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10 帝都へ

サンタロゴス島からグレイティムール大帝国の帝都ベルダンまでは普通に行けば、7日程で着く。しかし、予定外のトラブルがあり、期日まで後4日しかない。普通に行けば絶望的だ。セガスを通じて情報は伝わっていると思うが、そんなことは関係ないだろう。

皇帝との謁見の際には、「クリスタ連邦国軍の艦隊など、のろまな亀だ」とか言われかねない。


船を進めながら、航海士を集めて対策を練る。


「俺のスキルをフル稼働して間に合うかどうかだな。ハープはどうだ?」


「1日に1時間、3回が限界だよ~」


「ミケ、これで計算できるか?」


「4日と少し・・・もう少し余裕が欲しいニャ」


そんなとき、インプ隊長のブーイが提案してきた。


「弟子のマルカは風魔法がある程度使えるようです。ハープ姐さん程じゃないにしてもなんとかなるかもしれません。俺達で抱え上げて、飛んで、風魔法をマストに撃ってもらえれば・・・どうでしょうか?」


名案だ。試してみる価値はある。


「よし!!それで行こう。ミケは状況を見て計算し直してくれ」


「了解ニャ!!」


会議が終わりかけたところに例のごとく馬鹿勇者が乱入して来た。


「お前ら!!時間がないって分かってるのか?グダグダ喋ってないで何とかしろ!!」


「だったらどうしろって言うんだ?」


「そりゃあ・・・・オールを出して、皆で漕ぐとかさ・・・」


「無理に決まってるだろ?そんなレベルじゃないんだよ。お前はもう黙っとけ」


「何だ、その口の聞き方は?僕は神に選ばれた勇者だぞ。態度を改めなければ死んでやるからな。そして生き返ってこう言ってやるんだ。『船長に殺された』ってね」


「そんな嘘、誰が信じるんだ?」


「信じるか信じないかやってみるかい?」


ここで死なれたら、もう間に合わない。それに帝国式で罪をでっち上げるのもやりかねない。


「分かりました。態度が悪くてすいませんでした。反省してます。これでいいだろ?」


「素直じゃないか、分ればいいんだ」


勇者は満足そうに去って行く。

一体何がしたかったんだろうか?


★★★


マルカは天才だった。ハープのやっていることを見させたら、インプ達の助けを借りてだが、完璧にできた。それに新たな方法も提案して来た。


「こんな感じで、水魔法を使えばいんじゃないでしょうか?」


水魔法を船尾から後方に打ち込む。その反動で推進力にするようだ。ベイラも感心している。


「この原理を使えば、新しい何かを生み出せるッス。でも今のところハープさんのやり方でやった方が効率がいいッス」


「そうですね。研究はまたの機会としましょう」


そしてそこからは、昼間はハープとマルカ、夜間は俺がスキルでスクリューをフル回転させて進む。なんと3日で帝都まで着くことができた。まあ、俺も乗員もボロボロだけどな。

でも、勇者パーティ―と俺達の絆は深まったと思う。マルカだけでなく。デイジーもニコラスも仕事を手伝ってもらっていたからな。それにアデーレは掃除だけでなく、料理も完璧だった。冷凍のクラーケンをここまでの味に仕上げるとは思わなかった。


「前職では「深紅の料理人(クリムゾンシェフ)」って呼ばれていたんですよ」


それって血の赤じゃないよな?触れるのはよそう。


まあ、乗員達もセガスの話を聞いて同情的になっているからかもしれない。コボルト達なんかは、ニコラスに我慢してモフモフさせてあげてるようだし。これなら、上手くやっていけるかもしれない。


約一名を除いてだけど・・・


「揺れが酷かったぞ!!少しは僕の体調のことも考えろ!!」


「揺れが酷くて死んだ奴なんて見たことないぞ」


「また、そんなこと言うんだ。いいんだぞ、ここで僕が「エッチなことをされる!!助けて!!」と言いながらこの短剣を胸に刺したらどうなると思う?船長は困るよね?」


「エッチなことってどんなことだ?田舎者だから分からないんだ。教えてくれよ」


勇者は顔を真っ赤にして怒りだす。


「馬鹿!!自分で考えろ!!それ以上言うと、本当に死ぬぞ!!」


勇者は去って行く。最近、嫌がらせにも耐性ができた。何回かに一回は撃退している。ただ「死ぬぞ!!」の破壊力は絶大だ。大事な取引で、取引先に着いた途端に死なれたら大損害だ。そうなったらセガスに土下座して、少しだけ他のメンバーを殺すのを待ってもらおう。


船着き場に向かって進んでいると、帝国海軍の軍艦に囲まれた。

それはそうだろう。帝国旗は掲げているが、どう見ても帝国海軍の軍艦ではないしな。


「直ちに停船せよ!!停船しなければ、敵意ありと見做し、撃沈する」


拡声の魔道具で警告を受ける。


やれるもんならやってみろ!!


そう思ったが、大人の対応をすることにした。拡声の魔道具で応答する。


「こちらはクリスタリブレ号、勇者パーティー所属の船だ」


警告を発した戦艦からは、動揺した声が聞こえてくる。拡声の魔道具を切り忘れたんだろう。


「そ、そんな・・・あり得ない。ロゴス・ベルダン間を3日で・・・そんなはずがない・・・」


しばらくして、再度呼びかけがあった。


「これより貴艦に乗船し、調査を行う。下手な真似はするな」


「どうぞ、ご自由に」


数人の軍人が乗り込んできた。なぜか勇者が出迎えていた。


「ご苦労さん。僕のことは知ってるよね?」


「もちろんです。帝都で知らない者はいませんよ。こんなに早く到着されるなんて、一体どんな手を使ったんですか?」


「それは秘密だよ。勇者の力とでも言っておこうか」


ドヤ顔で言うが、お前は何もしていないだろ!!

揺れが酷いと文句をいい、ゴロゴロしてただけじゃないか!!


まあ、情報を漏らさなかったことだけは褒めてやろう。セガス辺りから情報が洩れているかもしれないけどな。


そんなとき初老の男が俺に近付いて来た。多分、お偉いさんだろう。

一応礼儀としてこちらから挨拶をする。敬礼もくれてやる。


「クリスタ連邦国海軍特任大佐、船長のネルソン・ドレイクです」


「そんな畏まらんでもよい。退役前の老兵じゃからな。儂はイソック・ヤマットと申す」


イソック・ヤマットって、海軍大将じゃないか!!

何でそんな大物がここに?


その男は、船内を見回して呟いた。


「これが名高い「クリスタの亡霊」か・・・生きてるうちにお目に掛かれるとはな・・・」


「クリスタの亡霊?」


「何じゃ、知らんのか?ゴーストオブクリスタ・・・「クリスタの亡霊」、それがこの船の帝国での二つ名じゃ。神出鬼没、沈めた帝国軍艦は数知れず、誰が言ったか分からんが、まるで幽霊船のようだとな」


それは知らなかった。


「そうか・・・こちらでは船名のとおり、「クリスタの自由」って意味だが・・・」


「まあ、そんなもんじゃろう。立場が変わればな。おっと、そろそろ我らは退散しよう。勇者殿の機嫌を損ねてもいかんしな」


そう言うとそそくさと帰って行った。その後は帝国の軍船に率いられて、無事に入港を果した。なんだか人だかりができているが、どうしたんだろうか?

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