表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
比翼の詩と、(旧:薄桜)  作者: 紬向葵
暁月
83/97

第七十二話 対峙

【登場人物】

●平家

影の一族と言われ、禁術を使う。

前当主 平 昌宜の代から刀治道を用い、

童狩りなどの生贄を使った術は使わず、

影赦を刀とし、国の治安を影で支えてきた。


・ジン  元の名は(まもる)。字は仁。白髪の少年。

     現在は平家の長男。千鶴達と共に夜雀と戦っている。

・サク  字は桜。仁と同じく平家の長男。原田家のシゲと行動を共にしている。

・チズ  字は千鶴。平家の現当主。

・花心  数年前に生き別れた妹。

     翡翠と名乗り、忍びの一族と行動を共にしていた。

・海道  影赦の姿にされていると花心、林之助が気づき保護。

・風優花 夜雀に捕らえられている。

・真白  藤堂家に突如現れフミを殺害し逃亡した。

・林之助 千鶴と共に行動していた。ジンと花心と再会する。



⚫原田家 

原田家の武士は皆、黒狼こくろうと呼ばれている。

現在政治の実権を握っている武家。


・ユキ 字は極之(みちゆき)。原田家の長男。

    雅号は対狼ついろう

・シゲ 字は茂之しげゆき 。山犬使い。

    ユキと慈実の子供。残血の血を引いている。

・トシ 字は勇臣としおみ。女好き。

    ユキの弟。ユキと共に対狼と呼ばれている。


●藤堂家

国を治める二代武家の一つ。

真っ白な袖の靡く装束を身に纏っている。

律術という術を代々引き継いでいた。


・イト 字は弦皓いとあき。授名は紫苑しおん

    藤堂家の三男。雅号は鬼刀律術者(きとうりじゅつしゃ)

    音を使った律術を使う。フミにより殺害された…?

・ムギ 字はつむぎ。授名は錦葵にしき。冷静沈着な謎の少年。

・時雨 藤堂家の長男。双子の兄。

・氷雨 藤堂家の次男。双子の弟。



●その他

・夜雀 残血。容姿は海道。雀の面をつけている。

・紅藍 巫女姿の女。夜雀の仲間?黒猫の面。

「おいシゲ、ここはもしかして都か?何だか前に来た時よりも酷く廃れてないか?」



「あの闘人は何の意味も無かったってことだ。この辺りもせっかく俺らが以前綺麗にしてやったってのにさ」




2人はクロコに咥えさせた松明の灯りが照らしだした都の惨状と辺りに漂う血生臭い匂いに顔を顰めた。


サクは振り返り、背後に聳え立つ血塗られた東門を見上げる。


1年前サク達が影赦の捕縛を任されていたのは北門の辺り。


この東門付近はどうやら原田の管轄区域だったようだ。




「にしても、まさかあいつらの隠れ家がここだったとはな」



「いや、それが本当なのか定かではないが少なくともこの場所に奴らがいることは間違いないと思うぜ。複数の気配を感じる」



「そんなの、ここに蔓延ってる流浪影赦の気配じゃないのか?」



「いや、違う…っておい!何してんだシゲ!!」




影赦とは違う別の気配に警戒し鯉口を切ったサクと「グルル」と喉を鳴らし始めたクロコの様子を見たシゲは、クロコから松明を奪うと突然それを放り投げた。


投げ出された緋色の光は辺りを照らしながら弧を描くようにして地面に落ちる。


サクはその一瞬の間に垣間見えたこの都の闇すらも貫きそうな2つの白銀を見逃さなかった。




「クロコ!シゲを背に乗せろ!!」




サクが叫んだのとほぼ同時に自らクロコの上に跨ったシゲは、背負っていた弓を構えると一気に2本の矢を打ち放った。


放たれた矢はパシっという軽い音を立てて何者かに叩き落とされる。


ちっと舌打ちをしたシゲが不服そうな顔で一方を睨みつけていると、そこから静かな足音が聞こえた。


ザッザッザと綺麗に重なる2つの足音。


それが近づけば近づくほど、クロコの威嚇は強くなっていく。



(シゲのやつ、以前より反射神経も気配を感じ取るのも段違いに早くなっている。こりゃ俺が余計な心配する必要もないようだな)




「シゲ、ちょっと矢をくれないか?」



「あ?どうしてだよ」



「無駄使いはしないさ」




シゲは嫌な表情を浮かべながらも、背負っていた矢を何本か束でサクに投げつけた。


サクはそれを受け取ると指先を鳴らして矢の先に火を灯す。


そしてそれらを一気に四方八方へ放り投げた。


投げ飛ばされた矢は地面に突き刺さりその場で燃え続け、火灯に照らされた周囲は一気に暖かな緋色の暖光に包まれる。




「急に手を出してくるなんて失礼な人だな。政権を得ている武家の人間はこうも横暴になれるのか?」



「何言ってるの氷雨。あんな攻撃が私達に当たるわけがないでしょ。あれはきっとほんのご挨拶だよ」



「あ”?言ってくれるじゃん」




シゲは2人の挑発的な物言いに苛立ち、眉をピクピクと震わせている。



(おいおい、お坊ちゃんが暴走し出したら面倒なんだから勘弁してくれよな…)



2人の剣士はまるで瞬間的に移動してきたかのようにサク達の間合いに入り込んでいた。


同じような背丈に、切り揃えられた髪の毛。


そしてどこかで見たことのある、特徴的な袖口の広い靡く真っ白な装束。


2人の顔を見たことが無かったサクはひとまず後方に飛び退き、シゲに問いかけた。




「なぁあの格好は藤堂家だよな?シゲ、あいつらと面識あんのか?」



「無いね」



「は?」



「藤堂家には隠し子として育てられた双子がいるって聞いてたけど本当だったんだな。3番目の弟が能力を継承してしまった上に、呪われた双子。よく本家から追放されなかったもんだぜ」




シゲはサクの問いかけを途中から無視し、先程のお返しのように2人を煽り返す。


すると若干背が低い方の男が露骨に表情を歪め、刀に手を添えた。


その時サクはある違和感に気が付く。



(あいつ…右に帯刀してんのか。左利きの剣士なんて聞いたことないぞ)



男が鯉口をきりサクも同様に警戒しながらも刀に手をかけたその時、刀を抜き払おうとした男の手は隣に立つもう1人の男によって制される。




「氷雨止めなさい。すぐに手が出るんだから。あんなちんけな挑発に乗るなんてはしたないよ。家訓を忘れたの?どんな時もまずはご挨拶からだよ」




まるで幼児を嗜めるようなその物言いに、氷雨と呼ばれた男はむっと顔を顰め彼の手を振り払うも素直に刀から手を離した。


そしてまるで何事も無かったかのように表情を緩め、サク達に向かって一礼する。


その様子をにこにこと微笑みながら見ていた隣の男も同様に一礼した。




「申し遅れました。私の名は藤堂時雨。そしてこの子は私の双子の弟の…」



「藤堂氷雨」




時雨の言葉に続くように氷雨も名乗る。


その名乗りからは先程のようにこちらの怒りを煽る素振りは全く感じられなかった。


まるで天気のいい朗らかな昼下がりにぱったり道で出会ったかのような、そんな聞こえのいい響きだ。


サクは彼らの名乗りを聞いて、闘人の時のムギとイトの様子を思い出す。



(あいつらは確かいきなり呼名を名乗ってきていた。それに互いの呼び方も呼名だったな。なのにどうしてこの2人は字なんだ)




「やっぱりお前ら呼名の解放をしてないな」




サクが疑問に思った事を代弁するかのようにシゲは口にする。


時雨はシゲの言葉に返答すること無くサクを頭から爪先までじっくりと見つめると氷雨と視線を交わした。




「そちらにいらっしゃるのは平家の御子息ですよね」




時雨に声かけられたサクは自分の正体が初対面の2人に露見していることに驚き、思考を止め彼らを凝視した。




「鞘の家紋を見ればわかりますよ」




サクの訝しげな視線で彼の思考を悟った時雨は鞘を指差しながらそう告げた。



(嘘だ。鞘の家紋は俺が平家の人間だと気づかれないように内側に向けて隠していたはず。あいつらはどうして俺の事を知っているんだ)




「あなたに危害を加えるつもりはありません」




"あなたに"


満面の笑みでそう告げた時雨の言葉に違和感を感じたサクは無言のまま2人を見据える目に力を込める。



(原田と藤堂は表面上とはいえあくまでも良好な関係を気づいていたはずだ…なんだこの…違和感は…)




「僕達の邪魔しなかったら、の話だけどね」




シューーッ


そう言いながら見せつけるように鞘から刀を引き抜いた氷雨は、その刀身にシゲとクロコの姿を映すと徐々に口端を引き上げた。


今度は時雨も彼を止めようとせずニコニコと不気味に微笑んだままだ。




「何?やんの?」



「あっ、シゲ。ちょっと落ち着けよ」




シゲの言葉に反応したクロコは獲物を捕らえる目つきに変わり、飢えた獣のように狙いを定め少しずつ彼らとの距離を詰めていく。


殺気に満ちた空気で肌がピリピリと痛む。


サクは夜雀の元にいく為にも早くこの場を去りたかった。


しかしあくまでも原田の監視下に置かれている現状で勝手な行動は許されない。


安易な行動をとればシゲをも敵にしかねない。




「僕達呪われた双子がどうして本家から追い出されずにいたか、教えてあげる」




威嚇するクロコに動じることなく、それどころか氷雨は挑発するようにこちらに切っ先を向け構える。


焦るサクを横目に、時雨は再び口を開いた。




「原田茂之さん。あなたの首、頂戴致します」

最後までお読み頂きありがとうございます!

作者の紬向葵です。

このお話が面白いと思った方、

続きが気になると思った方は

ブックマーク、評価お願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ