16 海賊退治 2
そのゴロツキ集団は船着場までやって来た。ミケ達を監視している。俺とミケは合図をして芝居を始める。
「オーイ!!船長。明日には出発するニャ!!」
「急だな。そんなに急に護衛を雇えないぞ。危険だから、追加料金を貰わないと割に合わないぜ!!」
「いくらでも払ってやるニャ!!それぐらい今度の取引は大きいニャ。出発は明日の午前9時ニャ!!ウチらも今日は、そこで泊るニャ!!」
「いいけど、宿泊料は別料金だぜ!!」
そして、ミケとニコラスはクリスタリブレ号に乗船した。
「上手くいったニャ。ここからでも慌てて、出航準備をしいるのが見えるニャ」
しばらくして、コボルト達も帰って来た。匂いでの尾行で、彼らに勝てる奴はそうそういない。
代表して隊長のコボルから報告を受ける。
大型艦が1隻、中型艦が4隻で、いずれも帝国海軍の払い下げっぽいか・・・・・それにバリスにアジトが結構あって・・・こんな大物もいるのか・・・・
予想通りだな。ただ、ここまで国ぐるみってのは思わなかったが。
「コボル達もご苦労だった。明日に備えてゆっくり休め」
★★★
予定通り、サウザン諸島に向けて出発する。他の船舶と一緒に進んでいる間は手を出してこない。海賊の常識だ。クリスタリブレ号はワザと穴の開いたメインマストを取り付けている。ボロボロのマストでは、スピードが出せないと思わせるためだ。かなりゆっくりのスピードで航行していたので、一緒の時間に出発した他の船舶からはどんどんと引き離されていく。
しかし、俺達に追従する3隻の船がいる。多分、俺達を狙う海賊だろう。そんなとき、偵察に出ていたハープが帰還する。
「100キロ程行ったところに小島があって~その辺に怪しい船が2隻いたよ~」
距離から考えて、戦闘は明日の昼頃だろう。俺達を襲い、小島に集合して、お宝を分配しようと考えてるんだろうな。まさに捕らぬ狸の何とかだ。
「明日の昼までに戦闘準備をしておけよ!!ベイラ、久しぶりに主砲をぶっ放そうと思うから、そのつもりでな」
「とうとう出番スね!!了解ッス」
夜になり、再びハープに偵察に出てもらった。相手の様子を確認するためだ。ハープによれば、酒を飲んで盛り上がっているらしい。油断しきっていたそうだ。
「よくまあ、あんなボロ船で、大金を持って海に出られるなあ?」
「本当だ。海賊様、襲ってくださいって言っているようなもんだ」
「5隻も必要なかったんじゃないのか?分け前が減っちまうのに」
「仕事は仕事だ。酒はその辺にしておけ。それにそういう取り決めになってるから仕方がない。逆の場合もあるんだからな」
「お頭は相変わらず固いな・・・・」
まともな奴もいるのか・・・そいつは海軍崩れだろうけどな。
★★★
次の日の昼、予想していた地点で5隻の船に囲まれた。拡声の魔道具で海賊達が怒鳴ってくる。
「止まれ!!大人しく積荷と金を渡すなら命だけは助けてやる!!」
お決まりのセリフだ。本当に命が助かる保証はないが、資料によると最低限の食料と資金は残してくれるようだ。
海賊の戦力を分析すると、軍艦と渡り合えるのは、目の前の大型艦だけだろう。後は商船を改造したり、軍で廃艦となった輸送艦に無理やり魔道砲を取り付けたりしたものばかりだ。普通の商船ならそれで、十分だが、クリスタリブレ号を相手にするには役不足だ。
それにいきなり襲ってこないところを考えると、この海賊達の基本戦術は絶対に相手に勝てないと思わせて、降伏させるつもりだろ。だから、少し過剰な戦力で仕事をしているんだ。まあ、裏を返せば、戦闘に余り自信がないということだ。このまま、おっ始めてもいいんだが、少し情報を引き出そう。
俺はミケに合図を送る。ミケは拡声の魔道具を手に取って言う。
「ちょっと待ってニャ!!こちらは由緒正しいミケ猫商会ニャ!!海賊の親分に知り合いがいるし、クリスタ連邦国とボンジョール王国の海軍にも伝手があるニャ!!」
「それがどうした?帝国船籍ではないんだよな?」
「それはそうだけど、帝国の海軍のお偉いさんもよく知っているニャ!!」
「誰だよそれは?」
「イソック・ヤマット大将ニャ!!」
海賊から笑い声が起きる。
「ワハハハ、こいつはいい。そこまでの思い切った嘘を吐く奴は初めてた。こんなボロ船に乗ってる奴が、海軍大将と知り合いなわけないだろうが!!悪いことは言わん、10分だけ待ってやる。降伏するか、死ぬか決めろ!!」
それはこっちのセリフだし、俺達がヤマット大将と知り合いなのは本当だ。
ベイラを見ると親指を突き立てている。準備完了ということだ。
「よし、先制攻撃で決める。大型艦にありったけぶち込んでやれ!!」
気付かれないように主砲の照準を合わせ、他の魔道砲にもゴブリン隊とコボルト隊の水夫を配置する。
10分後、再度海賊が降伏勧告をしてきた。
「時間だ。答えを聞かせてもらおうか!!」
「もちろん降伏・・・するわけないニャ!!バーカ!!」
それが合図だった。
轟音が鳴り響く。大型艦は近距離で主砲の一撃を被弾し、更に他の魔道砲の砲撃も着弾して、もう沈没寸前だ。油断大敵だ。魔法障壁を張る暇も与えなかったからな。
予想外の反撃を受けて、海賊達は大混乱だった。2~3発魔道砲が被弾しただけで、白旗を上げている海賊船もいる。
もう戦闘と呼べるものではなかった。
一方的な展開だった。商船を改造した船は既に沈没していた。俺は拡声の魔道具で勧告する。
「すぐに白旗を上げろ!!命だけは助けてやる!!積荷はもらうけどな!!」
ちょっと、海賊ぽく言ってみた。意外に効果はあったようで、すべての船から白旗が上がった。
みんな安堵の表情を浮かべる。
ただ一人を除いて・・・・
「もう終わっちゃったのか・・・なんかつまらないな・・・僕もそのデッカイ奴を撃たせてよ」
魔道砲を撃つには大量の魔石を消費する。ましてや主砲は普通の魔道砲の2~3倍消費する。そんなにバンバン撃たせられるか!!
だが、ここで勇者に機嫌を損ねられても面倒くさい。
「少し待ってろ。まずは戦後処理が先だ」
「本当だろうね?嘘吐いたら死ぬからね」
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