18 海賊退治 4
一通り、片付いたので、航海士達を集めて会議をする。
「こちらの損害はない。ただ勇者様の所為でしばらく主砲は使えないから、戦闘班はそのことを覚えておいてくれ。不意の戦闘もあるかもしれないからな」
「僕の所為だなんて心外だなあ。死んでほしいのかい?」
「じゃあ次だが・・・」
「無視するな!!」
「はいはい、死なないでください、勇者様!!これでいいだろ?
話を戻すと一人尋問に応じない奴がいる。海賊どもの頭だ。それで何かいい案がないかと・・・」
言いかけたところで、勇者とマルカが声を上げる。
「それは勇者の威光で簡単に落とせるよ」
「拷問ですね。是非やりましょう」
他に手はないから、やらせてみるか。
俺はハープに勇者とマルカはインプ達に抱えられて、元輸送船までやって来た。甲板に拘束されている捕虜達の中央に一際眼光の鋭い、40歳位の男がいた。多分コイツがお頭と呼ばれる奴だろう。
すると馬鹿勇者がその男の間に歩み出る。
「僕はアトラ・ルース。知ってのとおり勇者さ。さあ、僕に話すんだ。勇者に話を聞いてもらえるなんて、光栄なことだよ」
周りの海賊達は「すげえ!!勇者だ」等と騒いではいるが、その男は無言のままだった。
「あれ?どうしたのかな?緊張してるのかなあ・・・・」
しかし、反応はない。更に勇者が話しかけるとやっと口を開いた。
「・・・ろせ。殺せ!!何も言わん、ここで殺せ!!」
「何だと!!勇者に対して不敬だ!!すぐに殺して・・・」
俺は勇者を取り押さえた。
「死ぬぞ」と口癖のようにいう奴が「殺せ」という奴に尋問をするシュールな光景をもう少し楽しんでも良かったが、本当に殺しかねないので、取り押さえた。
「放せ!!馬鹿船長」
「落ち着けってば、せめてマルカが終わるまで待ってくれ」
勇者が落ち着いたところで、マルカが尋問という名の拷問を開始する。
「一応言っておくけど、喋っても喋らなくても、どっちでもいいんですよね。実験のデータさえ取れれば。えっと・・・・じゃあ、まずそこの少年にしようか」
マルカはインプ達に指示して、黒髪の12~13歳位の少年を目の前に連れて来た。その少年は後ろ手に縛られているので身動きが取れない。そして、スツールに座らされた。そう言えば、この海賊団は年齢層が低いな。ほとんどが10代の若者だ。
マルカは懐から手のひらサイズの蜘蛛を出した。
「これはゲジゲジさんと言って、使い魔みたいなものですね。この子に対象の脳みそを食べさせて、この子を通じて記憶を読み取ることができるんですよ。これから信憑性を証明する実験をしますね。じゃあ、少しグロいので、実験状況は隠しますね」
少年は上半身をカーテンのようなもので、周囲から隠された。すぐに、この世の物とは思えない叫び声が上がる。そして、少年は痙攣し始めた。
しばらくして、少年が姿を現した。意識が無く、魂が抜けたようになっている。
「この少年はマイク、2年前から海賊になった、理由は病気の妹のため仕方なく、仕事は甲板仕事、ブーイ師匠、あってますか?」
インプ隊長のブーイがメモを見ながら答える。
「おお、すげえな!!全部あってる。好きな食べ物はホットドッグだけどな」
「完璧ではないのですね。じゃあ次はそっちの少年にしましょうか」
ここでお頭が怒鳴り声を上げる。
「そいつらは詳しいことは知らない。海賊団の全容は俺しか知らないんだ。次は俺にすればいいだろう?もう止めてくれ」
「それって、どうやって証明するんですか?全員やってみて、初めて判明することだと思うんですけど?」
「証明はできないが、そうなんだ。止めてくれ、まだまだ子供じゃないか・・・」
「この方法は一般的に知られていない方法で、裁判で証拠として採用されるかどうかも分かりません。なので、こちらとしてはなるべく多くの実験データが欲しいんですよ。何十人もいれば、この方法が有用かどうかも分かりますしね。それに後遺症も調べたいですしね。なんたって脳みそを齧られるんですから。いくら囚人でも帝国でこんなことをやったら人権団体に苦情が行きますからね。これはいいチャンスなんですよ」
「帝国法だと、これは拷問だ!!証拠になんかなるわけないだろうが!!」
「ここは帝国の領海ではないので、帝国法は適用されないと思いますがね」
「ここは、ボンジョール王国の領海だ。ボンジョール王国法が適用される。ボンジョール王国法は、帝国法を元にして、作られたもので、当然拷問は禁止されている」
男はそう言うと、しまった、という顔をして俯いた。そんなことを知っていること自体が、そこそこ学のある人間なのだろう。
「分かりました。だったら裁判の証拠として採用される件は諦めます。なので、実験データを学会に提出することに留め・・・・」
これを男が遮る。
「頼む、止めてくれ!!勇者様!!お願いだ、何でも言う。助けてやってくれ。この仕事が終わったら全員引退する予定だったんだ。その子も農場で働くことが決まっているんだ。頼む!!」
すると、ドヤ顔を浮かべた勇者は言う。
「マルカ、その辺で止めてあげなさい。君も正直に話せば、酷いことはしないからね。ただ、僕を騙すようなことをすると、みんな死ぬことになるからね」
男は正直に話し出した。
最初にマルカの犠牲になった少年は、マルカが薬を飲ませたら、息を吹き返した。
「少し齧っただけでは、後遺症はないみたいですね」
乗員も海賊たちもドン引きしていたことは言うまでもない。
★★★
お頭は、帝国軍人だった。デニス・スコールズ海軍中尉、任務が終われば多額の報奨金と少佐への昇進を餌に上司に唆されて、3年前から海賊になったようだ。スコールズ中尉には病気の娘さんがいて、金が必要だったらしい。任務には俺達が撃沈したボロボロの大型艦、今乗っている元輸送船とわずかな資金しか与えられなかったそうだ。そこから、ここまでの海賊団にしたのは、この男の手腕を評価するしかない。
男の方針は、「安全第一」で、仕事にあぶれている孤児達を集め、戦わずに勝つことを信条にやって来たそうだ。大型艦はもらったはいいが、ドール海海戦よりも前に退役した軍艦で、ほとんど航行できる状態ではなかったらしい。なので、やり口としては、この大型艦を小島付近に停泊させて、小島付近に誘い込み、大量に見掛け倒しの魔道砲を見せつけて脅し、金品を出させるようだった。しかも、全額は取らず、ある程度、資金や積荷も残すので、ボンジョール王国海軍が血眼になってまで討伐に来ることはなかったそうだ。サウザン諸島にはもっとあくどい海賊がいっぱいいるからな。
そうこうしているとハープが偵察から戻って来た。スコールズ中尉の情報を基に海賊の拠点を探してもらっていたのだ。
「あったよ~いっぱい船がいたよ~アジトっていうか基地みたい~」
これは、俺達だけじゃ、どうしようもないな。しんどいけど、明け方までにバリスに帰還して早急に手を打たないとな・・・
そう決断し、操舵室に入ろうとしたところで、勇者とマルカの話し声が聞こえて来た。
「マルカ、上手くいったね。船長達もすっかり騙されていたしね」
「やはり心理学実験のデータどおり、パニックに追い込み、冷静な判断をさせないのが鉄則ですからね。そこに幻影魔法と危ない雰囲気を醸し出せば完璧です。少年を魔法で気絶させただけだったのですがね」
「これで少しはあの馬鹿船長も、僕のことを尊敬し、崇め奉るだろうね」
なんとなくそうだろなとは思っていたが、本当に腹が立つ。俺は勇者とマルカに近付いて言ってやった。
「尊敬してますよ。極悪非道の鬼畜勇者様」
俺はそのまま操舵室に入る。後ろで勇者が「死んでやる」とか言っていたけど、無視してやった。
こっちはそれどころじゃないんだ。
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