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昼食

 昨日の寝不足なんて忘れるくらいの居心地の悪い体験を経て、学校に登校して、朝のショートホームルームも終わり、授業が進んでいく。

 昨日の寝不足。朝の居心地の悪い体験による緊張感。それらから開放され、やってきた退屈の授業の時間は、眠くて眠くて仕方がない。

 それでも、この眠気に身を乗せて眠ってしまおうと思わなかったのは、授業を聞くことが学生の本分だからに他ならない。


 グー……。


 昼休みのチャイムを聞き、俺は目を覚ました。

 気付いたら、寝ちまっていたぜ。机に出来た水溜りのような唾。ドン引きだ。


 ポケットからティッシュを取り出し、唾を拭いて、寝ていた癖に減った腹を満たすためにカバンの中から弁当箱を取り出した。


「よく寝てたな」


 後ろにいた、浦野に言われた。


「ああ、学生って、駄目って言われたことをする人種だろ? 授業に寝ちゃ駄目。これ常識。だから、かましてやったぜ」


「寝ていた言い訳してるだけなのに、なんでこんな鼻につくんだろうな」


 ドヤ顔を見せながら、俺は弁当箱を開けた。

 学生って、寝ているだけで栄養を使うんだからしょうがねえよなあ。そんなことを思いながら、浦野と一緒にいつも通り、昼ごはんを食べようと思っていたんだ。


「槙原君!」


 弁当箱の蓋を開けて、手を合わせた時だった。

 軽井沢さんが、隣のクラスからやってきたのは。


 突然の訪問者に、授業の拷問から開放され沸き立っていたクラスが一瞬で静まり返った。


「槇原、お客だぞ」


「そうだね」


 折角弁当を食べようと思っていたのに、一体何だ。

 俺は教室の扉の方にいる軽井沢さんの方に向かった。


「槙原君、こんにちは」


「こんにちは。どうしたの、軽井沢さん? 次の授業の教科書でも忘れた?」


「? 教科書を忘れて、どうして槙原君のところに来るんですか?」


 ボケをボケ返すな。しかも、俺みたいな粗造な養殖ものではなく、天然ものだ。


「教科書を借りに来たのかなって」


「……! なるほど、そうすれば合法的に、槙原君の教科書を借りられるわけですね」


「教科書借りるに違法もないけどね?」


 まあ、教科書を忘れることは、一生徒という立場的には、罪になるかもしれない。


「それで、どうしたの?」


 まあ、この態度を見るに教科書を忘れて、俺に借りるためにここに来たわけではないことは明白。

 となれば、答えは……手に持った彼女のお弁当箱を見れば一目瞭然なのだが、はぐらかせないかなあと思って、俺は尋ねた。


「あっ、一緒にお弁当を食べようと思って」


 はぐらかせませんでしたー。


「ごめん。俺、もう食べ終わってて」


「おい槇原、嘘つくなー。ここに手の付いてないお前の弁当箱があるぞー」


 遠くから浦野の声がする。なんと間の悪い奴か。


 軽井沢さんは、俺を躱して、浦野の方を覗いていた。しばらくして、彼女は俺の方に向き直った。


「……駄目、でしょうか?」


「いや、駄目ってわけではない」


 では、なんでこんな煙たそうな態度をしているのか。


 ……どうしてだろう?


 自分でもわからない。

 俺は基本的に、他人の願い事に対しては、二つ返事でフランクに了承するような奴だったはず。

 なのに今は……いや、軽井沢さんに関してだけは、今朝からずっとこんな調子。


 なんだろう。本能的にはぐらかせないかと思ってしまうんだよなあ。


 その、理由……。


 思いつくのは……。


 まず、彼女が結構強引であること。昨日のやり取り……特に、嘘告白をした連中に食いかかろうとしたところや、今朝、わざわざ校門前で俺を待っていたこと。

 あの強引さに気圧されている部分は多いにあるだろう。


 そして、彼女が生真面目な性格であること。また嘘告白の話が出るが、それを良しとしない生真面目さ。俺のジョークを右から左へ受け流すところ。

 それらが、俺のペースに話を持ち込めなくて、微妙な空気になるからきまずくて仕方がない。


 ……後、最後は。


 彼女が、俺をす……す、好き、ということ。

 高校生になり、何度もクラスメイトに告白されてきたが、生憎それら全ては嘘告白。結果、色々あって女性不信気味だし、何よりストレートに好意を表現する彼女にたじたじだ。


 え、つまり俺……ただ彼女に日和っているだけってこと?


 この中に、日和っている奴いる?

 いるよなあ(俺)!


「君、軽井沢さんだっけ」


 日和っている俺の横に躍り出ていたのは、浦野だった。


「はい。えぇと、あなたは……?」


「浦野、こいつの後ろの席なんだ」


「友達ってことアピってほしいんだけど」


 その紹介じゃあ、俺達友達じゃないみたいじゃん。


「ほら、これ。こいつの弁当」


 まさかの身内の中に敵あり。

 飄々とした態度で、俺の弁当を軽井沢さんに渡した浦野に、俺は目を丸くした。それしか出来なかった。


 ん、と差し出されたそれを、軽井沢さんは逡巡とした後、しかと受け取った。


「ありがとうございます」


「いいよ。気にしないでくれ」


 俺の都合は気にしろよ。


「さあ、行きましょう。槙原君!」


 俺の弁当を持ち、快活に軽井沢さんは微笑んだ。


「えぇと……その」


「槇原、お前さっき言ったよな」


 しどろもどろな俺に呆れていたのは、浦野だった。


「一緒に弁当食べるの、駄目ではないんだろう?」


 ……はい。


「ああ、そうだ。男に二言はない!」


「あれだけうじうじしてた男が何を言う?」


 俺は、浦野のツッコミも無視して、軽井沢さんの隣を歩き出した。

評価、ブクマ、感想よろしくお願いします!!!

話、進んでないけど!!!!!

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