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『第12話 火の鳥が落ちるとき(前編)/13・ルーラ救出作戦』


「あなたじゃ話にならないわ。今ここにいる一番偉い人を出しなさい!」

 ラムが威圧的な声を窓口から事務所に流し込む。最初から話をする気などない。とにかく騒ぎを起こして地下でルーラたちを見張っているだろう奴らを1人でも多く外に引っ張り出すのが目的だ。彼らが敵視している市長の娘だからこそ効果的だ。

 思惑通り中にいる連中はウェルテムを始め大半が事務所の外に出ていた。壁に隠れ、彼女たちを一斉に襲い捕まえるつもりだ。今後どうなるかはともかく、市長の娘を捕まえて損はないと考えている。

 話によると相手はラムの他はあまり強そうじゃない男が2人。自分たちなら苦もなく捕まえられると彼らは踏んでいた。

 壁際に隠れながら、目配せしてタイミングを計る。

 離れた植え込みの陰で彼らを見つけたスラッシュが弓を構える。

 獲物を見極めたスラッシュの集中力はすごいが、今回はそれが徒になった。屋上にいるウェルテムの存在に気がつかなかった。

(今だ!)

 スラッシュが矢を放とうとした瞬間、屋上から放たれたウェルテムの矢が彼の左の二の腕に突き刺さる。

 それでもスラッシュは矢を放つが狙いはそれ、先頭を行く男の前の壁に当たって跳ね返る。

「ひるむな。女を捕まえろ!」

 叫びながらウェルテムが続けて矢を放つ。その矢はスラッシュがとっさに隠れた木の幹に突き刺さる。

「スラッシュ、逃がさん」

 彼を見据えながら新たな矢をつがえる。

 男達が飛びだしてラム達に襲いかかるその前に、窓口の死角部分、すぐ下に身を潜めていたトップスが飛びだし、愛用の槍をふるって一番前にいる男の足を穂先で斬る。

「お前ら。あいにくだが手加減している暇はない。命が惜しけりゃさっさと逃げろ」

 槍が虎のように男達に襲いかかる。人数差はあるが、それを覆すには十分すぎるほどトップスは強かった。槍が閃光のように煌めくたびに男達が倒れていく。

 離れた男がナイフを投げるが、トップスの槍ではじき返され自分の腹に突き刺さる。

 屋上からトップスを狙おうと弓を手に縁に掛けるウェルテムの周囲を熱波が覆う。反射的に飛び退き伏せるとすぐ上の空間で爆炎が送り音と風と熱が広がる。

「爆炎魔導?! 魔導師か!」

 顔をあげると、スラッシュとは別方向の茂みに魔玉の杖を構えたスノーレの姿が見えた。

 矢を放つが彼女は素早く木の陰に隠れて矢を防ぐ。

 スノーレが続けざまに屋上に爆炎魔導を発動させる。牽制が目的のため、威力はほとんどないがウェルテムにそんなことはわからない。すぐ真上で連発される爆炎魔導に彼は弓を構えることも出来ずうずくまる。


 通風口を通して爆炎魔導の音が届くのと同時に、地下室の扉が蹴破られ

「ルーラ! 無事?!」

 クインとオレンダが獲物を手に駆け込む。

 奇襲のつもりだったが相手も素人ではない。とっさに立てかけてある剣を手に2人を迎え撃つ。

「今の私はめちゃくちゃ不機嫌だからね!」

 斬りかかる剣を躱しながら相手の胴をなぎ払い、返しながらもう1人の肩を打つ。勢いよく挑む相手とつばぜり合いすると、オレンダが魔玉の杖で相手の後頭部を一撃、ひるんだところを強撃で打ち据える。彼の空拳は基本に毛が生えた程度だが今は気合いが違う。

 クインのサーベルが煌めくたびに相手が次々打ち倒されていく。オレンダも屋内では使いづらい攻撃魔導ではなく、魔玉の杖を棍棒代わりに振るう。魔玉の杖は見かけよりずっと頑丈なのだ。アバターも相手の露出した手足を狙って噛みつき、ひっかいていく。

「偉大なるウブに……栄こぐふっ」

 セリフを最後まで言わせず男にクインがとどめの一撃。

「峰打ちだから安心しなさい」

 向き合う最後の1人はここからの逆転は無理と諦めたのか、椅子に座らされたままのルーラに小剣を手に飛びかかる。彼女を道連れにする気だ。

「ルーラさん!」

 叫ぶオレンダの目の前で、ルーラは座ったまま襲いかかる男の股間を思いっきり蹴りつけた。

 股間を思いっきり蹴られて無事な男はいない。男は白目を剥き、口から泡を吐いて床にぶっ倒れる。ご愁傷様。

 ルーラもバランスを崩して倒れるのをオレンダが駆けつけ、椅子ごと起こす。

「枷の鍵は?」

 入り口近くの壁に引っかけられているのをクインが取り、投げてよこす。彼女は続けてファウロ夫妻を吊しているロープを下ろし始めた。

「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?! 変なことされませんでしたか?!」

 必死に声をかけるオレンダの姿に、未だ吊されたままのファウロ夫妻が見合って微笑む。

 ルーラの手枷を外したオレンダがポケットから白い生地を捕りだしルーラの顔の汚れをふいてあげる。照れくさそうに拭かれるままになっていた彼女だったが

「シェルマさん。それって?」

「あ?」

 つい彼は手にしたものを広げると……ルーラのパンツ。

 それが何か瞬時に悟ったルーラが、顔を真っ赤にして叫び、外した手枷で彼の脳天をぶっ叩く! オレンダが先ほど股間を蹴られた男の横に、同じような表情でぶっ倒れた。主の衝撃が伝わったのか、アバターも同じポーズで倒れる。

 その姿にクインはびっくりするも、彼が握ったままのルーラのパンツを見て察したらしい。どう説明しようと困った顔でルーラを見た。


「ニブク流捕縛術……指締め」

 ベンジャミンの呟きと共に細引きの紐が宙を舞ったかと思うと、目の前の男が後ろ手で縛られ転倒する。見ると両手は甲を合わせる形でそれぞれの指が結び合わされている。

「縛り足」

 紐が踊るように相手の巻き転倒させる。大きく後ろに曲げた両足を縛った紐が首に引っかかる形で転倒する。足を伸ばそうとすると紐が首を絞め、緩めようにも足は限界近くまで折り曲げられている。

 これらの縛りをほぼ一瞬で行うのだ。ベンジャミン恐るべし。

 何人かがラムに向かっていくのをリドゥがかばう。格闘はまるで駄目な彼だが、女性をほっぽって逃げることはしない。

「暴力は行けません」

 叫びつつラムに掴みかかる男に体当たりするが、簡単にあしらわれる。そのあっけなさに

「ちょっと。あんた男でしょ。女を守る盾ぐらいなりなさいよ!」

 男から逃げながらラムが焦りの叫び。ハッキリ言って彼女の方がリドゥより動きがいい。駆けつけたトップスが男の足を払う。

「トップスか!」

 ウェルテムが立ち上がり彼に矢を放つが槍で払われ、最後の1本は槍で打ち返され彼自身に返ってきた。とっさにかわす彼の背中に冷たいものが流れる。やはりただの相手ではない。

 スノーレが魔玉の杖を構えたところ、解き放たれた犬が吠えながら走ってくる。飛行魔導を使う暇はない。慌てて手近な枝に捕まると逆上がりの要領で上り、さらに幹を登る。吠える犬たちを眼下に彼女は木の上で身動きできない。

 魔導師の妨害がないと知ったウェルテムは、すかさず標的をラムに移す。矢を向けられた彼女は顔が強張り、体が震えて動かない。

 ウェルテムにとってはまず外すことのない的。薄ら笑いを浮かべ矢を射るのと同時にリドゥが彼女の前に駆け込み両手を広げる。矢は彼の右肩を貫いた。当たった反動でふらつくのを必死で堪える。

「こいつ!」

 立て続けに矢を射る! リドゥは恐怖で強張るもののラムの前に立ち続ける。反射的に彼女はリドゥの背中に隠れ、矢は次々と盾となったかの体に突き刺さる。それでも彼は倒れない。実は倒れそうなのだが、ラムが後ろで支える形になっていて倒れられないのだ。

 新たな矢をつがえる彼の視界に隅に光が見えた。魔導が発動する際の魔玉の光、スノーレだ。幹に隠れながら彼女が魔玉の杖を構えている。

 電撃魔導! かわしながらウェルテムは放った矢は、彼女の頬のすぐ横をかすめる。

 彼女を狙い続けるかラムに狙いを戻すか。迷う視界の隅に別の男の姿が見えた。

(スラッシュ?!)

 彼は地面に仰向けになり、矢が刺さったままの使えない左腕の代わりに両足を弓にかけ、右手で4本の矢をつがえた弦を引いている。

「四肢射的!」

 4本の矢をまとめて射る! それらは徐々に広がりながらウェルテムに襲いかかり、両の二の腕、両の太股に1本ずつ突き刺さった。

(馬鹿な……)

 矢を受けたまま仰向けに倒れるウェルテム。起き上がろうとするが手足が思うように動かない。

 既に地上では勝負がついていた。トップスの周りには打ち据えられ手足を切られ、身動きできない男達が10人近く転がっている。何人かは逃げたようだが、それを追いかける余裕はない。

「スノーレ、ベンジャミンさん。怪我人の手当を。事務所なら薬が置いてあるだろう」

 トップスは裏から中に入ると、屋上へ慎重に上がる。

 屋上のほぼ中央でウェルテムは倒れたまま呻いて動けない。矢の刺さり具合を見て

「さすがだな。スラッシュの奴、あんな状態から見事にこいつの腱を打ち抜きやがった」

 横に転がった弓矢を取ると穂先で弦を切り、階下に投げ捨てる。

 地下室に下りると、ちょうどクインがファウロ夫妻の手枷を外し自由にしたところだった。すでにルーラの枷は外され、精霊の槍も彼女の手に戻った。

「ルーラ、怪我はないか?

「トップス隊長。ご心配かけました」

「油断しない人間なんていないさ」

 しゃがみ込み、同じポーズで倒れているオレンダとアバターをのぞき込み。

「傷は頭の一撃のみか、こいつも油断したな。頭じゃ当分動かさない方が良い。アバターの方は主の衝撃が伝わっただけだ、オレンダと一緒に目覚めるだろう」

 真剣な彼の後ろで、ルーラは顔を引きつらせていた。


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