115 教会の戦力
クリスタリブレ号に戻り、戦闘態勢を取る。副官のリュドミラに船の業務を任せ、俺とアトラとナザールがミニドラに乗り、カーミラとデイジーもそれぞれサギュラとデイドラに乗って、アジトまで向かう。戦闘はカーミラとデイジーに任せる布陣だ。
ミニドラも戦闘ができないわけではないが、二匹に比べたら劣るので、もし戦闘があれば逃げに徹することにする。
アジトは港から少し内陸に入った小高い丘の上の教会だった。
第二王子であるニザール王子配下の部下約300名が取り囲んでおり、今にも襲撃を開始するようだ。
「歯向かう者は容赦なく打ち倒せ!!突撃!!」
ニザール王子の号令で一斉に行動を開始した。心配そうなナザールを励まそうと軽口を叩く。
「布陣の仕方や突撃のタイミングなんかは及第点じゃないのか?流石は王子様かな?」
「アイツは努力家だからな。基本的なことは抑えている。ただ、少し運が悪いのと視野が狭いのが玉に瑕だがな」
「まあ、この感じだと俺たちの出番はなさそうだな?」
これにはアトラが反応する。
「なんだって!!僕が活躍できなければ、ここに来た意味がないじゃないか!!すぐに討伐隊に加わろう」
「アトラ、落ち着けよ。名目上、俺たちの任務は補給物資の搬送と後方支援だぞ。いきなり先頭に立って活動はできない。そんなことをしたら国際問題だ。参戦するにしてもピンチになってからだ」
「だったら早く、ピンチになってくれないかなあ・・・そこを僕がカッコよく助ける。それがいい」
「縁起でもないことを言うな!!それにお前は観光するって言ってなかったか?」
「そうだ!!それもしないと。だったらもう帰ろう。観光しているうちにピンチになれば、また来ればいい」
本当にこの馬鹿勇者は!!
そんな話をしているうちに戦闘が始まる。教会から何かが出て来た。人の形はしているが、人ではないようだ。おぞましいという言葉がピッタリなほど、奇怪な形をしている。筋肉は異常に膨れ上がっているが、目に生気はなく、足取りもおぼつかない。そんなのが100体は教会から出て来た。
「なんだあれは?魔物か?」
「教会が魔物を飼っているなんて報告はない。流石に分かるだろうしな」
ニザール王子の部下とその奇怪な生物との戦闘を観察する。その生物は異常だった。
手を切られ、頭を潰されても動き続ける。ニザール王子の部下たちも困惑している。それはそうだろう。人間や魔物であれば、致命傷といえるダメージを与えているのに動き続けているんだからな。そんな相手だからだろう。だんだんとニザール王子の部隊が押され始めた。
更に悪いことは続く。指揮官であるニザール王子が恐怖に駆られている。
「な、なんだ!!どうしてこんなことに!!」
「ニザール王子!!ご指示を!!」
その光景を見たナザールは言う。
「アイツは昔から予想外の事態が起こるパニックになるんだ。その癖に予定を急遽変更したりするんだがな」
「そんな昔話はいい。問題はどうするかだ」
指揮官であるニザール王子が使い物にならなくなったことで、戦闘は圧倒的に不利になった。逃げ出す者も多く出て来た。そして、ドカーンという爆発音が響く。
教会側の奇怪な生物がニザール王子の部隊員に抱き着いて爆発した。自爆攻撃だ。
「船長殿、すまんが弟を救出してくれないか?」
「それはいいけど、その後はどうするんだ?」
「一旦、カイドリアまで撤退する。これは町を上げて防衛戦をしなきゃならんレベルだ。住民の避難やカイドリアの治安部隊との連携などやることは山のようにあるからな。少なくない部隊員を見殺しにすることになるだろうが、この状況だ・・・・仕方ない」
非情な判断だが、的確な判断だろう。パッと見ただけで、30人程は戦死、50名程が重症だ。部隊としては壊滅と言っていいだろう。
「分かった。デイジー!!ニザール王子を回収してくれ!!」
「心得た!!」
「カーミラは撤退の支援をしてくれ!!」
「承知した!!」
俺とアトラとナザールはミニドラに乗り、ニザール王子の部下たちに指示を出して回る。
ナザールが叫ぶ。
「第一王子のナザールだ!!命令だ!!撤退しろ!!ニザールの安全は確保した!!安心しろ!!」
デイジーが放心状態のニザール王子をデイドラに乗せて回収できたのを確認した。カーミラは劣勢の戦場で加勢して、多くの部隊員の命を救っていた。
「ナザール、とりあえずカイドリアに戻ろうと思うが?」
「そうしてくれ。できれば総督府まで運んでもらいたい。今後の対応を協議する。協議すると言っても、ほとんど時間は残されてないがな」
★★★
カイドリアの総督府に着いた。カーミラにはクリスタリブレ号に状況を知らせに行ってもらい、戦闘態勢を維持するように指示を出した。総督府はというとパニック状態だった。
「そ、そんな・・・こんなことになるなんて・・・もしかしたら、これが神の天罰というやつか・・・」
総督の弱気な発言をナザールが一喝する。
「総督のお前がそんなことでどうする!!仮に神の天罰だったとしても、それは後の話だ。まずは今の危機を乗り越えるぞ!!総督府で治安維持部隊と冒険者をかき集めろ。冒険者にはギルマスでもある俺の名前を使え。それに報酬も弾むと伝えろ。それと魔石も集めろ。魔道砲を使わなければ対処できん」
「も、申し訳ありませんでした。すぐに手配します。
おい!!早速手配しろ!!住民にも非常事態宣言を出して、協力を促せ!!戦えない者たちには避難準備をさせろ!!」
ナザールの指示で目まぐるしく動き始める。
一方、ニザール王子はというと未だに放心状態だった。
「お、俺の所為で・・・多くの部下を殺してしまった・・・・どうすれば・・・」
ここまで見る限りでは、ナザールが王位を継いだほうが国のためだろうな。
そんなことを思っていたところ、デイジーがいきなりニザール王子を殴り付けた。
おい!!デイジー!!
お前までトラブルメーカーになったのか?アトラじゃないんだから止めてくれ・・・
デイジーが吠える。
「貴殿は王子であろう!!これは国家存亡の危機かもしれん。王子として相応しい行動を取れ!!兄に対するコンプレックスがあるのは理解する。しかし、それで滅びた国家もあるのだぞ。まあ、私の母国だが・・・」
まあ、デイジーの気持ちもよく分かる。帝国に兄弟を仲違いさせられて、国を乗っ取られたからな。
デイジーに殴られたことで、ニザール王子は少し落ち着いたようだ。
「すまなかった。部下を死なせたことは、後で責任を取ろう。まずはできることをしなければな・・・
兄上、指示を頼む」
「分かった。それではお前に命じよう。王都に行って、3日で国軍を連れてこい!!後の者は3日は持ちこたえさせるぞ!!」
「「オー!!」」
大きな歓声が上がる。こういう人を乗せるところは、流石は王族と言ったところだろう。
「船長殿、すまないが・・・」
「皆まで言うな。デイジー、ニザール王子とともに王都に飛んでくれ。勇者パーティーでドルドナ公国の王女のお前なら、話も上手くいくだろう。まあ、乗りかかった船だから、やってやるよ。船長だけにな」
結局、また厄介ごとに巻き込まれてしまった。
ある程度、体制が決まったところで、ふとアトラを探す。総督府の職員に聞いてみると驚きの回答を得た。
「勇者様ですか?観光に行くと言っていましたけど」
あの馬鹿勇者!!状況が分かっているのか!!
結局、アトラを探すという追加任務まで増えてしまった。
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