113 勇者パーティーの活動
魔王国との平和条約の締結から3年が経った。
現在のところ大きな戦争は起きていない。肝心の勇者パーティーだが、解散することはなかった。これは国際的な平和大使とのしての役割が大きく、解散するメリットがないからだ。特に大きな仕事はなく、偶に魔物や海賊退治をしている以外は、毎年決まった活動をしている。
そのうちの一つが、ドルドナ公国とボンジョール王国で共同開発している黒土地帯での開墾作業だ。一応アトラは名誉領主なのだが、ここを訪れる時期は毎年春と秋の2回で、滞在期間は現地の担当者の開墾計画に沿った開墾作業を行うことになっている。アトラも乗り気で来る度に発展している町の様子を見て、誇らしげに自慢してきたり、領民と一緒に行う開墾作業は楽しいらしく、アトラクターが壊れる寸前まで稼働させて開墾作業に精を出している。
それと同じくして近隣のドルドナ公国にも立ち寄って、アトラが勝手に名付けたアトラ米の収穫作業なんかを手伝ったりもするのだ。小麦も米も計画よりも多く収穫できているようだった。
また、俺たちがやっている仕事は農作業だけではない。ドレイク領において、留学生たちの海洋実習の教官もしている。船での生活は、教育的にも効果が高いらしく、伝統的に続けていくことになっていた。今も新入生たちを指導して、サンタロゴス島までの航海の引率をしている。
中には不満を漏らす新入生もいる。
「どうして、貴族の私がこんなことを・・・水夫の真似事なんて・・・」
指導しようと思っていたが、一緒に引率しているマリー王女に指導されていた。
「貴族だからこそですよ!!一人が欠けても船は進みません。国の運営も同じです。人の上に立つ者が、下々の苦労や頑張りを理解することが、良い国づくりにつながると思っています。それを体験してもらうのに、この実習は最適なのです」
「も、申しわけありません。マリー王女・・・」
マリー王女も逞しくなったものだ。多分、今叱られた御令嬢も来年あたりには、後輩に指導していることだろう。姉貴の考えもマリー王女と同じで、一人一人の役割の重要性と指揮する者が全体の仕事を把握して、的確に指示を出すことの重要性を学んでほしいという思いだ。
「よし!!もうすぐロゴスだ!!楽しんでもいいが、危ないところには行くなよ!!単独行動も禁止だからな!!」
自分で言っても笑ってしまうが、俺もなんだか口うるさくなってしまった。
そして、毎年恒例行事の最後の仕事は、砂漠の国サハール王国へのアトラ米とアトラ小麦の輸送船の護衛だ。友好の証としてボンジョール王国から格安で卸しているのだが、今回は新商品のアトラ芋も大量に持って来ている。勇者パーティーが来る必要はないが、セレモニー的な意味もあり、なし崩し的に毎年輸送船の護衛に就くことになっているのだ。
まあ、護衛と言っても襲ってくる海賊なんかはいやしない。俺たちを襲おうと思う時点で海賊失格だろう。3年前と比べて戦力が大幅にアップしているからな。
勇者砲と呼んでいる主砲の一撃は50発まで撃つことが可能になり、更にスクリューや魔力伝導の関係を改良したので、機動力も大幅にアップしている。そして、デイドラ、サギュラはもちろん、娘のミニドラも最近では、アトラを乗せて飛ぶことができるし、ザドラを乗せて海中に潜ることもできる。竜騎士が3騎もいる戦艦に喧嘩を売るような奴は、まずいないだろう。
★★★
サハール王国の港町タガールに寄港した。毎年のことなので、積荷の荷下ろしは手際がいい。ここですることは特に何もない。冒険者ギルドで、積荷の受取証をもらうことぐらいだ。毎年のことだが、ギルマスのナザールが出迎えてくれ、応接室に案内されて歓待を受ける。
「毎年助かるよ。我が国の食料事情もかなり改善した。国民を代表して礼を言うよ」
「俺たちは運んで来ただけだ。ボンジョール王国や各国の首脳陣に言ってくれよ」
「そっちのほうはもうやっているよ」
一介のギルドマスターができることではないと思うのだが・・・・
「それはそうと、この後の予定は?」
「特にはないな。砂漠特産の火酒を仕入れて、クリスタ連邦国で売ろうと思っているくらいかな。一般受けはしないが、ドワーフや一部の酒豪には人気があるからな。女王陛下もお気に入りだし」
「そいつはよかった。それで一つ依頼を受けてくれたら助かるんだが・・・・」
ギルマスのナザールが言うには、近々大規模に聖神教会の残党を討伐に向かうそうだ。このときは仲が悪い第一王子と第二王子も共闘するらしい。今回の討伐作戦では第二王子がメインで作戦の立案を行っており、第一王子派は後方支援が担当のようだった。
「まあ、セレモニー的な要素が強いと思って欲しい。保守派も革新派も関係なく、勇者様と一緒に残党を討伐したって結果がほしいんだ」
ここで少し疑問に思うことがあった。サハール王国自体は、勇者との親密さをアピールしたところで何の得もない。今までもそうだったし、砂漠という天然の要塞があるため、他国からの侵略もない。ボンジョール王国とは接しているため、帝国と教会にボンジョール王国の軍備を分散させる目的で利用されかけたことはあったが、国家存亡の危機に陥ったこともない。
「少し気になるんだが、俺たちを利用する意図は何だ?勇者パーティーとの親密さをアピールする必要なんてないと思うが・・・」
「流石だな・・・鋭い指摘だ。まあ、一言で言えば、何かあったときの保険ってことだ。どうも今回の作戦は心配でな・・・」
ナザールが言うには、襲撃予定の教会の残党が潜んでいるアジトだが、偵察隊を送り込んだが、誰一人として帰還しなかったそうだ。第一王子は第二王子に対して、「もっと慎重になったほうがいい」と意見したそうだが、聞き入れなかったという。
「この討伐作戦が失敗に終われば、教会側が「我々は神に守られている」とか言い出しかねん。革新派もそれなりに戦力を整えて作戦に当たるようだが、精鋭の斥候部隊が全滅するなんて、まず有り得ない。力押しだけで何とかなるとは思えないんだ。
まあ、これが取り越し苦労だといいんだがな・・・」
教会絡みの依頼なら話は別だし、俺たちも教会がこのまま大人しく引き下がるとは思っていない。なので、この依頼を受けることにした。
「依頼は受ける。但し、こちらはこちらで調査をさせてもらう。サハール王国内で自由に通行できるように取り計らってくれ」
「それは有難い。国賓クラスの待遇を約束しよう」
国賓クラス?
少し疑問は残るが、報酬も弾んでくれるようなので、有難く受けることにした。
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