120 ゾロタス聖神国へ
レーガン参謀本部長の説明によるとクリーチャーを操っている者は、大聖堂にいる可能性が高いという。作戦としては、陸軍戦力が敵を抑えているうちに、聖都ルベンシアの中央に流れるロンジス川を上流に登り、大聖堂に接近、一斉に魔道砲で攻撃を加えるというのものだった。
「陸軍も聖都ルベンシアには近付けていませんし、敵も我々の狙いが分かっているようなので、ロンジス川の守りも固い状況で、海軍単独では作戦を達成できそうにありません。最大火力である勇者様が協力してくれるのであれば、帝国軍が全力をもって、クリスタリブレ号を射程圏内にお連れします」
これにはアトラが反応する。
「つまり、僕が最後の最後で悪者を打ち倒すということだよね。まあ、任せてくれたまえ」
相変わらず、謎の自信を持っている。女王陛下も応じる。
「クリスタ連邦国とゾロタス聖神国は、かなり距離がある。帝国領内でも散発的ではあるが、クリーチャーが発生している。帝国も手が回らんだろうから、帝国領内のサポートをしてやろう。ゾロタス聖神国にはリザドの艦隊を派遣する。機動力があるからクリスタリブレ号のサポートをさせよう」
女王陛下も協力してくれるようだ。
「ところで、ネルソン坊は何かないのか?」
「そうだな・・・相手の戦力が分からない以上、もっと戦力が欲しいですね。俺に心当たりがあるんですが・・・」
「遠慮せずに申してみよ」
俺は魔王国と駄目元で竜王国に協力要請することを進言した。
「これは面白い。頼むのはタダじゃから、そうしてくれ」
これにカーミラが反応する。
「その役目、我に任してくれ。いくらクリスタリブレ号が速くても、ドラゴンには勝てんからな」
その後詳細を話し合い、会議は終了した。カーミラとサギュラは別行動で、イーストエンドで任務中のリザドの艦隊、竜王国への交渉、魔王国への協力要請を一手に引き受けてくれることになった。
「カーミラ、気を付けてな。無理はするなよ」
「分かっている。ウエストエンド港で待っている」
会議から3日後、俺たちはとりあえず、竜王国のとゾロタス聖神国との国境にある港、ウエストエンド港へ出発することになった。因みにアトラだが、会議を早々に抜け出して帝都に出店したレストランの視察に行っていた。皆いないほうがいいと思ったのだろうか、気付いても知らないフリをしていた。
★★★
かなり高速で航行した。過去最高記録を叩き出して、ウエストエンド港に到着した。
ウエストエンド港でカーミラとサギュラと合流した。
「待ちくたびれたぞ。竜王国も魔王国も協力してくれることになった」
「それはお手柄だ。ありがとう」
「気にするな。ただ、状況はあまりよくないようだ」
カーミラが言うには、現在帝国海軍のヤマット大将の案内で、各部隊の代表者は、戦場を確認に行っているそうで明日には戻って来るようだ。とりあえず、いつでも出撃できるように準備を整えて、ゆっくりと休むことにした。
次の日、戻ってきたヤマット大将の仕切りで軍議が始まった。
「わざわざ集まってもらって礼を言う。クリーチャーとの戦闘経験のない部隊はショックが大きかったと思うが・・・」
ここでリザドが意見を言う。
「確かに驚いたよ。だが、それ以上に許せない気持ちでいっぱいだ。命を何だと思ってやがるんだ!!」
普段チャラチャラしているリザドがここまで怒るのは珍しい。クリーチャーには余程腹が立っているのだろう。
「まあ、それはここに居る者全員が同じ気持ちじゃろう。だが、気持ちだけでは戦は勝てん。勇者パーティーが合流してくれたから、再度状況説明と今後の方針を話し合うとしよう」
ヤマット大将の説明を聞く。
本当に虫唾が走る。
ヤマット大将によると襲われた村や町の住民が軒並みクリーチャーに変えられる。そして、クリーチャーを倒しても、今度は死霊術師が死体をアンデットに変えて向かってくるそうだ。
「クリーチャーを倒した後もアンデットとならないように浄化や供養をしてからの進軍となるので、計画通り、陸軍も進軍できていない。今の状況で海軍戦力だけで、大聖堂に突撃したところで、犬死じゃろう。それどころか、クリーチャーにされかねん」
陸軍の進軍が進まないのも頷ける。無理して突撃すれば、戦闘不能になった味方がクリーチャーやアンデットに変えられる危険性があるからな。極力死者や負傷者を出さないように進軍しているようだ。
「船長殿は意見はあるか?」
なぜ、俺に話を振るんだ?俺は一介の船長で軍師じゃないぞ。
「とりあえず、こちらの戦力を教えてほしい。作戦はそれからだな。ところで魔王国からは・・・」
言いかけたところで、お袋が言う。
「一丁前に軍師気取りか?まあ、ウチは魔王陛下以下軍艦10隻、輸送艦2隻で来ているよ。言うことを聞くかどうかは、作戦を聞いてみてだね」
「なんでお袋が代表してるんだよ。魔王様はどうしたんだ?」
「魔王陛下は勇者様と一緒に食べ歩きに行ったよ。魔王陛下は『素人が口を出さない。一砲撃手として扱ってほしい』とおっしゃられているからね。なんで、旗艦の艦長であるアタイが総大将でトーゴが副官だよ」
ベイムやマロンといった旧クリスタリブレ号の乗員もいることだし、問題はないだろうけど・・・・
「ヤマット大将、本当に俺が作戦を立ててもいいんですか?」
「そうしてくれ。こっちはもうお手上げじゃ。そもそも帝国海軍は、防御に特化した艦隊編成じゃから、攻撃には向かんのじゃ・・・」
ヤマット大将の話では、当初は陸軍の支援だけを考えていたそうだ。しかし、陸戦も膠着状態なので、各国の援軍を頼んだようだ。
「分かりました。とりあえず、少し時間をください」
俺はヤマット大将、親父たちと共に作戦を根底から見直すことにした。
というか、こういうのは勇者の仕事じゃないのか?
もう、諦めた。
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