118 事後処理
カイドリアで捕縛した教会関係者の尋問や奇怪な生物となった哀れな者たちの身元確認が進む。町に被害はなかったのが幸いだが、今も町は混乱状態にある。この状況ですぐにこの町から離れるわけにはいかないので、物資の輸送など、手伝えることは手伝うことにした。
中でも、勇者アトラや竜騎士たちによるパフォーマンスは好評で、落ち込んでいる市民たちを元気づけていた。
そんな活動も1週間が過ぎ、概ね事件の概要が判明した。
ナザールが説明にやって来た。
「捕縛した教会関係者の話によると、カイドリアにあったアジトは実験施設だったようだ。教会は昔から非人道的な実験を繰り返していた。死に戻りの研究もそうだが、麻薬を利用した洗脳なども・・・・・そして、今回は麻薬と魔石を利用し、自我を無くした危険生物を生み出す研究を本格的に始め、その手始めにこの地が選ばれたというわけだ。ゆくゆくは、こういた生物を世界各地にばら撒き、神の天罰と喧伝して、再び教会の権力を取り戻そうとする作戦だったようだ。本当に反吐が出る、最低の野郎どもだ。これで、国際協力に消極的だった父上も、本格的に教会の排除のための国際会議に参加すると明言していた。多くの被害を出したが、この国の政策は前に進んだと思う」
本当にイカれた馬鹿な奴等だ。コイツら崇拝しているのは邪神か何かなのだろうか?
「それと王位継承の件だが、ニザールの評価が思いのほか高くなってな。やはり、竜騎士とともにカイドリアに重装騎兵を引き連れて援軍に来たことが、国民には頼もしく映ったのだろう。これで、ニザールが王位を継承しても、文句が出ないだろうな」
ナザールはどうしても、弟のニザール王子に王位に就いてもらいたいようだ。しかし、混乱するカイドリアで的確な指揮を取り、被害を防いだのは何といってもナザールの手腕だ。普通に考えれば、ナザールの方が能力は高い。
「この際お前が継げばいいんじゃないのか?」
「こっちも色々あるんだ。それで、少し頼みがあるんだが・・・・」
★★★
ナザールの頼みというのは、サハール王国の国王との謁見だった。まあ、こちらは勇者パーティーなので、こういったことは慣れっこだ。なので、今回はアトラが無茶をしないように事前にすり合わせを行った。俺たちも過去の失敗を生かすくらいの頭はあるからな。
聞いたところ、特に礼儀などはうるさく言わない国王のようで、俺がアトラの過去の失敗談を話すと大笑いした。
「族長の息子にいきなり、水をぶっ掛けただと?ワハハハ・・・それは傑作だ。まあ、多少の無礼は許す。何なら、ワザと怒らせて貸しを作るのも手かもしれんな」
「父上、お戯れもほどほどに・・・・」
ナザールが取り持ってくれた。国王は初老の男で、精悍な顔つきをしている。まだまだ、王位を譲らなくていい感じはする。
そんなこんなで、謁見が始まる。アトラはというと王都に着いてからは接待漬けで、名所の古代遺跡にガイド付きで案内してもらったこともあり上機嫌だった。まあ、これなら心配はいらないだろう。
謁見も無事に終わろうとしていた頃、予想外の事態が起こる。ニザール王子が突然、話始めた。
「父上!!今回の件で自分の未熟さを知ることができました。つきましては、私を留学に出して欲しいのです」
これには国王もナザールも驚いていた。自分が常に正しく、兄であるナザールに嫉妬の炎を燃やしていた人物とは思えないようで、驚きがだんだんと成長を喜ぶ表情に変わっていく。
「ニザールよ。許可しよう。書状はすぐに用意する。それで船長殿、クリスタ連邦国への帰還に合わせて、ニザールをスパイシアまで、送り届けてくれないだろうか?」
「もちろんですよ。多少、出発が延びても構いませんから」
断る理由なんてないし、我儘王子が改心したので、この国も安泰だろう。ナザールが継ぐにしても、ニザール王子が継ぐにしても、将来は明るいだろうし。
そんなことを思っていたら、またまた、予想外のことをニザール王子が言う。
「ありがとうございます、父上。それでもう一つお願いがあります。我はこちらのデイジー殿を妃に迎えたいと思います。どうかお許しを!!」
これには場が氷付く。求婚を受けたデイジーを見ると、寝耳に水だったようで、呆気に取られていた。
「ど、どういうことだ・・・我は何も聞いておらんが・・・・」
ニザール王子の暴走のようだった。ここで、ナザールが機転を利かせる。
「父上、一旦謁見を打ち切ればどうでしょうか?今後のことは別室で・・・」
「そ、そうだな・・・・これにて謁見は終了とする。勇者殿並びにパーティーメンバーの諸君、本当に世話になった。国民を代表して礼を言う」
謁見を終了し、場所を応接室に移動して、事情を聞く。
ニザールが王子が言う。
「デイジー殿は美しく素晴らしい女性で・・・・」
ニザール王子は厳しく叱られた経験があまりないらしく、いきなり、しかも女性に殴られたことは衝撃的だったようだ。そして、厳しいだけでなく、温かく励まされ、次第に好意を寄せたそうだ。
特に国王を説得して、虎の子の重装騎兵を出兵させたときに、王族とは何か、国民のために何をすべきかを熱く語る姿に感銘を受けた。
そして極めつけは、デイドラに騎乗して重装騎兵を率いている時に言われた一言だった。
『貴殿はこの国の希望で、そして誇りだ。これまでの失策は今は忘れ、堂々と雄々しくサハール王国の旗を振れ!!』
まあ、あれで士気が高まったのは事実だがな。
「ですから、我はデイジー殿と一緒にこの国を一層繁栄させていこうと思っておるのです」
「そ、そんな・・・我は・・・何も・・・・それに・・・」
デイジーは困っているようだ。デイジーはこう見えてもドルドナ公国の公女だし、受けるにしても断るにしても国際問題になる。父であるドルドナ公国の大公に裁可を仰ぐのが筋だろう。
仕方なく、間に入る。
「ニザール王子、失礼ながら申し上げます。こちらのデイジー殿はドルドナ公国の公女であらせられ、しかも勇者パーティーの一員でもあります。お気持ちは分かりますが、すぐに結論は出ないものと思料されます」
「そ、それはそうだな・・・我も冷静さを欠いていた」
お前はいつものことだろうが!!とは言えなかった。
国王が言う。
「とりあえず婚儀のことは、調整しよう。まずはしっかりと勉強して参れ」
何とか話はまとまったようだ。
帰り際にデイジーに声を掛ける。
「デイジー、そこまでやれば惚れられても仕方ないぞ。気を付けろよ」
「自覚のない者が何を言う!!」
なぜか分からないが、デイジーに睨みつけられた。
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