魅力
嘘告白現場を立ち去り、俺はゆっくりと社会科教室へと歩んでいった。
久しぶりの嘘告白。その際、連中から告げられたあの行いを聞いて、彼女達にも同情した結果、怒ることはしなかった。
今でも、あの時怒らなかったことは間違いではなかったと思っている。
でも、胸が少し痛かった。
嘘告白なんて、この前まで何度もされていたのに、久しぶりで心が鈍っていたのだろうか。
それとも直前に、素直な胸中を吐露することが正しいと思って、胸を痛めながらも思いを伝えたことが原因だろうか。
多分、どちらも正しい。
それくらい俺はあの時、覚悟を持ってあの場に行ったのだ。
……こんなことなら、いつも通りにはぐらかしてしまえばよかった。俺なんかに告白なんて、普通する、だとか、そんなことを言って茶化してしまえば良かった。
いいや、それはない。
……今回の嘘告白をしてきた連中と、今後もしかしたら訪れるかもしれない、本気の告白をしてくれる人は無関係。
俺を貶めたい人のせいで、そんな尊い気持ちを持った人をはぐらかすだなんて、そんなことはあってはいけない。
どちらかと言えば、俺がするべきことは……相手の悪意を見抜く能力なのではないだろうか。
それか、嘘告白なんてされないくらい、魅力的な人になることか。
……ああ、そうか。
この前、水原君の現状を聞いた時に思ったことだ。
人間として、俺は彼のことを微塵も羨ましいとは思わない。むしろ、無責任さ故に見習いたいとすら思わない。
でも同性として、俺は彼のことを僅かながら羨ましいと思ってしまう。
人間の生存本能は子孫繁栄。
子孫を繁栄するには、たくさんの異性を魅了しないといけないわけで、それは彼にあって俺にはないところ。
彼の、異性を魅了する能力は、少しだけ羨ましいと思った。
「こんにちは、槙原君」
社会科教室。
そわそわする軽井沢さんを見た俺は、彼女がどうしてそわそわしているのかわからなかった。彼女がそわそわしている理由を、考えていなかったからだ。
俺は思った。
俺には、俺のことを魅力の塊と言ってくれた人が、そばにいた、と。
「軽井沢さん、君は俺のどこに魅力を感じたの?」
「えぇえつっつ!??」
いきなりの質問に、軽井沢さんは慌てふためいた。
……しばらくして俺は、傷心のあまり随分と変なことを口走ったことに、気がついた。
「……ごめん。忘れてくれ」
恥ずかしくなった俺は、頭を抱えながらそう伝えた。
「槙原君の魅力的なところはまずは誠実なところです軽い言葉を使いがちですがその実言っていることはこちらを傷つけるような言葉を絶対に使いません遠回りしながらこちらの不足点を伝えてくれてどれだけ時間がかかっても成長を促してくれます他にははぐらかすような言い方をしますがこちらのことを考えていてくれているとわかる話し方が好きです割れ物注意と貼られた段ボールを扱うくらいの丁寧さ献身さに触れると胸がギュッと締め付けられます後絶対悪口を言わないようにする姿勢が少し臆病な子犬のようでかわいいですそれでいて勉強の教え方も上手いですし難しい問題を解けた時頭を撫でてくれた手がとてもあたたかくて気持ち良かったですしかもすぐに恥ずかしがって手を離した時のはじらう顔は押し倒してしまいそうになるくらいでした
とにかく普通に好きです。好きすぎて顔を直視するだけで緊張します。いつも目の前にいるだけで抱き締めてほしくて仕方ありません」
「ストップストップストップ!」
しかし、俺以上に取り乱した人が、目の前にいた。
慌てて俺は彼女を制止するが、止まる様子はない。壊れたロボットになった彼女が直ったのは、おおよそ三十分、俺への思いをぶちまけた後だった。
今更思った。
いつか彼女に告白された日のことだ。
彼女は俺のことを、魅力の塊だと口走った。
なんて無謀な嘘を付く人だと思ったが……どうやらあれ、本気だったらしい。
まあ、彼女のこれは随分と贔屓目が入っているからあまり参考にならないな。
主人公はヒロインの重すぎる愛を冷静に聞き流した




