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心証

 この教室内は既に、俺に対して寝取りクソ野郎という空気が充満している。そんな中、たった一人果歩ちゃんだけが助け舟を出してくれた。

 そのことが少し嬉しかったが……彼女は、俺の弁明をしきることは出来るのだろうか?


 今の状況が状況だけに、酷く不安だった。

 ただ心証最悪の俺が口を挟むのは、悪い方向にしか話が進まないと思って、俺は不安ながら黙っていようと心がけた。


「でもさあ、果歩。あの子、泣いちゃってたよ?」


「泣いたからあの子の言い分が正しいとはならなくない? むしろあたしは、あの子が泣いたから余計に信用出来なくなったなあ。だって、槙原君の言葉を借りるけど、あの子第三者の癖に、それだけ水原君の意見に肩入れしてたってことでしょ? それって、本当に正しい情報を言っていたと言えるのかな?」


「まあ確かに」


 えっ、俺が言っても敵対心を強めただけなのに。

 言う人が違うだけでこうもあっさり引く人がいるの? ドン引きなんだけど……。やっぱ私刑ってクソだわ。


「それに、槙原君って彼女いないでしょ?」


「えっ、そうなの?」


「いてもおかしくないなあと思ってたけど……」


「嘘告白の度、反応が初々しいって皆で言ってたじゃん」


 ……もしかして、それが俺が嘘告白のターゲットにされた理由?


「確かに。だから、可愛いからまたやろうって言ってたね」


 いやもうすんな。


「そうなるとでも確かに……槙原君が寝取りなんて高等なこと出来るとは到底思えないね」


「ねー」


「というか、そもそも水原君って、誰だっけ?」


「ほらあれだよ。隣のクラスのイケメン」


「あー、あのイケメンか」


 イケメンが記号化してる。

 女って、顔でしか見てないんだなって思わされた。また、女性不信を強めそうだ。


 ……ん?

 というか、隣クラスのイケメン?


「えーっ、っていうか、水原君の彼女って誰なの?」


「そう言えば、全然聞かないねぇ」


「あっ、あたし聞いたことある。……確か、軽井沢さん!」


 ……どうして、いきなり俺に寝取りの濡衣がかかったか。

 どうして、水原とやらの彼女が、寝取られたことになったのか。


 点と点が、繋がった気がした。

 ただそれと同時に、クラスメイトもまた……最近、軽井沢さんと昼休みの度、一緒に昼ごはんを食べに行く俺の顔を見始めるのだった。


「軽井沢さんと槙原君は恋人じゃないよ。友達だよ」


 優しい声で、重要なことを言ったのは、果歩ちゃんだった。


「そうなの?」


「そうだよ。あたし、前二人に聞いたもん」


「えー、でも……」


「二人は友達、だよ?」


 果歩ちゃんに食って掛かったクラスメイトは、彼女の圧に気圧されて、そっかと呟いた。


 ……そこ、重要なことだよな。

 恐らく今、クラスメイトの全員が思っているはず。


 水原とやらと軽井沢さんは付き合っている。

 そして水原とやらは、軽井沢さんを寝取られたと思っている。

 そしてそして、軽井沢さんを寝取った人は俺だと思っていた。


 ……が、もし軽井沢さんと俺が友達という話になれば、そもそもの寝取りの話がなくなるわけで……。


「え? じゃあ、寝取りは勘違いってこと?」


「なにそれ酷い。槙原君、可哀想」


 そうなるよな。

 とりあえず俺の濡衣は証明されたようで、ホッと一安心。

 

 でもこれだけは言わせてくれ?

 お前らさっき、俺のこと重罪人のように睨みつけていたからな?


 まあ、過ぎた話だし忘れよう。

 さっきのあの状況、もし俺が第三者の立場にいたとしたら、同じく寝取り野郎最低だって思ったことだろうし。


 ……そんなタイミングで、休み時間の終了を告げる鐘が鳴った。

 色々と気になるところはあっただろうが、クラスメイトは授業のため、自分の席に戻っていった。


 まあ、とりあえず身の潔白は証明出来たし、俺も一安心。……と思ったけど、もう一つ、俺はおかしな部分に気付いていた。


 それは何より、大前提の話だ。

 水原とやらと軽井沢さんは付き合っている。

 

 この部分である。


 水原とやらが、恐らくこの前の昼休み、社会科教室に来た奴だということはわかった。


 あの二人は、付き合っていたのだろうか?

 軽井沢さんのあの態度は、一度付き合った水原君に嫌気が差したからこその行動だった?


 ……あの日、俺にしてきた告白は、嘘告白だった?

 このクラスの女子と同様、俺をからかっただけだった?


『そんな低俗な嫌がらせに遭っているんですか?』(引用前もこうだったので、敢えてなら申し訳ありません)


 いいや、それはない。

 あの日、軽井沢さんは俺がクラスメイトにされていた嘘告白を低俗な嫌がらせと断じた。そんな人が、嘘告白を首謀するとはとても思えない。


 ……そうだ。

 もしあれが嘘告白だったなら、それをそれと告げる機会はこれまで何度だってあったはずなんだ。


 それをせず、軽井沢さんは今日まで俺と絡んでくれたんだ。

 告白当時、いやそれ以降も、俺は彼女に酷いことを沢山してきた。


 その度、彼女は怒っていた。

 適当にはぐらかす俺に、生真面目に怒ってきたんだ。


『槙原君、あなたのことが好きです』


 あの時、あの言葉は、きっと偽りではなかった。

 

 だとしたら、やはりあの二人は恋人関係だったことなんてないのだろう。


 ……ならば。

 

 どうして、軽井沢さんと水原とやらが付き合っているなんて話が出てくる?


 一体、誰がそんな嘘をさっきの少女に吹き込んだんだ?


 ……よそ事を考える内に、授業は終わって昼休みが始まった。

 クラスメイトは四十五分の授業を送る内に、その前の休み時間に遭った一悶着なんて、もう忘れてしまったようだった。


 その反面、俺は……。


「浦野」


 さっきのことが、頭にこびりついて離れない。


「ん?」


「一緒に、隣のクラスに来てくれない?」


「痴話喧嘩しようってんじゃないだろうな?」


「違う」


「なら、良いぜ」


「……果歩ちゃん!」


「何、槙原君?」


「ちょっと、良い?」


「……いいよー」


 俺は、信頼できる二人を引き連れて、隣のクラスに向かった。


 ……いつもなら。

 昼休みになった途端、軽井沢さんが俺と一緒に昼食を食べようと、俺を迎えに来る。


 ただ今日は……どうしてか彼女は俺の前に現れなかった。


「槙原君は、ちょっと隠れてて?」


「え、でも……」


「まあまあ、穏便に済ませるためだよ」


 渋々、俺は果歩ちゃんの言い分に従った。

 

「あっ、美穂ちゃーん!」


 果歩ちゃんは、隣のクラスの顔馴染を呼び止めた。

 美穂ちゃんとやらは、果歩ちゃんを見た後、彼女の背後にいた俺と浦野を交互に見た。特に、既に伝聞されているからか、俺の顔を見た途端、鋭い視線をよこしてきた。


「ごめん。軽井沢さんと水原君、いる?」


「ううん」


 果歩ちゃんの言葉に、美穂ちゃんとやらは首を横に振った。


「二人なら、昼休みになった途端、どっか行ったよ?」


 ……その言葉を聞いた途端、血の気が引いていくのがわかった。


「二人で?」


 語気を荒らげて、俺は美穂ちゃんとやらに尋ねた。


「え? ……う、うん」


 やばい!

 本能が、そう叫んでいた。


「あっ、おいっ! 槇原!」


 浦野の静止を聞くこともなく、俺は気付けば廊下を駆け出していた。

最近、蒸気でホッとアイマスクにハマってます。

評価、ブクマ、感想よろしくお願いします!!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 槇原君の独白がいい。 ストーリー的にはありふれている展開なんだけど、主人公の独白がリアルでテンポがいいから読みやすいしひきこまれる。 [一言] 面白そうなので少しお話が進むまで読むのを待っ…
[良い点] 面白いです。 ありがちなダイエットからのイケメン化では無く、ありのままの自分で物語が進んでいるところに好感が持てます。
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