104 おもてなし
アトラが生まれたてのドラゴンに名付けをしたことで、竜王国の国王自らスパイシアにやって来ることになった。これに合わせて我らの女王陛下もスパイシアにやって来る。そして、ドラゴンが生まれたお祝いということで、第三王子とポコ総督までやって来るようだ。それを聞きつけた、海洋国アルジェットの女王マメラと虎王国の女王、餓狼族の族長がやって来る。更に熊獣人の族長もやって来るようで、理由はご息女がスパイシアに留学するためだ。そして、驚いたことに帝国のコム―ル大臣まで来るようだ。
これで困ったのが姉貴たちだ。そもそもドレイク領でここまでの要人を受け入れるのは無理だ。前回は、英雄である親父たちが帰還することもあって、国が全面的に支援してくれるとともに、急遽のことで、多少の粗相があっても各国ともに文句を言わない状況だった。
しかし、今回は2回目だ。
しかも、アトラが勝手にドラゴンに名付けをしたことで、竜王国がどのような態度に出てくるか分からない。他にも懸案事項はある。本人たちは、表立って言わないが、虎王国、餓狼族、熊獣人の間には大昔から続くライバル関係があって、互いに張り合っているそうだ。
そのような難しい情勢の中、途方に暮れている姉貴とパウロ、それと国から派遣された外交部の文官3名が頭を悩ませていた。
「一体どうしたらいいのかしら・・・女王陛下から何か指示はありましたか?」
「特には・・・『いい酒を用意しておけ』とは言われましたけど・・・」
執務室に入ると俺に気付いたたようで、姉貴が俺に声を掛けてきた。
「ネルソン、何かいい案はない?本当に困っているのよ」
「そうだな・・・まずは具体的に何に困っているかを言ってみろよ」
「まずは宿泊場所かな」
宿泊場所か・・・最近、ドレイク領は他領や国外から多くの商人や貴族が訪れるようになり、大型のホテルをオープンさせている。ボンジョール王国の第三王子が支配人や料理人を手配してくれたのも大きかった。しかし、大型のホテルはこの1軒だけだ。後は昔からある冒険者用の宿しかない。
「それなら、あのホテルに全員詰め込めばいいんだよ。消去法で言ってもそれしかないだろ?」
文官の一人が難色を示す。
「しかし、通例では各国に一つずつ宿泊場所を・・・・」
「だから、そこはドレイク領の伝統だって押し切ればいいんだよ。俺も世界各国を回ったけど、各国ともやり方はバラバラだ。虎王国なんて、宴会の途中に謁見するのが最大限のもてなしだからな。それに100年以上ドレイク領に各国の要人が集うなんてなかっただろ?」
「そうですね。それでいきましょう。そちらのほうが警護も楽ですしね」
何とか解決したようだ。
しかし、問題がまだあるようで、文官は言う。
「後は圧倒的にスタッフが足りません。要人に対して、最低限の案内くらいができればいいのですが、それでも、誰でもいいというのではなく、最低限の教養は必要でして・・・・」
「それは、留学生を使えばいいんじゃないか?それは伝統というか、新しい試みでってことにしてさ。多少失敗しても、勉強の一環で、一生懸命に頑張っている子供たちに本気で怒る奴はいないだろ?」
「それは、そうですが・・・」
「それにこっちには竜王国の王女とドルドナ公国の公女がいるから、カーミラとデイジーに指導してもらえばいいだろ?元気な奴が多いけど、いきなりモフモフしたり、水をぶっ掛けたりする奴はいないだろうしな」
「そうですね。それを採用しましょう。流石にそんな人はいませんよね。いても、もう処刑されているでしょうから」
まあいるし、処刑もされてないんだけど・・・・
「後は揉めてしまった時の対応ですが・・・」
「酒でも飲ませておけば大丈夫だよ。みんな酒好きのようだしな。サハール王国で貰った火酒を提供するから使ってくれ」
問題は大体解決した。早速留学生とカーミラとデイジーを集めて細かい打ち合わせをする。ここで活躍したのはボンジョール王国のマリー王女だ。父親が外交担当であることから、幼いころより、海外での活動経験も豊富だ。留学生それぞれが担当する国を割り振っていく。
「カインとメアリーはクリスタ連邦国をお願いするわ。英雄のトーゴ殿とアンヌ殿の御子息と御息女ですから、大目に見てもらえると思います。ガルは虎王国、タイガ王子は餓狼族・・・・」
マリー王女も頼もしくなったものだ。
アトラはというとそんなことは無視して、ミニドラと戯れていた。偶に無理やり、ミニドラに跨って飛ぼうとさせて、サギュラとデイドラに制裁を加えられていたけどな・・・
「そして最後に、船長殿にお願いします。絶対に勇者様の側を離れないでください。その・・・・何といいますか・・・トラブルを・・・」
かなり言いにくそうにしているが、言わんとすることは分かる。タイガ王子とガル君が言う。
「ああ、絶対に必要だ。船長殿が一番重要な任務かもしれん」
「何かあれば、すぐに戦争になるからな」
ということで、俺は最も危険で、重要な任務を与えられてしまったのだった。
★★★
続々と要人が到着する。
最初に到着したのはボンジョール王国の第三王子夫妻だった。早速、マリー王女が相談を持ち掛ける。第三王子が感心したように言う。
「なるほどな・・・こんなやり方があったとは驚いたよ。今後の参考にさせてもらう。何かあれば私がフォローしよう。マリーが一生懸命にやっていることだからね」
「ありがとうございます、お父様。でもこれを考えたのは船長殿で・・・」
「まあ、そうだろうな。間違っても勇者殿でないことだけは確かだ」
続いては、マメラと虎王国の族長、餓狼族の族長、熊獣人の族長だった。聞いたところによるとマメラの船で一緒に来たらしい。懸念していた仲の悪さもこのメンバーには無いようだった。
マメラが言う。
「カーミラ王女にアタイの部屋に来るように言ってくれるか?始まる前にみんなで飲もうって話になっているからね。マリアにはこっちが声を掛けるから、よろしく頼むよ。それにしても気が利くねえ。私たちが仲がいいことを知って、部屋を近くにしてくれたのかなあ?流石は船長だ」
そんなことは全く知らないんだけど・・・
「分かりました。すぐにでも」
担当のタイガ王子とガル君を中心に手配をしていた。これを虎王国の女王と餓狼族の族長が微笑ましく見ている。作戦通り、「子供達が頑張ってます作戦」は上手くいっているようだった。
「カーミラ王女に聞かないとね。押しかけ女房かってね?」
最後の言葉は意味が分からなかったけど、最初の出迎えは問題なさそうだった。
少し遅れて、女王陛下も到着した。特に何も言うことはなかった。マメラたちと飲むとは言っていたけど。
そして次の日には、竜王国のゲクラン王がやって来た。カーミラと挨拶を交わす。出迎えには女王陛下も来ていた。何かトラブルがあれば迅速に対処するためだ。
「とりあえず、新しく誕生したドラゴンを見させてほしい」
ゲクラン王がどのような行動にでるのか・・・不安で仕方がない。
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