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『第13話 火の鳥が落ちるとき(後編)/9・大地の腕』


「来たぞ。トゥヴァード号だ!

 マルサ高台公園。煙を吐きながら向かってくるトゥヴァード号にトップス達が道を空けるように左右に散る。ウェルテムたち動けない怪我人を背負った衛士達が駆け出す。

 ゆらゆら左右に揺れながらトゥヴァード号が突っ込んでくる。揺れながらも真っ直ぐ進んでくる。

 公園事務所前に広がる道のど真ん中にルーラが精霊の槍を構えて立っている。すでにやるべき事は大地の精霊にお願い、OKをもらっている。後はそれをする合図だけ。


 トゥヴァード号のブリッジでは、舵輪の握るクインの横でスノーレが全身魔人の触手を絡みつけていた。先ほどのように魔人の魔力を注いでもらっているのだが、明らかに彼女自身の限界量を超える魔力に目は血走り、髪が震えている。まるで限界まで空気を入れた風船のようだ。

「ちょっと大丈夫? 魔力の入れすぎで破裂したりしないでよね!」

 クインの不安に

「まだ大丈夫……うっ」

 スノーレの鼻から血が一筋流れ出た。

「……もう……いいわ」

 限界を感じたスノーレが鼻血を袖でぐいと拭き取り言葉を震わせた。魔人が頷き触手を彼女から離すと前方に向き直る。そこにはブリッジを目隠しするように折れている天井部分。

 触手が絡み合い、長い棒のようになるとそのまま光沢のある刃へと変わる。

 魔人がそれを振るうとその軌跡が天井部分に走る。

 刃を触手に、腕の外骨格に収容すると右手を広げて突き出す! それに押し出されたかのように目隠ししていた天井部分が軌跡に沿ってバラバラとなり、トゥヴァード号の外に放り出された。

 一気に視界が開けると同時に強烈な風が吹き込む。魔人が右手と入れ替えるように左手を突き出すと風が止んだ。まるで魔人の魔力が結界となってブリッジを守っているかのように。

「それじゃ行ってくるわ」

 魔人とスノーレがブリッジから空に飛びだしていく。その背中にクインが不敵に微笑んだ。

「……それじゃ、あたしもやりますか」

 舵輪を握りしめ、足を踏ん張る。

 クインの視界にはトゥヴァード号の向かう先、マルサ高台公園の開けた道が迫っていた。

 そして彼女の後ろ、伝声管を握りながらイチジクもまた前を見据えていた。


 トゥヴァード号が堕ちてくる。その先には精霊の槍を構えたルーラ。

 壊れたブリッジの天井にスノーレが降りた。ブリッジを守る魔力の影響か、彼女の周辺にも風はない。魔玉の杖を構え静かに魔力の矢を引きだしていく。彼女の髪のような微かに緑がかった銀の矢。翼を破壊したとき同様、その矢には彼女の限界を超えた魔力が込められている。

 魔人はトゥヴァード号の真下を飛んでいる。

 トゥヴァード号の飛行船部分に小さな火が生まれ、広がっていく。

 火の粉が飛び散り、客室部分の外に広がった。

 公園で見ていた衛士達が「燃えてるぞ」「墜落だ」声を上げより遠くに逃げ出す。

 火が客室内に入り込んだ。撒いてあった油に火が付き、燃え広がっていく。武装乗客達が慌てて火が逃げるように反対側に這いずっていく。

 通路のプリンスキー達が唇を噛むが持ち場を離れない。

 ブリッジでは

「また燃え始めました。広がっていきます」

「消している時間はないわ。このまま決行する」

 舵輪を握るクインが叫ぶと、イチジクもそうだなとばかりに頷く。

 燃えるトゥヴァード号が炎と煙に包まれて地面に突っ込んでいく。見た目には墜落以外何物でもない。

 堕ちる。堕ちる。堕ちる。堕ちる堕ちる堕ちる堕ちる堕ちる堕ちる堕ちる。

 ルーラが目を見開き

「お願い!」

 槍の穂先を地面に突き刺した!

 大地がのけぞるように盛り上がり、細い地が指のように広がり、まるで巨大な両腕がトゥヴァード号を受け止めようとしているようだ。

『投下!』

 伝声管を通して船内にイチジク艦長の声が響くと同時に、配置された船員達とプリンスキーが一斉にロックを外す。それに連動して次々と船室と船体をつなぐ器具が外れていく。

 バラストが一斉に落ち、左右の船室部分が熟しすぎた実のように船体からこぼれる。

 船体を魔人の叫びを受けた風の精霊が取り囲み上昇気流を作り出す。

「こんのーっ!」

 クインが舵輪を引き、機首を上げる。

 墜とされた船室が地面に落ちてくるのを大地の精霊がしっかと受け止めた! そのまま落下の勢いを殺すように本来の大地へと戻っていく。が、戻っても船室の勢いは止まらず進み、勢い余ってバランスを崩し横転、事務所の建物を吹っ飛ばし、木々に突っ込んでようやく止まった。

「もう1回お願い! 火の上に!」

 ルーラの叫びを受けて大地が盛り上がると客室の燃えている部分に覆い被さるように土を降らせる。隙間から室内に流れ込んだ土が炎を消していく。巻き添えを食った武装乗客の何人かが土まみれになる。

 その上を身軽になったトゥヴァード号が飛んでいく。かなり緩やかではあるが少しずつ高度を下げて。このままでは公園を通り過ぎた先の町に突っ込む。

 トゥヴァード号屋根で構えるスノーレが前方の大地を見据え

「八方・魔導風!!」

 限界まで魔力を込めた矢を放つ。彼女の八方・魔導炎と同じように真っ直ぐ飛んでいくと弾けるように八つに分かれ大地に落ちる。反時計回りに円を描くとその円周から猛烈な上昇気流を作り出す。言わば八方・魔導炎の風バージョンだ。

 その気流の真上をトゥヴァード号がさしかかる。先ほど翼を破壊したのと同様、彼女本来の魔力を遥かに超えた魔導風と風の精霊の力が合わさって、身軽になったトゥヴァード号船体を空へと押し上げる。

 船体の船員やギメイ、プリンスキーたちが強烈な気流の中、落とされまいと必死で船体の手すりにしがみつく。

 ブリッジからの視界。視点がどんどん上がっていくのにクインが

「よし、これなら製粉所まで持つ!」

 確信して舵輪を操り、船体を安定させる。翼も推進力もほとんど失った今、わずかに動かせる飛行船部分の安定翼だけが頼りだ。


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