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話すべきか? 話さないべきか?

 私は15歳の誕生日に魔王となったわけだが、日常生活に変化はなかった。生えてきた角も目立たないし、私の変化に誰も気づいていない。


 仕事の方も順調だ。東の森で農作物や間伐材かんばつざいの販売をハース王国向けに開始したことによって、人間と魔物の交流が少しずつ増えてきた。特に、間伐材は建築資材としてハース王国で重宝されている。


 間伐材は森林の成長過程で密集化する立木を間引く間伐の過程で発生する木材のことだ。

 木を切ることは森にとって悪いことだと思っていたのだが、どうやら私の認識が間違っていたらしい。

 私の父の知人に林業従事者がいて、少し前に東の森の状態を見てもらった。その時に、木が密集しすぎていて成長できない木が多くあると教えられた。つまり、木が成長できるように間引かないと、いい森が育たないらしい。その木を間引く過程で間伐材ができるから、それを人間向けの建築資材として販売するようになった。


 魔物から人間に販売する品が増えたのと同様に、人間から魔物が仕入れる商品も増えていった。主な仕入れは東の森での生活に利用できる日用品、備蓄用食料や武器などだ。


***


 私が忙しく過ごしていると、森にカール王子がやってきた。カール王子は魔物たちと楽しそうに話をしている。すっかり魔物たちに慣れて仲良しだ。普通の人間は積極的に魔物たちと交流しないから、カール王子はかなり変人だと思う。


 私を見つけたカール王子は「雰囲気が変わったね」と言った。まさか私が覚醒したことは知らないはずだ。他の人には気付かれなかったのに、カール王子だけが気付いたのか? それとも、森の魔物から聞いたのだろうか?


 カール王子が気付いているのであれば、私は魔王になったことをカール王子に伝えるべきだ。でも、気付いていなければ、わざわざ伝える必要はないかもしれない。

 迷った私は探りを入れるためにカール王子に話題を振ってみた。


「雰囲気が変わりましたか?」

「うん、変わった。どこが変わったかと言われると説明が難しい。そうだな・・・アリスは恋でもしているのかな?」

「違います。セクハラですよ・・・」

「説明するのは難しいけど・・・なにか違う。何かあった?」


 カール王子は私が変わったことが分かるようだ。でも、どこがどう変わったかは分かっていない。とりあえず誤魔化してこの場をやり過ごそうかと思ったが、カール王子のことだ、後で魔物に聞き込みするだろう。そして、うっかり口をすべらせた魔物からカール王子に漏れるかもしれない。

 それに、私が魔王であることを知っている人間がいた方がいい。協力者は必要だ。だけど、カール王子がどういう反応をするかが読めない。


 私はカール王子への探りを続ける。


「ええっと。以前、カール王子はハース王国に仕えていた占い師の話をしましたよね?」

「魔王が生まれるって占いのこと?」

「そうです。あの時、私のことを魔王かと聞きましたよね?」

「うん、聞いたね」

「もし・・、もしですよ・・・魔王がいたら会いたいですか?」

「会ってみたいなー。だって、誰も会ったことないんでしょ?」


 カール王子は魔王に会ってみたいと言っている。私が魔王だと知ったらカール王子は驚くかもしれない。だけど、それほど悪意のある反応はしなさそうだ。

 迷った末に、私はカール王子に伝えることにした。


「昨日、私、覚醒したんです」

「覚醒? 何に?」


「魔王・・・」私は小さく言った。


「魔王? アリスは魔王になったの?」

「そうみたいです。15年前に転生していたらしいです。それで、昨日、15歳の誕生日に覚醒しました」

「へー。かっこいいね!」


 カール王子は意外な反応をした。


「かっこいい?」

「だって、魔王だよ! 転生だよ! 男心をくすぐるよね!」

「そこ?」

「ファンタジーって感じするでしょ」

「はあ、そうですか・・・」


「魔王になって、何か変わった?」

「力と昔の記憶が蘇りました。今の私、強いですよ」

「そうだよねー。強いよねー。だって、魔王だもんねー」


 カール王子は想像した以上に魔王に食いついている。次から次へと質問が飛んでくる。


「他には?」

「あ、角が生えました。この辺り」


 私はそう言って、髪飾りで隠していた部分を指さした。カール王子は興味津々で覗き込む。


「本当だー。小さい角が生えてる。かわいいね」

「恥ずかしいから、ジロジロ見ないで下さい」

「ごめん、ごめん。角なんて初めて見たから。尻尾はないの? 」

「ありません!」


 カール王子は少し考えてから、真剣な表情で私に話しかけた。


「それで、魔王になったアリスは人間を滅ぼすの?」

「まさか・・・。魔王はそういうことしません。どうしても滅ぼしてほしいと言われたら、考えますけど」

「冗談だよ。じゃあ、今まで通りだね」


 私の心配は取り越し苦労だったようだ。カール王子は私が魔王であることをあっさり受け入れた。

 その後、カール王子は私にいくつか事務的な話をした後、ハース城へ帰っていった。


―― 変わっているけど、良い人だな


 私はカール王子が理解してくれたことに感謝した。


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