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追放、そして出会い


「グレン。すまないが、このパーティーから出ていってくれないか」

 

 目の前の男、シュートが俺に向かって冷たく言い放った。

 冒険者ギルドの一角、四角いテーブルを挟んで僕たちは対面していた。


 目の前の男の近くにいる女性二人を順々に見る。二人とも、睨むでもなく目をそらしているのでもなく、なんとも言えない表情をしていた。

 ただ、シュートの意見が俺を除くパーティーの総意だということは確認せずとも分かった。

 俺は気づかれないくらいの小ささで息をついた。

 


 また、()()か。

 

 

「……そうか。今までありがとな」


 

 真顔でいいながら、席を立った。机に立てかけていた大剣を背負う。


 ちらとシュートを一瞥する。

 俺が立った今、シュートがうつむいているのも相まって一部の顔しか見えないが、そこにさっきまでの好青年を彷彿とさせる爽やかな顔はなかった。

 今にもよだれが垂れそうなくらいに口許をゆがめ、こめかみに皺ができるほど目を細めている。


 

 俺がいなくなった今、このパーティーは男一人、女二人のハーレム状態と化した。

 これは憶測にすぎないが、シュートはきっと、今晩以降のことを考えて笑いが止まらなくなっているのを必死にこらえているのだろう。



 もともとこのパーティーは、俺がどこのパーティーにも行く当てがなく、そこらへんをウロチョロとさまよっていた時に、シュートが声をかけてくれて発足されたパーティーだ。



 最初のころは俺とシュートの二人だけのパーティーだったが、いつの間にか女性のメンバーが二人増えた。

 俺になんの相談もなくいきなりのことだったので驚きはしたが、新メンバーを拒む理由はなかったので、快く彼女らを受け入れた。

 それが、このパーティーにおける俺の運命の分岐点だった。



 詳細は省くが、シュートとこの女二人はいわゆる肉体関係をもつようになった。それも三人ともなかなか旺盛なので、所かまわずおっぱじめる。

 冒険先で、それを目にしたときは思わず笑いそうになってしまった。



 それで、俺の存在が邪魔になった。

 邪魔なやつをわざわざパーティーに入れておく必要はない。

 だから、追放する。



 なるほど、中々筋が通っているじゃないか。

 ということで、邪魔者はさっさとお暇しよう。

 俺は足早に冒険者ギルドを出ていった。




ーーー




 冒険者ギルドをでて、荷物が置いてある宿屋に戻った。



 自分に割り当てられた部屋に行く。

 扉を開けると、ベッドと机の二つだけが置かれている簡素な、それも薄暗い部屋が広がっている。

 扉を閉めると、大剣を腰ほどの高さの机に立てかけてベッドに飛び込んだ。



「……はあ……」



 長く深いため息。

 これで何回目の追放だろうか。

 ゴロンとベッドの上で転がり仰向けになって、手を目の前に持ってくる。

 指を折りながら、数えていく。



「……6,7,8……だめだ、指じゃ足りない」



 数えるのをやめた腕を放り投げるように横にやって、大の字になる。


 目を閉じると、どこからかこんな声が聞こえてくる。



「お前がいると、冒険がつまらなくなる」

「あんたのせいで、リーダーの俺の面目が立たない」

「俺の幼馴染がお前に惚れやがった! 出ていけ!」



 目を開けて、のっそりと起き上がる。

 まだ昼だというのに、この部屋が薄暗いのは窓を開けていないからだと気づく。

 ベッドから下りて、両開きの窓を全開にする。

 部屋が光で満ちていく。その光は、暗い部屋に順応してきた目には毒だった。

 反射で目をすぼめる。

 慣れてきたところで窓枠に肘をかけ、それに顔を乗せる。

 


「……こんなはずじゃ、なかったんだけどな」



 俺はぽつりとつぶやいた。

 昔のことを思い出す。



 数年前、世界を手玉に取ろうとする魔王がいた。

 その企みを阻止しようといくつものパーティーが立ちはだかったのだが、誰一人としてあの魔王に敵うものはいなかった。

 

 それを聞いて、当時組んでいたパーティーの一人が声高らかに言った。



「俺たちで魔王を倒そう!」



 言いながら握った拳は血管が浮き出るほど、力強いものだった。

 その言葉に「止めよう」という者は、このパーティーにいなかった。

 お互い顔を見あって、皆の顔が引き締まっていることを確認する。

 


 俺はいけるとおもった。

 このパーティーならあの魔王を倒せるという自負があった。

 誰一人として弱気なことは一切言わずに、魔王のもとへと進んでいった。



 結果的に、魔王を倒すことができた。

 ただ、俺以外のメンバーは魔王を倒す道中で息だえてしまった。

 


 喪失感に包まれながらも魔王の首を持って帰ると、俺は賞賛の嵐に包まれた。

 「よくやった」だとか、「英雄様ー!」とか。

 胴上げまでされて、終いにはちょっとしたパレードのようなものも開かれ、そこで国王から莫大な金をもらった。


 

 それから俺は莫大な金を手に、特にすることもなくのんびりと暮らし始めた。

 しかし、すぐに飽きが訪れた。

 それに、心がぽっかりと空いたような気さえした。

 やはり、自分にはあの不安定な冒険業が体に合っているのだと身に染みて分かった。



 俺はやると決めたらすぐに行動に移すタイプだ。

 思い立ったその日のうちに冒険者ギルドに足を運んで、とあるパーティーに入れさせてもらった。

 初めのうちは、歓迎された。



「英雄グレンが、うちのパーティーに入ってくれるなんて……あんたがいれば百人力、いや万人力だ!」



 そう何度もおだてられた。

 ただ、悪い気はしなかった。



 それから冒険や任務を重ねるにつれ親交は深まっていき、のんびりと暮らしていた時のあのぱっかりと空いたような心の隙間は埋まっていくような気がした。

 


 ただ、そう時間もたたずに、その時は訪れた。



 今日のように、冒険者ギルドの一角でリーダーからそれを告げられた。



「パーティーを出ていってほしい」



 いきなりのことだったので、俺は当然困惑した。

 何かの冗談だと思っていたが、リーダーと他のメンバーの顔から冗談ではないと察した。

 しどろもどろになりながらも、俺はその理由を尋ねた。

 リーダーは俺はしっかりと見据えながら言った。



「あんたが強すぎて、冒険がつまらん」



 それを聞いて、俺はめまいがした。


 強すぎて……つまらん?


 今までの冒険を思い返す。

 確かに俺が出しゃばりすぎた場面もあった。ただ、それは悪意あってのものじゃない。

 以前のように仲間が死んでほしくないがための善意からの行動であった。

 しかし、結果としてそれは裏目にでてしまったわけだ。


 

 三人のメンバーの冷たい視線が、俺に有無を言わせなかった。

 俺はうつむいて、別れの言葉もいわずにとぼとぼと冒険者ギルドを出ていった。

 


 それが俺の追放譚の、始まりの出来事だ。



 そこで、誰かの声でふと我にかえる。

 明るく、元気で高い声だった。下の方からだった気がする。

 そちらに目をやると、眼下で四人の子供が駆け回ってはしゃいでいた。

 ほほえましい光景だ。

 しばらくそれを眺めることにした。



 (……俺にもあんな時があったな……)



 魔王を討伐しにいったときのパーティーは、幼馴染で構成されていた。

 物心ついたころには既に友達であったため、いつからそのような関係であったのか、またきっかけは全く覚えていない。

 ただ、ひたすらに仲が良かった。

 何かするときはいつもその四人だったし、四人のうちの誰かが困っていたら他の三人が全力で助ける。

 持ちつ持たれつのいい関係だった。



 そう感傷に浸っていると、もうすでに眼下に少年少女の姿はなかった。



 窓枠に預けていた体の姿勢を正し、軽く伸びをした。

 ついでに、大きな深呼吸。

 手を腰に当てて、ぽつりとつぶやく。



「……やっぱり、パーティー組みたいな」



 また明日、パーティーを探そう。




ーーー




 一夜が明けて、俺は冒険者ギルドに赴いた。

 ここの冒険者ギルドは酒場と併設されているため、連中の大半の机の上には、空いた酒瓶が山のようにあり、顔は火よりも赤い。

 


 そいつらの間を縫うようにして、目的の掲示板にたどり着く。

 冒険者ギルドにはいくつもの掲示板が置いてあり、そのうちの一つにメンバー募集と銘打たれた掲示板がある。

 その前に立って、掲示板に張られた募集の紙を指でなぞりながら見ていく。



 俺は()()だから、それを募集している紙を見つければいいのだが、中々見当たらない。

 やはり、ダメか。

 冒険者の中で、剣士の割合が一番多い。

 なので現状、剣士は飽和状態にあり全く募集されていない。



 張られている紙には、魔法が使える()()()や弓を扱う()()、回復魔法を使える()()などなど。

  


 剣士を募集する紙は見当たらない。

 さて、どうしたものかと無意識に顎を撫でていると、



「あの!」



 横から声が聞こえてきた。

 もしかしたら俺に声をかけたわけじゃないかもしれないが、念のため声が聞こえてきた方に首をひねる。

 しかし視界に、俺に声をかけてきたと(おぼ)しき人物は見当たらなかった。

 聞き間違いか、と視線を掲示板を戻すと、また同じ声が聞こえてくる。



「あ、あの!」



 今度はさっきよりも明瞭に聞こえた。

 また首をひねるが、やはり人はいない。



「こっちです、こっち! 下! 下!」



 そう言われて下を見ると、そこには人がいた。

 もっと詳しく言うならば、なんとも可愛らしい少女が杖を抱えて佇んでいた。杖の先端には、赤い魔石のようなものが埋め込まれており、少女が()()()だと推測できる。



 それに、その少女は小さかった。

 俺の腰から胸のあたりまでしか身長がない。

 それに加えて、俺にかなり近い位置、腕をピクリと動かせば触れるようなところにいた。

 道理で首を横にひねっただけでは、見えないわけだ。


 


 俺は一歩下がって、その少女の全体像を視界に収めて訊く。



「何か用か?」



 それに対して少女は杖を腰に巻くように後ろで持って、上目遣いで訊いてくる。



「パーティーを探してるんですよね?」

「……ああ、そうだ」



 少女は胸を張って、それに手を当てながら、声高らかに言う。



「それなら、私とパーティー組みませんか?」






 





 






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