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13 勇者パーティーの船長

なおもノーギー大将の話は続く。


「油断しきっていた我らは、食料の大半を町や村の倉庫に保管していた。倉庫には自主的に差し出した島の食料もあり、島の責任者は『カギは預けておきますので、ご自由にお使いください』と言ってきたのだ。協力的すぎる行動に不信感を抱いていたが、参謀を含めた部下は『まあ、戦後の待遇を考えてのことでしょう。早期に降伏し、協力した者には、我々がそれ相応の待遇を保証していることを知っているのでしょう』と言っていたし、我もそう思っていた・・・・。


住民が消えた日の朝、食料を保管していた倉庫は火事になっていた。我々は一夜にして食料の大半を失ってしまった。すぐに一緒に上陸していた海軍の隊長に、何隻か本国に帰還して、物資を持ってくるように要請した。そこに一隻の戦艦が現れた。多分、我らが「クリスタの亡霊」と呼んでいるこの船だった。挑発するように砲撃を繰り返していた。怒った海軍の連中は全艦出撃して行った。しかし、彼らが帰ってくることは永久になかった。


そこからは地獄の日々がスタートした。なんたって、食料はないからな。魚を獲ったり、島の内陸部を探索して獣や魔物を狩って、何とか飢えを凌いでいた。これでも、昔は冒険者の真似事をしていたからな。数日後、本国から補給艦がやって来た。部下達も我も狂喜したものだ。しかし、結果は最悪だった。目の前で沈められた。なぜ我らの目の前で沈める必要があるのだ?


すぐに理由が分かった。我らの心を折るためだ。それに生き残った船員達が、必死で泳いで岸までやって来る。これが地獄だと分かるだろう?

ただでさえギリギリの食料事情のところに食わせるべき人間だけが増えていくのだからな。定期的にその地獄はやって来た。最後のほうは、恥ずかしながら「全員溺れ死んでくれ」と思ったものだ。


そんな状況なので、喧嘩は絶えないし、食料を巡った殺しも起きた。部下達はすすり泣く『陸にさえ上がって来てくれたら、俺達が勝つのに・・・』、それが分かっているから、決して奴らは陸には上がって来なかったのだろう。

それからドール海海戦までの間、耐え忍ぶ日々が続いたのだ。


そして海戦の日、一個艦隊がやって来た。旗艦からは拡声の魔道具で『すぐに乗船準備をせよ!!現在大海戦が行われている。海戦が終わるまでに回収を完了しておきたい!!』との広報があった。こちらもすぐに応答する。


そうして我らは、一戦も交えることなく終戦を迎えたというわけだ。この海戦で海軍大将は戦死、我らを助けてくれたのが、そこにいるイソックだ。その縁が今でも続いているのだ。まあ、そちらはそちらで思うところはあるだろう。ただ、こういうことがあったと知ってほしかっただけだ。どうこうして欲しいとかはない」


相手は相手で、思いがあることは分かったが、親父たちがそれで死んだ事実が無くなるわけではない。どう答えていいか分からないところにヤマット大将が言う。


「過去は過去じゃ。これからは未来の話をしよう。儂らは、主戦派が勇者を使って戦争を引き起こそうとしていると考えておる。現在、海軍と陸軍はそれぞれボンジョール王国との国境付近で演習が予定されておるし、勇者もボンジョール王国へ向かうことが決定しているのじゃ。これから考えても分かるじゃろう?」


「つまり、ボンジョール王国と戦争を始めようってことか?」


「計画を少し変えたのじゃろう。当初はボンジョール王国にクリスタ連邦国を攻めさせようとしていたところを逆にして、クリスタ連邦国にボンジョール王国を攻めさせようと計画を変更したのじゃろうな」


やっぱり、共倒れを狙っているのか。仮にボンジョール王国を植民地や属国にされてしまったら、大陸は帝国が制覇してしまう。そうなったら手遅れだ。


「そこで依頼というのはじゃな。勇者を上手く誘導して、戦争を回避してほしいのじゃ。あの馬鹿タレの相手は大変かもしれんがな」


「勇者を目的地まで運ぶのが仕事だと思っていたが、そんな裏の任務があるなんてびっくりだ。それが本来の勇者パーティーの船長の仕事って言うんならな、やってやるよ!!」


そうは言ってみたものの、これからもあの馬鹿の相手をするのは、正直辛い。予想できないし、すぐに「死ぬ」って言うし・・・


でもやるしかない。世界の平和を託された存在、それが勇者パーティーの船長なのだ!!


とカッコつけてはみるが、それって勇者の仕事だろうが!!

とツッコミを入れたくなる。



★★★


3日後、勇者が船に乗り込んできた。正式にボンジョール王国行が決まったからだ。表向きはクリスタリブレ号のお披露目と協力関係の強化ということになっているのだが、前回のボンジョール王国の失態をねちっこく突いて、更に攻め立てるつもりだろう。それに使節団とは名乗ってはいるが、軍艦を5隻も引き連れて行く必要ってあるのか?


俺は、一体どうしたらいいんだ。勇者に媚びへつらって、誘導するか・・・それとも宥めスカして・・・


そんなことを考えていたが、勇者の顔を見たら、怒りが湧いて来た。晩餐会での出来事を思い出したからだ。気が付いたら、口に出ていた。


「おい!!嘘吐き勇者。謝罪の言葉はないのか?もしかして、死に過ぎて記憶喪失にでもなっているのか?それとも、毎日100回嘘を吐かないと勇者じゃなくなるとかか?」


すぐに勇者は怒り出した。


「久しぶりに会ったと思ったら無礼なことばっかり言って、腹が立つ。僕に恨みでもあるのか?」


「あるに決まってるだろ、この馬鹿勇者!!」


「馬鹿って言ったほうが馬鹿なんだよね。この馬鹿船長!!」


「もういいから黙ってろ!!手柄横取り勇者!!」


「そんなこと言うなら死んでやるからな。お前の所為で戦争になるぞ!!」


ここで俺は用意していた「死ぬぞ」対策を発動する。


「どうぞ、ご自由に。この船には証人となる帝国の大臣さんもおられますしね。流石にこれで戦争はできないでしょう?宣戦布告文には何て書くのでしょう?「死んでやると言う勇者を止めなかった」とかですかね?」


嫌味っぽく言ってやった。


「うるさい、うるさい、うるさい!!死んでやる、死んでやる、死んでやる!!」


「それにな、マルカに聞いたが、死に戻りの地点登録は勇者じゃなくてもできるそうだな。勇者パーティーのメンバーであれば誰でも。そこで思い付いたんだ。ここでお前が死ぬとする。そして、放置したまま、船は進む。現地に着いたら地点登録をして、みんな死んでもらう。俺達としては静かな船旅ができるから、万々歳だ。船長として言えることは一つ。

「どうぞごゆっくりと、ボンジョール王国までの静かな()をお楽しみください」だ!!」


「覚えていろ、絶対許さないからね」


そう言うと勇者は個室に閉じこもってしまった。

スッキリしたが、勇者に戦争を起こさせないという目的からは遠のいた。争いは不毛だというのがよく分かる。


これからのことを打ち合わせしようとしたところ、大臣は言った。


「いやあ、仲が良ろしいようで・・・お邪魔な私達は軍艦に乗ることにしましょう。そうだ、そうしよう」


そして、大臣達は帝国の軍艦に乗り込んでしまった。


おい!!お前らがいなくなったら、また勇者が息を吹き返すだろうが!!


後で、聞いた話だが、一般国民は知らないが、帝国の上層部の間では勇者のヤバさは知れ渡っているらしい。なので、媚びへつらうか、徹底的に避けるのが定石だそうだ。


そんなことはこの際もういい。


俺の後ろにニコニコしながら勇者が立っている。


「何か死にたくなっちゃったなあ・・・どうしようかな・・・」


俺は震えていた。


そして一日と持たず、俺は勇者に無条件降伏することになる。

気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!


今回で第一章は終了です。次回からは勇者との冒険が本格的に始まります。

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