第四話 情報部報告書
本編の情報の補足も兼ねていますが、本筋にはあまり関係がないので読み飛ばしていただいても大丈夫です。
以下、帝都南部の平原にて保護された流民の少年について、監視及び諜報の結果を報告する。
保護時に重傷を負っていたものの、現在対象の心身はいたって良好、怪我の後遺症等は見られず、すこぶる壮健にて不調などなし。
容貌は帝国の一般的なものとは非常に異なり、黒髪茶目、平たい顔などの特徴は極東部族の情報にとの類似が確認できる。追って簡易な素描を送付する。また、極東部族に関する情報があれば至急共有されたし。
回収した装備品と衣服についても、我が帝国近辺では全く見られないものである。特に携帯していた片刃の剣については、細身なれど剛性強く、一般的な剣・大剣とは異なる素材と加工法によって生成されたものと予想される。士官学校側が管理権を主張しているため現物の輸送は困難であり、技術者をこちらに派遣し鑑定されることを望む。
対象に反抗的な態度は見られず、規律正しく指示に対して極めて従順。食事等の作法は全く身についておらず矯正の必要性はあるが、決して粗野とも言えず、一定の身分のもと教育を受けていたことが推測されるが、これに関しては更なる調査を必要とする。
反応が鈍重なため一見愚鈍に思われるが、言語の習得には驚嘆すべきものが見受けられる。発音に相当の難があるものの既に初級の文法を習得、短文の会話であれば意思疎通が可能。今後とも教育を継続することで語学力の更なる向上が期待される。監視に先立ち選定した文法書については既に対象が十分な理解を示したため、新たに中級程度の文法書、あるいはそれに準ずる書籍を用意されたし。
対象との関係は総じて良好である一方、対象が非常に寡黙なため諜報については期待に十分に応えること能わず。ただし対象の保護現場に居合わせたとされる女子学生に対しては一定の信頼があるように見受けられる。こちらから当学生に接近し良好な関係を築くことで、対象から更なる情報収集が見込まれる。至急士官学校に対して当学生と対象との同行許可を取得願う。
対象の帰属について、保護の現場にご子息が同席したとされるアルレーンのオルレンラント侯爵からの引き渡し要請が入ったとのこと、委細承知した。本官は学校側、侯爵との交渉の窓口となると推測されるが、軍部の具体的な交渉条件を指示されたし。
以上、任務の経過は極めて順調である。引き続き監視の継続を要請する。
プロシアント帝国情報部 フランツ=マイヤー