた受付嬢だったので話は早かった。スコールズ中尉以外の海賊達はギルドの簡易収容施設に預かってもらい、俺は今回の依頼主ゴースト(ヤマット大将)宛てに手紙を書いて、受付嬢にことづけた。
ギルドの手続きがすべて終わったのが午前1時頃だった。俺はすぐにギルドを立ち、リュドミラ、ザドラ、勇者パーティー、スコールズ中尉を引き連れて、ボンジョール王国の第三王子の屋敷を訪れた。
馬鹿勇者はゴネ出す。
「もう眠いよ。死んじゃうかもなあ・・・」
「うるさい!!少しくらい寝なくても死なん。それにお前がいなければ、会ってもくれないだろうし」
「それは僕を頼りにしてるってことだよね?だったらもっと頼み方ってものがあるよね?」
「勇者様、どうか私たちに着いてきてください」
「よかろう」
無駄なエネルギーを使った気がする。
★★★
第三王子の屋敷では、門番がすんなり通してくれなかった。如何に勇者といえどもだ。まあ、駄目元で来たから仕方がないんだが。
「なんで会わせられないんだ!!僕は勇者だぞ!!国家存亡の危機だ、バリスが爆発するぞ」
「そうは言われましても、時間も時間ですし・・・」
コイツには本当に爆発させる能力があるだけに怖い。仕方なく、俺が仲裁に入る。
「勇者様もこう言っておられますし、ここにはサンタロゴス島のポコ総督の紹介状もありますし、上司の方に聞くだけ聞いてもらえませんかね。私達も命は惜しいですから」
「分かりました。そうします。結果は期待しないでください。私はやれることはしました」
門番は怯えて、屋敷に入って行った。
しばらくして、執事っぽい男がやって来た。
「すぐに王子殿下にお取次ぎ致します。応接室でお待ちください」
応接室に案内され、程なくして第三王子が入って来た。第三王子は20代半ばの好青年で、ポコ総督と懇意にしていることから考えて、勝手にだらしない体を想像していたのだが、引き締まっていて、精悍な顔つきをしている。
「王子殿下、夜分遅く突然の訪問並びに無礼の数々、心よりお詫び申し上げます。私は勇者パーティーの船長、クリスタ連邦国海軍特任大佐のネルソン・ドレイクであります。こちらがポコ総督より預かった紹介状であります」
緊張で少し声が上ずったかもしれない。怒らせていないだろうか?
空気の読めない馬鹿が言う。
「あれ?船長は緊張しているのかな?大丈夫、勇者の僕がいるからね。安心するといいよ」
俺も第三王子も馬鹿は無視して、話を始める。
「ポコ総督からは聞いている。私はボンジョール王国第三王子のルイス・ボンジョールだ。国家存亡の危機ということだが、説明してもらえるだろうか?できれば手短にな。勇者殿と私の因縁を知らんわけではあるまい?」
「はい、もちろんです。お気持ちは痛いほど分かります。馬鹿・・勇者様と一緒に旅をしている我々は特に。それで、こちらの資料をご覧ください。それに証人も確保しております」
俺は用意して来た資料を渡す。王子は目を丸くして驚いている。すぐに側近を呼び出して確認させている。ここでも空気の読めない馬鹿勇者は「馬鹿って言ったよね?」と言ってきたが、無視した。
「証人というのは?」
俺はスコールズ中尉に合図をする。スコールズ中尉は起立して、挨拶をする。
「グレイティムール大帝国デニス・スコールズ海軍中尉であります。貴国の海域で海賊行為をしたことは間違いありません。処分は如何様にもしていただいて構いません。それで事態は緊急を要するのですが・・・」
スコールズ中尉の話の内容はこうだ。
使節団の到着に合わせて、バリスでテロを行う予定だったそうだ。そして、勇者や使節団の保護を名目に連れて来た兵士を上陸させる。その混乱に乗じて、サウザン諸島の海賊拠点から出撃して、サウザン諸島を海賊団が占拠する。上手く行けば海賊団が独立を宣言するそうだ。ゆくゆくは帝国に併合するつもりだろうけどな。
「私掠免除が廃止になってからも海賊行為は続けるように指示がありました。海賊拠点での会議に出席したところ、最終的に末端の海賊達は口封じで、始末することにが決定したと伝えられました。そのためには、なるべく使い潰せとも。いくら命令でも俺にはそんなことはできません。孤児達は俺を信じてついてきてくれたんですからね。今回の仕事で大金が入ったら、みんな引退させるつもりでした。それに殺しやなんかはさせてません。環境が良ければ十分にやっていける奴らです。
無理は承知で頼みます。処分は俺の首一つで何とかなりませんか?あいつらは俺と違ってこの国の出身者ばかりですからね」
「考えておこう。しかし、口止めで消される予定だったのは貴殿も同じだったのではないか?」
スコールズ中尉は唖然とする。
王子は一枚の手配書を見せた。
「デニス・スコールズ中尉、殺人並びに公金横領の罪、見付け次第拘束願う。凶悪犯のため、生死は問わない・・・・そんな・・・俺は何のために・・・・」
スコールズ中尉がへたり込んでしまった。本人としては軍の特別任務と思って海賊行為をしていたのだろうけど。
「スコールズ中尉、落ち込んでいるところ悪いが、まずはテロを防がないとな。流石に後3日もすれば帝国の使節団はやって来るだろう。それまでには解決したい。とりあえずは協力をしてくれ。その働きによっては刑を減刑しよう」
応接室には時間を追うごとに招集された文官や武官たちが続々集まって来る。
文官の一人が呟く。
「ここまで調べ上げたのも凄いが、この書類の作成能力も凄いな・・・様式を整えれば、すぐに逮捕状は取れるな。一体誰が?」
これでも俺は領主の弟で、子供の頃から書類仕事はさせられていたからね。航行の合間にコツコツ書いたのさ。もちろん、リュドミラやミケにも手伝ってもらったけどな。
「僕だよ!!僕が指示して書かせたんだ!!だから僕が書いたと言ってもいいくらいだ」
「そ、そうですか・・・流石は勇者様だ・・・」
その文官は立ち去った。面倒事に巻き込まれたくなかったのだろう。
そんなとき、一人の獣人の少女が部屋に入って来た。10歳位に見える。そして、勇者に抱き着いた。
「わあ、勇者様だ!!凄い!!」
周囲が凍りついた。勇者はこの国では、大の獣人嫌いで知られているからだ。
「マリー!!すぐに離れなさい!!危険だ!!」
第三王子が怒鳴る。この子は第三王子と虎獣人の奥さんとの間に生まれた娘さんらしい。
馬鹿勇者、変なことはするなよ!!
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!




