『第13話 火の鳥が落ちるとき(後編)/8・緊迫の船内』
ブリッジからスノーレ、ルーラ、魔人が飛び出す。
目の前に広がるウブの街。前方に広がる高台。
「落とすとしたらあそこですね」
「そうね……って、あそこ、マルサ高台公園じゃない!」
視点が違うので一瞬解らなかったが、確かにルーラが捕らわれていた公園である。
「ちょうどいいわ。ルーラ」
「はい!」
彼女が速度を上げて事務所へと飛ぶ。あれからさして時間は経っていない。
「いた、隊長!」
事務所前。捕まえたウェルテムたちを見張るトップス達の姿が見える。応援が来たのか制服姿の衛士が多い。気がついたのかオレンダの姿もある。
トゥヴァード号では体の動くスタッフ達が船室を切り離す準備をしていた。左右三ヶ所ずつ。計六ヶ所のロックを同時に外せば船室の固定器具が全て自動で外れ落下する。ただ、その外すロックはすべて本体側通路・船室の外側にある。つまり外す作業をするスタッフは全員本体に残ることになる。
「どうして中から外せるようにしてないんだ?」
「船室に人がいたまま外すことは想定していないからだ」
ロックを外すのは機関室にいて無事なスタッフとギメイ、メルダー、プリンスキー達。外し方を説明してもらい配置につく。彼らの目の前には一抱えもあるレバーがある。
『私の合図で一斉にロックを外せ。船室がなくなると同時に猛烈な風が入り込むことが予想される。外したら手近な手すりやレバーにしがみつけ。飛ばされたら終わりだぞ。命綱も忘れるな!』
伝声管からイチジクの声が響く。
「王子、無理せずブリッジにいてください」
命綱を体にくくりつけ、ロックを外すレバーにしがみついているプリンスキーに、別のレバーを握る船員が声をかける。
「大丈夫。整備も戦いも出来ない僕に出来ることはこれぐらいだ。やり遂げてみせるさ」
『よく言った! 王子のいい男レベルが上がった』
伝声管からクインの声が響く。
「プリンスキーだけかよ」
『うまくいったらみんなの良い男レベルが上がる!』
「お祝いのキスぐらいしてくれよ」
叫び愚痴るギメイに
『わかったわかった、わかりました。みんなにキスして回ってあげるわ。これは前払い。ちゅっ!』
伝声管越しの投げキッスに、一同は思わず笑ってしまった。
「着地の時にどれだけ衝撃が来るかわからん。とにかくしがみついて踏ん張れ。死なない程度の怪我は覚悟しろ!」
左舷船室。前方の壁、手すりや床にある固定用金具やそれに結びつけたタオルにしがみつく武装乗客たちに、同じようにしがみついているイントルスが叫ぶ。ただでさえ彼らは戦いで負傷している。着地の衝撃で壁や天井に叩きつけられ死亡なんて冗談にならない。
「中途半端に生かそうとするな。我らを死体にして放り出せば良いだろう」
手枷足枷をはめられたカオヤンが半ば諦め気味に言う。
「それはダメだよぉ」
手すり代わりにイントルスにしがみついているホワンが
「みなさんウブを国に戻したいんでしょう。ここで死んだら、みなさん『自分の思い通りにならないからって、かんしゃく起こしてみんなを殺そうとした駄駄っ子の集まり』になっちゃいますよぉ」
「誇りある死が駄駄っ子だと言うのか!」
「だったらどうすれば良いって言うんだ!」
武装乗客たちが叫ぶと
「お話ししたら? 国だった昔のウブはこんなに素敵だったんだよって」
あっさりホワンが答える。
「こんなにたくさんの人達が国に戻したいって思うんだから、とっても素敵な国だったんでしょ。今よりもずっと。それを伝えたら、きっとみんな国に戻りたいって思うようになるよぉ。こんなことする必要なくなるよぉ」
「こんなこと。だと」
カオヤンが撥ね返すような目で
「我々がしたことがこんなことだというのか!」
「こんなことだ」
イントルスが
「ウブが国となった暁には、お前が王になるつもりだったのだろう。言う通りにならないからとかんしゃくを起こし相手を傷つける。それが王のやることか。それが王の力か。ウブが国に戻ることを皆が拒んだとしたら、お前達を見てそう思ったのだ。
お前達の言う素晴らしい国というのは、自分たちが支配する側となれる国のことなのか。ならば支配される側の人間は支持しないだろう」
そのイントルスの頬をホワンが「コラ」と指でつつき
「ギガちゃんダメだよ。怪我人責めるのナシ」
向かれる彼女にイントルスが気恥ずかしげに目を閉じた。
右舷船室。左舷と同じように前方に背をくっつける形で武装乗客達とベルダネウス、ミーナが並んでいる。
「自分たちの製粉所に不時着させるとは。良い度胸をしていますね」
「言ったでしょ。ただの自己犠牲じゃないわ。ちゃんと見返りも期待しているわ」
「良いですね。そういう考え、私は大好きです」
ふくみ笑うベルダネウスに対し
「私に惚れても無駄よ。あなたは私の嫌いなタイプだから」
「それは良かった」
楽しげな2人につながれた武装乗客達は
「お前達、よく平気でいられるな。死ぬかも知れないんだぞ」
「あなたたちと戦ったときよりは気が楽です。何より、今、私たちを助けようとしているのはルーラたちなんですから。必ず成功します」
壁に背を預け目を閉じる。それはまるでちょっと一眠りするかのようだ。
その様子に隣のミーナは呆れたように息をつき。同じように目を閉じた。




