15 海賊退治 1
「いいよ!!凄くいい!!船長、勇者とは、まさにこういう感じだよ」
あれだけ、渋っていた勇者だったが、手の平を返したように大喜びだ。他のパーティーもメンバーも喜んでいる。
話は少し遡る。
冒険者ギルドを訪れたのは、ヤマット大将から要請があったからだ。受付を訪ねると受付嬢が丁寧に応対をしてくれた。
「これはドレイク閣下、ゴースト様よりお手紙が届いています」
その場で手紙を確認する。
「これからは、儂らが直接会うことはできん。なので、冒険者ギルドの手紙でやり取りすることとする。早速だが、海賊退治を一件受けてもらいたい。ゴーストという依頼者名で依頼が出ているはずだ。詳しい状況を説明せず、ただ依頼だけ受けろと言うのも、酷い話だと思うが、損はさせん。受ける受けないは自由だが、願わくば是非受けて欲しい。
ゴーストより」
手の平の上で転がされているようで癪だが、受けることにした。何か裏があるのだろう。海賊退治なんて、数えきれないくらいやって来たからな。俺は掲示板から依頼書を剥がし、受付に持っていく。
「海賊退治ですね。しばらく誰も受けてくれなくて困っていたんですよ。よろしくお願いいたします」
「分かった。それでだが、資料を出してもらえるか?」
すぐに受付嬢が資料を持って来てくれた。この速さといい、本当に困っていたのだろう。
最初は冒険者ギルドの物珍しさに大人しくしていた勇者だったが、俺にまとわりついて来る。
「なんで依頼なんか受けてるんだ!!これじゃあ、ゆっくり観光とかできないじゃないか!!前に来た時は、トラブルに巻き込まれて、観光できなかったんだからね」
トラブルに巻き込まれたのではなく、お前がトラブルの元凶だったんだろうが!!
「いやいや、勇者様。俺の話を聞いてくださいよ」
ここで冒頭の会話につながるのだが、俺が勇者に言ったのはこうだった。
「つまりですね。謎の誰かが颯爽と海賊を討伐し、国民が、誰だ誰だと騒ぎ出したところで、勇者様が登場するんですよ。どうです、カッコイイでしょう?
まるで物語に出て来るヒーローのようです」
「いいよ!!凄くいい!!船長、勇者とは、まさにこういう感じだよ」
他のメンバーも口々に言う。
「この旅で初めてかもしれん。勇者パーティーとして相応しい仕事をするのは」
「怖いけど頑張りますよ」
「海賊の一匹や二匹なら、人体実験に使っても怒られないですよね?」
勇者はというと、上機嫌で冒険者ギルドを出て行った。
「細かいところは船長達に任せるよ。僕はその辺を観光してくるからね。夜までに帰らなかったら、死んだと思ってくれていいからね」
勇者がギルドから外に出たところで、セガスがメイドのアデーレに目配せをする。アデーレもギルドを出て行った。多分、勇者の監視だろう。
★★★
うるさい馬鹿が居なくなったところで、航海士と勇者パーティーメンバーを集めて作戦会議を始める。ギルドに言ったら、すぐに会議室を貸してくれた。これも期待の現れだろう。
全員で手分けして資料を読んでいるとすぐにマルカが言った。
「多分、バリスや周辺の港で実入りのいい獲物を物色してるんでしょうね。そして、向かう先はサウザン諸島。襲撃地点から考えて、サウザン諸島のどこかに海賊の拠点があるんでしょうね」
やはりマルカは天才だ。性格がヤバい以外は完璧かもしれない。
マルカの予想を元にさらに資料を読み込んでいく。
サウザン諸島は鉱山資源が多く産出する。
いくら争いを避けたがるボンジョール王国でも、サンタロゴス島のように領有権を放棄することはしなかった。それぐらい鉱山資源が豊富なのだ。
何となく読めてきた。
現在は先の戦争で、完全にボンジョール王国の領土となっているサウザン諸島だが、帝国はクリスタ連邦国にやったような嫌がらせは続けていたようだ。多分海賊は、帝国の私掠船だろう。ヤマット大将が「誇り高い帝国海軍が、海賊崩れと一緒にされるなんて、遺憾だ!!」と怒鳴っている姿が目に浮かぶ。
そうか・・・そういうことか・・・
あくまでも推測の域を出ないので、航海士達に伝える事はしなかった。
「それで作戦なんだが、こういうのはどうだろう?」
★★★
「クリスタ連邦国のスパイスは高く売れたニャ!!これを元手にしてサウザン諸島に乗り込んで、鉱石を買い占めるニャ!!」
「そうだねお姉ちゃん!!相場を確認したけど、銀がいつもより安いよ。クリスタ連邦国では銀が値上がりしてるからビッグチャンスだよ」
「ニャんだって!!それは一大事ニャ!!明日にでも出発するニャ!!」
「時は金なりだね。お姉ちゃん!!」
目の前で三文芝居を繰り広げているのは、ミケとニコラスだ。世間知らずの姉弟が、偶々大金を得て、サウザン諸島に買い付けに行く設定を演じている。
ここはバリスの商業ギルドで、俺とリュドミラとデイジーを中心にミケ達の周辺を監視している。餌に食い付くのを待っているのだ。
すると、どう見ても商人に見えない集団、そこら辺のチンピラやゴロツキっぽい奴らがミケ達を見ながら、ひそひそと会話をしていた。
喰いついた。多分、海賊団の関係者だろう。
俺は気付かれないようにミケにハンドサインを送る。ミケはケモ耳をピクピクと動かして、「了解」の意思を伝えて来た。
ミケとニコラスは商業ギルドを出る。するとその集団も一緒に外に出た。途中、食料品を買ったり、ポーションを買ったりして、いかにもこれから航海に出ると臭わせる。その集団は、明らかにミケ達を尾行していた。俺たちに尾行されているとも知らずに・・・。
リュドミラが言う。
「本人たちは、捕食者のつもりでいるんでしょうが、まさか自分が捕食されるとは思ってもいないでしょうね」
「そうだな。自分は賢い、出し抜いてやったと思っているときこそ、隙が生まれやすい。俺にも経験がある」
これにデイジーがツッコミを入れて来る。
「それって、アトラとのやり取りを言っているのか?我からすれば、あそこまでアトラとやり合える船長殿は、称賛に値すると思うのだがな」
「お褒めの言葉は有難いが、勝負ごとは勝たなきゃ意味がない。
おっと、ミケの耳がまた動いている。俺達は帰って、戦いに備えるぞ。後の尾行はコボルト達に任せよう」
俺達は尾行を切り上げて、クリスタリブレ号に帰還した。
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