17 海賊退治 3
海賊たちを降伏させた俺たちだが、まずは生き残っている海賊たちを一箇所に集める。生き残りの海賊たちは68名だった。集めた先は拿捕した帝国の元輸送艦だ。損傷が一番少ないからだ。まあ、意図的にそうしたんだけどな。
これから、ここで簡単な尋問をして、更にザドラが中心になって、撃沈された船から使えそうな積荷や現金を回収して行く。
「まーだーかーなー!!早くしてくれないと、死・に・ま・す・よー」
この馬鹿は全く!!
しかし、どうするかなあ・・・・そうだ!!
魔道砲は魔石を動力にしなくても、人間が魔力を込めれば同じ威力が出る。勇者も魔力だけは強いようだし、それで撃たせてみるか。魔力切れになったらなったで大人しくなってくれるからな。
うん、そうしよう。
「勇者様、準備が整いました。どうぞこちらへ。指導はリュドミラが致します」
勇者は主砲に取り付けている砲撃手用の椅子に座る。リュドミラとベイラによると勇者の魔力はかなり強力だそうだ。
「分ったよ。とりあえず1発撃ってみよう。この引き金を引くんだね?」
ドゴーン!!という轟音がなり響き、特大の魔力弾が飛んで行く。
これって、魔石を使うより威力があるんじゃないのか?
しかし、コントロールはあまり良くない。1発目は大はずれ、2発目はマストをかすめ、3発目でようやく大型艦に着弾した。驚いたことに大型艦は一撃で沈没してしまった。勇者は興奮する。
「僕って凄い!!次はあの船だ!!どんどん沈めるぞ」
しかし、今度はなかなか当たらない。10発連続で発射するが当たらない。
「クソ!!ちょこまかと逃げやがって!!」
そう言うが、狙いを付けている元商船は1ミリも動いていない。よくあることだが、興奮すればするほど当たらなくなる。リュドミラがアドバイスをする。
「勇者様、深呼吸です。落ち着けば必ず当たりますよ。勇者様はできる子ですから」
「そうだ僕は凄く賢くて、可愛いできる子なんだ!!集中しよう」
リュドミラもそこまでは言ってないだろが!!
それでも落着きを取り戻した勇者は集中して、一撃を放った。元商船の土手っ腹に命中した。船体は真っ二つに折れて沈んでいった。
「やったぞ!!見たか、馬鹿船長!!次だ、どんどん沈めるぞ!!」
これにベイラが悲鳴を上げる。
「止めるッス!!これ以上は主砲が壊れるッス!!」
普通では考えられないことが起こる。勇者の魔力に主砲が耐え切れなくなってきたのだ。
この主砲は親父の代からクリスタリブレ号に取り付けてあるもので、ドワーフの技術の結集だと親父や親父と共に帰って来なかったベイラの親父さんが自慢していた。その主砲でも勇者の魔力に耐えられないのか・・・・。本当に化け物だな。
「そうか・・・壊れてしまうのなら仕方がないか。今日の僕は大活躍だったね。海賊船を沈めまくったし。まあ、後の雑務は船長たちに任せようかな」
勇者は上機嫌で去って行った。
「ベイラ、主砲は大丈夫か?」
「今のところは大丈夫ッス。1日休ませれば問題ないッス。でもアイツに10発以上撃たせたら絶対に駄目ッス。普通なら100発は撃てるッスのに・・・・。そうだ船長、私はこの主砲を強化したいッス!!これは馬鹿勇者からの挑戦だと思うんス。負けられない戦いッス」
「まあ、予算の範囲でなら構わないが・・・・」
そんな会話をしているところに魔導士のマルカがやって来た。興味深そうに主砲を観察している。
「どうした?気になることでもあるのか?」
「この主砲は凄いですよ。帝国の最新鋭の技術でも作れませんね。なんでもドワーフの技術だとか・・・そもそもアトラの魔力にここまで耐えられることが奇跡に近いですよ」
マルカが言うには、勇者は膨大な魔力を宿しているらしい。帝国軍もそれに目を付け魔道砲の砲撃手としての運用を考えたのだが、勇者の魔力に耐えられる魔道砲は作れなかった。どんなに強度を高めても、1発か2発が限界だったようだ。ならばと、壊れても問題がないくらいの低予算で魔道砲を作ったら、発射すらできなかったようだ。
「また、その魔力を魔法にということで魔法の訓練を受けましたが、上手く行きませんでした。ファイアボールさえまともに撃てなかったのですから。それでも指導者の魔導士は熱心に教えましたが、逆にそれがアトラを追い詰めてしまい。アトラは魔力が暴走して訓練中に爆発してしまいました。訓練場は吹き飛び、大惨事でした。指導していた魔導士は咄嗟に魔法障壁を張ったので、大怪我を負いましたが、一命を取り止め・・・・」
「ちょっと待て!!爆発ってどういう意味だ?」
「言葉どおりの意味です。アトラ自身が破裂して吹き飛んだということです。ああ、それについても帝国軍は研究しましたよ。「不死身の自爆テロリスト」の爆誕だ!!と大喜びでしたけどね。ただ、これでアトラと軍部との力関係は逆転しました。
だってそうですよね。それまでは何度でも生き返る、少し強いだけの小娘だったのが、残数無制限の意思を持った高火力爆弾になったんですから。唯一教会は死に戻りポイントを握っているので、教会の力は増しました。やりたい放題ですね。
今、私は死に戻りポイントを自在に変える研究をしているので、それができれば、もう世界中の脅威、魔王と言っていい存在になりますね」
それでか・・・怯え切って下船したあの大臣の気持ちも分かるし、俺が勇者パーティーの船長に選ばれたのも分かる。
「気付きましたね。だから、訳ありのセガスやアデーレがこの船に乗っているんですよ。どんな事情かは知りませんけど・・・」
この船に乗っている者は、帝国からすれば死んでもいい、又は死んでほしい奴ばかりなのだ。
「まあでも、この船が勇者パーティーの船になってくれて本当に良かったですよ。アトラも魔道砲で、多少は活躍できるし、それにこの船の乗員達は誰もアトラにビビッてないですし」
「俺はいつもビクビクしてるけどな」
「それは別の意味で、ですよね。私は船長たちを尊敬してるんですよ。アトラが爆発するって知らなかったとはいえ、あそこまで渡り合えるなんてね。これからもよろしくお願いしますね。船長さん」
マルカも去って行く。
「自爆してやる」って言わなかったのは、あの馬鹿なりの気遣いだったのかもな・・・
そんなことを考えながら物思いにふけっているとインプ隊長のブーイが、海賊達を集めている元輸送船から飛行して帰ってきた。
「海賊のほとんどが地元のゴロツキどもでした。ここ1~2年で海賊になった者がほとんどです。ただ、お頭と呼ばれるボスだけは、名前すら答えようとしません。かなりぶん殴ってやったんですけど、駄目です。申し訳ない」
「無理はしなくていい。対策は考えるから、今日の尋問はそれで切り上げて、後は逃げられないようにしておいてくれ」
また、面倒なことを抱え込んだかもしれないな。
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