1 プロローグ
俺は中型帆船「クリスタリブレ号」の操舵室で、操縦桿を握りぼんやりと外を眺めていた。そういう俺はクリスタ連邦国海軍特任少佐の階級を持つ軍人ネルソン・ドレイクだ。18歳という若さでこの地位に就くのは現海軍総司令官殿以来の快挙らしい。
クリスタ連邦国は大小1000を超える島々が集まった連邦国家で、連邦国の海軍には、女王陛下直轄の正規軍と各領の管理による遊撃艦隊に分けられている。我が艦隊はもちろんドレイク領所属の遊撃艦隊で、艦隊とは名乗ってはいるが、実は「クリスタリブレ号」一隻のみで活動していてる。
こう見えて俺はドレイク領領主の弟なのだ。
正規軍と遊撃艦隊の違いは色々とあるが、一番は給料だ。
正規軍は毎月定額給料が支給されるが、こっちは支給されない。その分自由は効くからいいんだが。女王陛下による招集に応招する義務と戦争への参加義務以外はうるさく言われることはない。海に生きる者にとって自由とは何よりも大事だからな。
そうは言っても先立つものが必要だ。だって給料がもらえないんだから自分で稼ぐしかないだろ?
ということで海洋ギルドからの依頼をこなしたり、交易したりして、活動資金を得なければならない。それなりに水夫や航海士を抱えているからな。海洋ギルドはクリスタ連邦国が運営している組織で、ここで様々な依頼を受けることができる。言ってみれば、海の冒険者ギルドみたいなもんだ。商船の護衛から海賊退治、魔物退治まで、仕事はいくらでもある。ここに登録すれば自動的に準海軍の扱いになるし、海軍の評価制度とも直結しているから依頼は定期的に受けないとな。
そういう俺ものんびりしているように見えて実は、今も依頼中だ。もう10日もこの海域を彷徨っている。討伐依頼を受けた魔物が見付けられないのだ。
そんな俺に話しかけてきたのはエルフの美少女リュドミラだ。エルフなので年齢は分からない。小さいときに年齢を聞いたら殴られた。それ以後年齢のことについては触れないことにしている。今は航海士として副官の役割をしてもらっている。
「船長、あと10日以内に発見して討伐しないと赤字になります。安全策を取るなら失敗で報告するしかありません」
「でもなあ・・・依頼主が女王陛下だから評価も上がるし、それに報酬もかなりいいからな。素材は全部こちらにもらえるから、討伐できればかなり美味しいんだ。ギリギリまでやりたいんだが・・・」
「でも船長、戦闘で船が傷付いたら修理しないと駄目ッスよ。その経費も考えないと・・・この前取り付けたスクリューの経費をやっと払い終えたんスから」
この会話に入って来たのはドワーフの航海士ベイラだ。船大工や弾薬の管理をしてもらっている。本人は美少女キャラだと思っているが、ずんぐりしているので、疑問が残る。まあ、可愛いといえば可愛いけど。
そんなのんびりとした。雰囲気の中で、ビービー!!とけたたましく魔道具のサイレンが鳴り、見張りをしていたインプの水夫が魔道具を使って叫ぶ。
「発見!!発見!!討伐対象のホーンシャークの群れを発見!!目視だけで30はいます!!」
俺は拡声の魔道具を手に取り、叫ぶ。
「これより戦闘態勢に入る!!総員配置に着け!!」
更に鳥人族の少女ハープに別途指示をする。
鳥人族は飛行能力があるし、ハープは風魔法の達人だ。
「偵察を頼む。くれぐれも気を付けろよ」
「分かってるよ~心配してくれてありがとう~」
気の抜けた返事だが、実力は確かだ。
「じゃあ、さっさと片付けるか!!」
★★★
討伐対象のホーンシャークは鮫型の魔物で、頭部にある鋭利な角が特徴的だ。一匹二匹なら問題は無いが、ここまで群れると厄介だ。群れにぶつかれば、小型の商船なんかあっという間に沈没する。女王陛下自ら依頼するのも納得だ。
偵察から帰って来た鳥人族のハープから報告を受ける。
「いっぱいいたよ~50匹はいるよ~デッカイ奴がボスみたい~凄くデッカクて普通の奴の5倍は大きいよ~」
「多分、キラーホーンシャークだ。普通のホーンシャークが2メートルだから、10メートルクラスか・・・かなり大物だな。ただ、ソイツを倒せば後は雑魚狩りだ。ハープ、リュドミラ頼めるか?作戦は・・・・」
「危険だね~でも大丈夫~」
「まあ、この距離なら外しませんよ」
「後は雑魚狩りだけど・・・」
「大丈夫さ!!ゴブリン達に戦闘態勢は取らせてるからね。いざとなったらアタイが潜って狩ってやるからさ」
そう言うのはリザードマンの女航海士のザドラだ。主に戦闘や甲板仕事の責任者をしてもらっている。親分肌でいい奴だ。顔は綺麗だが、大柄で筋肉質だ。
「じゃあ、それで頼む」
群れに近付き、一斉に弓で攻撃を開始する。魔道砲を使わないのは、素材を綺麗に手に入れたいからだ。俺たちに気付いたホーンシャークの群れは一斉に近付いてくる。かなりお怒りのようだ。ここまでは作戦通りだった。
「じゃあ行ってくるよ~」
そう言うとハープは飛び出し、水面すれすれを挑発するように飛んで行く。ホーンシャークもジャンプしてハープを串刺しにしようとしているが、ハープは事もなげにヒラヒラと躱していく。そうしたところ、群れの中から一際大きな個体が顔を出し、一気に上昇した。
危ない!!
そう思ったがハープは急上昇して、その攻撃を躱した。
「余裕だよう~」
ジャンプしたのは予想通りキラーホーンシャークだった。その空中で無防備になったキラーホーンシャークの頭部に1本の矢が突き刺さる。リュドミラが放った矢だ。バシャーンと大きな水しぶきを上げてキラーホーンシャークは水面に落ちた。しばらくして、仰向けになり水面に浮かんで来た。討伐成功だ。水夫達が完成を上げる。
「リュドミラ姐さんの狙撃はいつ見ても凄いな!!」
「ああ、連邦国一の腕は伊達じゃないぜ!!」
「よし!!今日は宴会だな」
そこにリザードマンのザドラが怒鳴る。
「気を抜くんじゃないよ!!これから一匹でも多く狩るんだよ!!ゴブリン、コボルトは回収準備、インプ達は攻撃の届かない場所まで飛んで、矢を撃ちまくれ!!アタイはこれから潜って狩ってやるから」
俺が指示するまでもなく、ホーンシャークは討伐され回収されていく。
2時間後、数匹のホーンシャークは取り逃がしたが、それでもキラーホーンシャークを含めて53匹の収穫があった。
「卵と角を中心に回収しろよ!!魔石も忘れるな!!それ以外は冷凍室に放り込んでおけ!!キラーホーンシャークは女王陛下にそのまま献上するから、丁寧に扱えよ。血抜きをしっかりしたらそれも冷凍室だ」
テキパキと水夫達が働き始める。粗方終わりかけたところで、叫ぶ。
「よし!!今日は大宴会だ!!吐くまで飲むぞ!!」
「「「やったあ!!」」
女王陛下の依頼を無事達成し、予想以上の素材も採取できた。今回は本当に上手くいった。
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