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交渉の行方(ケイトの話)

 ポールたちの交渉団が両国への交渉に向かってから1カ月が経過した。私は日々の雑務をこなしながらポールの無事を祈っていた。

 私が森を動物たちと歩いていたら、グレコが急いでやってくるのが見えた。


「どうしたの?」

「交渉団が帰ってきました」


 ついに、両国との交渉が終わったようだ。


「結果は?」

「両国との交渉は成功しました。コードウェル王国とサンダース王国は、森の教会の支配地域をマデラ共和国として認めるようです」

「そう、良かった・・・」


「でも・・・」グレコは言い難そうに呟いた。


「でも? 何か問題でも?」

「ポールが・・・」

「ポール? ポールは無事なの?」


 私の質問に対してグレコは返答しない。


「グレコ! 私の質問に答えなさい!」

「それが・・・」


 グレコは小さく呟く。


「亡くなられました・・・」

「え? だって、交渉は成功したのでしょ?」

「ええ、交渉は成功しました。両国との交渉が終わって、こちらに戻る途中に何者かに襲われたようです。状況は同行したクリスたちが知っているかと・・・」


***


 私はクリスたちのところへ向かった。交渉団のメンバーはポールの棺の前で涙を流している。

 棺の中には青年が横たわっている。外傷が酷くてポールなのかどうかも分からない。


 私は分かりきった質問をクリスにする。

「クリス、ポールは?」


 クリスは返答しない。

 私は棺の前に立って回復魔法を試みた。


―― 早く、早く。まだ、まだ、逝かないで・・・


 私の回復魔法でもポールの外傷は回復しない。既に手遅れのようだ。

 残念ながら私に死者を復活させる力はない。

「ポール、私を残して逝かないで!」


 崩れ落ちた私はポールの棺の前から動けない。

 棺の周りではポールを知る者たちが涙を流している。


 しばらくしたらクリスは「ポールは私たちを庇って・・」と言った。


 ポールを失った悲しみが、一瞬にして怒りに変わる。


「誰が? 犯人は誰?」


 私が叫ぶとクリスはびくんと身体を震わせた。


「それが・・・」

「誰なの? コードウェル王国? サンダース王国?」

「・・・」


 私の中に別の自分がいるような感覚がした。もう一人の自分はポールを殺したコードウェル王国とサンダース王国を滅ぼせと言っている。


 私はグレコを呼んで尋ねた。

「コードウェル王国の王城はどっち?」


「あちらの方向に20kmほど離れたところかと」

 グレコは歯切れ悪そうに言うと、王城の方角を指さした。


「そう・・・」


 私は空中に浮遊してからグレコが指した方向を見た。遠くに高い建造物が見える。あれが王城、だからその周辺がコードウェル王国。


 私はその方向に手をかざした。

 黒い霧が周りに発生し、私を取り巻く。そして、黒い霧は私の翳した手にまとわりつくように滞留した後、赤く輝き始めた。


 赤黒い球体を放つその瞬間、


「おやめください!」


 声の主の巨大なレッドドラゴンは私と王城の間に入ってきて、私が攻撃するのを邪魔している。フェルナンドだ。


「どきなさい! あなたも死ぬわよ!」

「どきません!」

「これは命令! どきなさい!」

「その命令には従えません!」


 フェルナンドは長年私を支えてくれた忠実な部下だ。フェルナンドに向けて放つわけにはいかない。

 私は攻撃魔法を解除した。


「なぜ止めるのよ?」

「ケイト様、ポールは双方に被害が出ないように話し合いで解決しようとしたのです。そんなポールの努力を無駄にされるのですか?」


「私はポールの仇をとろうと・・・」私はしどろもどろに答えた。


「冷静にお考え下さい。もう交渉は終わりました。マデラ共和国の独立に関する正式な手続きは完了したのです。コードウェル王国とサンダース王国にポールを殺害する理由があると思いますか?」


 コードウェル王国とサンダース王国はマデラ共和国の独立に合意したから、ポールを殺す理由がない。それは、たしかにそうかもしれない。

 でも、ポールを殺した犯人はコードウェル王国とサンダース王国の中にいる。それは間違いない。ポールが殺された場所は両国の国境付近だ、とクリスは言っていた。

 つまり、今すぐにコードウェル王国とサンダース王国を滅ぼせば、犯人を殺すことができる。

 時間が経つと、犯人は他国に逃げてしまうかもしれない。


 私はフェルナンドの言ったことを冷静に考えようとするものの、頭が混乱していてなかなか難しい。


「じゃあ、誰がポールを殺したの?」

「それが分からないから、不必要な殺戮を控えてほしいのです」

「犯人が他国に逃げたらどうするの?」

「人間はそんなに早く移動できませんから、まだ時間はあります。それよりも、私たちがすべきことは犯人を見つけることです」

「どうやって?」


 フェルナンドは少し考えてから私に言った。


「コードウェル王国とサンダース王国に犯人捜しをさせるのはどうでしょう?」

「コードウェル王国とサンダース王国に?」

「そうです。ポールを殺した犯人を捕まえなければ、両国を滅ぼすと脅せばいいのです」


 ポールは争いを避けるために交渉に行った。ポールは無益な殺戮は望んでいない。それに、犯人はコードウェル王国かサンダース王国にいるのだから、私が直接犯人を捜索するのは難しい。

 フェルナンドが言うように、コードウェル王国とサンダース王国に犯人を探させるのは理にかなっている。


「コードウェル王国とサンダース王国が犯人を捕まえられなかったら?」

「その時はご自由に・・・」

「分かった。フェルナンドとグレコは私についてきなさい」


 私は転移魔法でコードウェル王国の王城へ向かった。


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