たそがれ
私達を溶かす勢いで照らしていた太陽も、落ち着きを見せた9月の終わり、秋らしい蛙の鳴き声が網戸を通して聞こえてきた。ケロケロと上品な感じではなく、今にも叫び出しそうな酔っ払った声。合わせて家に入れてもらえず寂しげな風鈴、1人で全力疾走している落ち葉。実に田舎らしい音で溢れている。お風呂上がりの髪も乾かさずに畳の上に寝転がる。乾かさなきゃなぁと少しの罪悪感を抱きながらぼーっと外を見つめていた。夕日がもう少しで落ちて真っ暗になることだろう。あぁ、動きたくないなあ。
今日の夕飯は野菜ときのこの天ぷら、豆腐とわかめの味噌汁、そして赤札で安くなっていたらしいお刺身だ。蓋には堂々と値引きのシールが貼ってある。大好きな天ぷらに炊事場で歓喜の声をあげていると母に「髪を乾かしてきなさい」と叱られた。ふてくされながら、はぁーいと力の抜けた返事をし2階へと向かった。畳の上での脱力タイムは寒くなってきたため中断した。そろそろ長袖のパジャマを用意しなくては。洗面所につき、ゴオォという騒音を立てて、ドライヤーが必死に働いてくれる。胸より下まで伸びた髪は乾かすのも一仕事だ。約600gの重さを10分以上待ち続けなければならない。いつか全自動(持つところから解かすところまでやってくれる)の高機能ドライヤーを開発して欲しい。痺れはじめてきた腕を下ろし櫛を入れる。違う手に持ち替え、また乾かす。いっそ切ってしまいたいが、美容室に行くのもめんどくさい。なんて言ったって、家から車で一時間は走らないと髪を切れる場所はない。ただでさえ嫌いな車移動を髪を切るためだけに都会まで行くのは心底めんどくさい。なんて女子力のないやつなんだ。自覚はしているよ、ちゃんと、うん。完全に痺れてしまった左腕を下ろしまた櫛を入れる。毛先が微妙に乾いてないがまあ大丈夫そう。そんなことより天ぷらが私を待っている。急足で階段を降りて炊事場に着くとみんな揃っていた。