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『第12話 火の鳥が落ちるとき(前編)/8・目的思案』


「ルシフィアスの動きはつかめていない。奴でなくても、誰かが魔導陣に接触しようとした形跡すらない」

 魔導師連盟。地下の魔導実験室・魔界とをつなぐ魔導陣のある部屋。ここにスピンと第3隊の隊員、そしてオレンダが集まっていた。

「別の場所に魔導陣を新たに作った可能性は?」

「魔界とこちらをつなぐ場合、空間の相性があります。どこでも良いわけじゃない」

 スピンは床の魔導陣を指さし

「この場所は魔界とを繋げるのにちょうど良い場所なんです。ヘタに適当な場所に作るより、ここの魔導陣を利用した方が早いし確実です。

 それに魔界と空間を繋げる際には膨大な魔力が周囲に放たれ、この魔導陣にも反応が現れます。よほど遠くでない限り。少なくとも、ウブの中でやれば反応が出ますよ」

「でも、繋げて魔族を召喚してカオヤンは何をする気なのかしら」

「独立戦争の兵士にする気かな」

「あの魔人がそんなことに手を貸すとは思えませんけれど」

 スノーレは以前、ウブに召喚させられた魔人を思い浮かべた。

「魔人もいろいろいます。1人の魔人が好意的だからと言って、他の魔人達も好意的とは限りません」

「何かちぐはぐですね」

 オレンダが頭をかきむしり、アバターは興味ありげに魔導陣を前足でちょいちょい突っついている。

「ちょっとオレンダ。あんたルーラが心配じゃないの?!」

「心配ですよ。だからこそ冷静に考えているんです」

 クインを睨むように見据え

「この感覚。覚えがあります。肝心なことを忘れている、間違えたまま歩いている。そんな感じです。相手は人間、それも強い目的意識を持っています。動きを予測出来ないはずはない。なのに考えれば考えるほどカオヤンとルシフィアスが1つにならない。そもそもみなさんならルシフィアスを味方にしようと思いますか?」

 皆が苦笑いし

「どう考えてもデメリットの方が大きいわね」

 スノーレが肩をすくめ

「でも、実際ルシフィアスも脱獄して……」そこではたと気がついた。「目くらまし?!」

 皆が一斉に顔を見合わせた。

「我々を間違った方向に向かわせるためか。どんな強い力でも、振るう方向を間違えれば意味はない」

 イントルスの言葉にスピンも同意し

「でも、だとするとエルティースさんをさらったのは何のために? ただの陽動にしては大げさすぎる」

「精霊の力は強力すぎる。使い方次第で大きな被害を及ぼす」

 通路からトップスが入ってきた。

「水の精霊の力ならセンメイ川河川施設を壊滅させることが出来る。風の精霊の力なら町並みをズタボロに出来る。大地の精霊なら、ちょっとした町ならまるごと陥没させられるだろう。他にも光の精霊、闇の精霊、、規模を大きくして使えば町を大混乱に出来る。精霊の力は魔導師数十人分とも言うが、数千数万の兵士に匹敵する破壊力にもなる」

「は、はい」

 スノーレが詰まりながら答えた。彼女とルーラが組んで行う八方魔導陣からの大地の精霊を使った集団捕縛方は、まさに精霊の力を用いたものだ。

「まだ14才のルーラを衛士として認めたのはそのせいもある」

「え?」

「精霊使いを野放しにするより、目の届く範囲に取り込み味方につけた方が良い。もちろん、私自身ルーラを半年ほど観察し、彼女を衛士としても大丈夫と判断した上でだが。

 カオヤンもそのためにルーラを味方に引き入れようとしているんじゃ無いか」

「仲間に出来れば良し。出来なくてもやっかいな敵がいなくなるわけですか」

 それならルーラをさらう理由もわかる。

「だったら尚更ルーラさんを助けだす必要があります。ルーラさんにその気はなくても、ファウロさん達を人質にされたままでは精霊たちに力を振るわせるかもしれません。スノーレさんとの連携と違って、最初から相手の命を奪う使い方を」

「そうね。そんなことになったら、例えファウロさん達を助けられても死ぬまで気にする。一生気にし続けるわ」

 唇を噛むスノーレ。

「落ち着け」トップスか「オレンダの言うとおり、落ち着いて考えろ。こういうときほど基本に返れ。カオヤンの目的は何だ?」

「ウブを再び独立国家とすることですか?」

「お前たちが奴らの作戦参謀だったら、それを実現するためにどんな計画を立てる? スターカインとまともに戦っても勝ち目はないぞ」

「少なくとも自軍は必要ですね」スノーレが顔をあげ「そうか、祭りを無茶苦茶にしたら却って反感を買ってみんな言うことを聞かなくなる。むしろ大げさな破壊活動はしない」

「市長暗殺もできるだけ速やかに実権を握るためのものでしたからね」

 スラッシュが同意する。

「プリンスキーだ」

 ギメイが唇を噛んだ。

「トゥヴァード号に乗り込み、プリンスキーを人質に取る。そして独立を認めさせるためのカードに使う。カオヤンの目的は独立であって戦争じゃ無いんだからな」

「確かに。効果あるかはともかく、スターカインに武力行使を留まらせ、交渉にもっていくのには使えるかもね。それはともかく」

 クインの鉄拳がギメイの脳天に!

「あんな素敵な王子を呼び捨てにするのは失礼よ」

 頭を押さえて呻くギメイを横目に

「だとしたらルーラさんに危害が加えられる可能性は低いですね。大事な戦力ですから」

 スラッシュが安堵の息を漏らすが、スピンやトップス、メルダーは浮かない顔だ。

「その結論はちょっと早すぎるかもしれんな」

 トップスの言葉にクインやスノーレの表情が曇る。

「仮にカオヤンがウブの実権を握りスターカインに独立戦争を仕掛けたとすると、衛士は全員その指揮下に入る。黙っていても我々は奴の命令に従う義務が生じるわけだ。わざわざルーラを確保する必要は無い」

「指揮下に入ったって従うとは限らないですよ」

「カオヤンはそう思わない。民は国に従うのが当たり前と考えているからな」

 その言葉をスピンは静かに腕を組んで聞いていた。

「何か思うものがあるみたいだな」

 言われて皆の視線がスピンに集まる。

「いえ……」スピンは困ったように「私はカオヤンという人をあまり知らないので」

「かまいません。知らないからこそ見えるものもある」

 メルダーに促され、彼は口を開く。

「カオヤンは今もウブの独立を諦めていないんでしょうか?」

「諦めていないからこそ脱獄したんじゃないの」

 何を今更と言いたげにクインがあきれ顔を見せる。

「愛と憎しみ、絶望は表裏一体です。ウブを愛する彼が今のウブに耐えられず、かつ変えることもできないと悟ったとき……彼が全てを諦めて、もうウブなんか知るか、どうにでもなれ。と思ったのなら良いんです。しかしそれならば脱獄もせず、牢の中で腑抜けているでしょう。ウブへの愛と現状の絶望とが一緒になったとき。彼はこう思うかもしれない。これ以上ウブが腐っていくのは見たくない。自分の手でウブの歴史に幕を下ろそう。

 そう考えたとき、彼は何をするか」

「ウブを完全に消し去る」

 息を飲むスノーレにスピンはその通りと言いたげに頷き

「それなら彼がルーラさんを捕まえたのも解ります。精霊の力を使ってウブを葬ろうとしているんです。それだけじゃない。ルシフィアスを連れ出したのも頷けます。魔界とこことを繋げ、完膚なきまでウブを破壊しようとしているんです。

 ウブを愛するが故に、これ以上醜い姿をさらす前に自らの手で葬り去ろうとしている」

「そ、それはちょっと、考えすぎじゃないですか。スピンさんの勝手な妄想ですよね」

 スラッシュの声も震えている。

「そうだな。勝手な妄想だ。しかしあるきっかけで愛と憎しみが逆転する例をお前達はいくつも知っているだろう」

 トップスの言葉を一同は否定できなかった。

「だが、今我々が向き合うのはカオヤンの心ではない。奴の動きだ。奴を理解し、動きを読み、その上でNOを突きつけてやれ」

 皆が力強く頷く。

「カオヤンがウブを独立させるにしても、壊すにしても、やはりトゥヴァード号とプリンスキー王子がターゲットになっていると思います」

「問題は今、彼らがどこを根城にしているかですよ。かつてのカオヤン派の議員関係は調べたんでしょう」

 スラッシュの言葉にオレンダは「もちろん」と断言する。

「議員だった頃ならまだしも、今の彼は脱獄犯です。そんな彼に協力するほどの強い味方となると限られます。それに仲間も相当いるはずですから、アジトに出来る場所は限られるはずなんですが」

「100年祭の準備で町中人が激しく動いているからな。どこもかしこもいつも以上に人の出入りが激しい。見慣れない人達が出入りしても誰も気にしない」

「トゥヴァード号に何かする可能性が高い以上、当てもなく探すよりも待ち受けた方が良いかもしれない。オレンダも第2隊の仕事があるしな」

 メルダーに言われ唇を噛むオレンダ。実際、ルーラ探索のために自分の仕事を他の隊員に代わってもらっている。

「スピンさん、ルシフィアスが目くらましかも知れないというのは単なる推測です。やつが脱獄しているの以上、この魔導陣には気をつけてください」

「完全に消し去った方が良いのでは? そもそもなぜこんな中途半端な魔導陣を?」

 イントルスの提案にスピンは迷いを見せた。

「人間が魔界に興味を持つ以上、魔族も人間界に興味を持ってもおかしくありません。そんな魔族への案内板として作ったんです。受付というか、人間界への窓口みたいなものです」

「魔界側に『準備中』の札でも出しておいたら」

「魔導錠がそれに当たります。魔界側からアプローチすれば赤く点滅するんです。レストランにあるお客様の記入帳みたいなものです」

「魔界が一気にご近所感に……」

 成果のないまま魔導師連盟を後にする一同。歩きながらもやはり話はカオヤンたちのアジトについてだ。

「スピンの説が正しいと仮定して、お前達が奴らだったらどうする。ルーラを使ってウブを壊そうとするなら、どこに陣取る」

 メルダーの問いに

「町中は嫌ですね」スノーレが言った。「精霊の力が強力かつ大雑把なものならば、巻き添えを食らわないようにしないと」

「見晴らしの良いところ」クインがぽんと手を鳴らし「町を破壊したければ結果を見たいわ」

「少なくとも人家はないところですね」

 オレンダが

「今は町中騒がしいですが、それでも声が漏れるのは避けたいですし、誰かが興味を持ってのぞき込まれたりされるのは嫌です。

 ルーラさん達がさらわれるのに馬車が使われたのでしょう。ファウロ夫妻とルーラさん、見張りが最低2人。小さな馬車ではないし、ルーラさん達を下ろすとき見られるのを防ぐため、外から見られないようにするでしょう。それが出来る建物。

 犯罪者達は小さな事でも不安を遠ざけるものです」

 トップスがどうだとばかりに口をほころばせ

「どうだ。かなり奴らの居場所を絞れてきたじゃないか」

「いくら絞れても、それらを回る余裕がなければどうにもなりません」

 むしろ宛てが出来た分、それらを回る余裕がないのがもどかしい。

 その頃、皆を見送ったスピンは魔導陣のある部屋に戻った。今も彼は魔導陣を一旦に消すべきか迷っている。

 部屋に入った途端、彼は足を止めた。

 魔導陣の前に一人の男が立っている。この季節には暑いだろうなと思う襟の高い漆黒のマントを羽織り、

「てっきり口封じされたと思っていましたが」

「私を失うのは世界の損失だ。私は世界を、そして魔界を支配する男なのだから」

 ゆっくり振り返る男。

 ルシフィアス。


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