第六十五話 集結
【登場人物】
●平家
影の一族と言われ、禁術を使う。
前当主 平 昌宜の代から刀治道を用い、
童狩りなどの生贄を使った術は使わず、
影赦を刀とし、国の治安を影で支えてきた。
・ジン 元の名は鎮。字は仁。白髪の少年。
現在は平家の長男。藤堂家に捕らえられている。
・サク 字は桜。仁と同じく平家の長男。
原田家の者と共に襲撃された藤堂の別宅に向かう。
・チズ 字は千鶴。襲撃後の藤堂家に現れた。
・花心 数年前に生き別れた妹。
翡翠と名乗り、フミと行動を共にしていた。
・海道 夜雀に捕らえられている。
・風優花 夜雀に捕らえられている。
・真白 突如現れフミを殺害し、再び姿を眩ませた。
・林之助 千鶴と共に行動していた。ジンと花心と再会する。
⚫原田家
原田家の武士は皆、黒狼と呼ばれている。
現在政治の実権を握っている武家。
・ユキ 字は極之。原田家の長男。
雅号は対狼。
・シゲ 字は茂之 。山犬使い。
まだ幼く喧嘩早い。ユキと慈実の子供。
残血の血を引いている。
・トシ 字は勇臣。女好き。
ユキの弟。ユキと共に対狼と呼ばれている。
・慈実 残血の子孫。シゲと呼ばれている。ユキの許嫁。
令眼と言われる琥珀色の瞳を持っている。
ユキを守るため自ら能力を差し出し、死ぬ。
●藤堂家
国を治める二代武家の一つ。
真っ白な袖の靡く装束を身に纏っている。
律術という術を代々引き継いでいた。
・イト 字は弦皓。授名は紫苑。
藤堂家の三男。
雅号は鬼刀律術者。
音を使った律術を使う。フミにより殺害される。
・ムギ 字は紬。授名は錦葵。冷静沈着な少年。
・フミ 字は志詩。忍びの一族の生き残り。
イトとムギの小姓として藤堂家に潜入していた。
真白に殺害される。
●その他
・夜雀 容姿は海道。原田家と何らかの関わりが?
・紅藍 巫女姿の女。夜雀の仲間?黒猫の面。
「…見つけた」
「何を見つけたの?」
辺りには影赦が蠢いており、それに襲われた民の死屍がそこら中に転がっていた。
闘人の時よりも酷い有様になった光景をはっきりと見なくて済んだのも、この月明かりひとつない闇夜のお陰だ。
「ジン、あの子達を見ていてって言ったじゃないの」
「大丈夫だよ。僕は敵として花心と本気で刀を交えたから、彼女の今の実力を把握している。この程度の低級影赦なら欠伸しながら退治できるよ」
ジン達4人は藤堂の別宅近くの隠れ家から3日ほどかけて歩き、都まできていた。
ここは都の中でも南門の近く。
神皇家に通づる一本道にあった納屋の陰に身を潜め、一点をじっと見つめながら呟いていた彼女にジンは背後から近寄り声をかけたのだ。
「あなたはやっぱり強いのね」
「チズには負けるよ」
いつも通りのヘラヘラとしたジンの返答に、チズも口元を緩め彼の頬についた土埃を拭う。
そしてジンに見せないように、再び前方を見遣ると鋭い目つきで標的を睨みつけた。
「ここに何があるの?人?影赦?それとも…戮者?」
ジンは彼女の背後から凄まじい殺気を感じていた。
チズがここまでの殺気を放つものって一体…。
それに、迷うことなくこの都に再び足を運んだのはどうしてだろう。
この前だって、林之助から聞いた話だと藤堂家の別宅にいた僕の元にまっすぐ来ないとあの数日じゃ往復は難しい距離とのことだった。
「来て」
チズはジンの問いに答えることなくその手を取り、納屋の影から飛び出した。
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「強くなったね、林之助」
「…花心は、おかしいと思いませんか?」
林之助は襲いかかってくる影赦達を捕縛することなく適当にあしらい花心と同じ屋根上に登ると、真っ暗な視界の中で彼女がいるであろう方向を向き問いかけた。
「おかしいって?何がっ」
花心はこちらに飛びかかってくる影赦の気配を感じそこに向けて苦無を放つ。
風を切る苦無の音は途中で止まり、その直後ドサッと音を立て何かが地面に打ち付けられた。
「なんだか…全部。チズ姉も、ジン兄さんも…」
花心は気まずそうにそう呟いた林之助の言葉に苛立ちズカズカと足踏みをしながら近寄ると、彼の胸ぐらを掴み引き寄せた。
「林之助ったらまだそんなこと言ってるの!?もしかして私のことも疑ってる!?どうしてやっと再会できた家族のことを信頼できないの?!」
「そう…じゃないんだけど、けど…」
「けど!?なに!?」
花心は林之助を問い詰めながらも自分の背後を狙ってくる影赦を片手で薙ぎ払う。
「今回都に来たのだってなんの目的があるのか…チズ姉さんはいつも勝手なんです。僕に理由を教えてくれない」
花心は顔を背け情けない声で呟く林之助の様子にため息を吐くと、胸ぐらから手を離し彼の頬を片手で軽く叩いた。
「そんなの1つに決まってるじゃない。チズ姉さんはいつだって私達のことを一番に考えてくれている。昔も、今も」
花心は真っ暗な視界の中漂う血の匂いに咽せ咳き込む。
その腕には、天眼石が艶めいていた。
「家族を助けるためよ」
林之助は痛む頬に手を添え、背を向けた花心に「ごめん…」と小さくこぼした。
その瞬間背後から影赦の気配がし、林之助は素早く刀を振り払う。
しかし、その刃は影赦に当たることなく闇を切り裂いた。
「なに!?今の攻撃を躱せるほどの影赦はここにはいないはず…」
「林之助!どうしたのっ!?」
林之助の異変を感じた花心は彼の手を取りそう声かけた。
すると今度は先ほど感じた影赦の気配が花心の背後から感じ、林之助はすぐさま刀を振り払う。
-キンッッ
難なく受け止められた林之助の刀は影赦に掴まれミシミシと音を立てる。
林之助は折られまいと刀に注ぐ己気を増やし、刀身の強度を高めた。
「ただの…影赦じゃない!くそ…こいつ、何者だ!!」
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「ああ…本気で死ぬかと思った…」
「死んでないからいいじゃないか」
「ああ!?このクソガキ!」
「やめろお前ら」
ユキはトシを羽交い締めにしなんとか動きを制する。
シゲはクロコの毛並みを撫でながらその様子を冷えた目つきで一瞥した。
「なんて呼んだらいいんだよ…」
「好きに呼べ」
気まずそうにボソボソと呟いたシゲに、ユキは困ったように笑い答えた。
なんとかあの状況から脱したユキ達は近くの森の中にあった湖で体を休めていた。
シゲは少し離れたところで、湖に映る姿を呆然と見つめるサクの元へ歩み寄る。
「お前、どうするの」
シゲの問いに答えることなくサクは湖の底をじっと見つめていた。
「おい!おいって」
「シゲ、やめろ」
ユキはシゲの方に手を置き、静かに首を振った。
そしてシゲの代わりにサクに近寄ると、丸くなったその肩に腕を回し、頭を荒い手つきで撫でた。
「サク、これからどうする」
サクは俯いていた顔を上げ自分の刀を抜くとそれに映る自分の瞳をじっと見つめた。
「夜雀の元へ向かいたい。そこに、チズ達もいる気がするから」
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「どうしてあの場で引き返したのだ。まさか、今更平家の者達に温情でも湧いたと?」
「いいえ…。あの場に残れば、平家の当主と鉢合わせてしまうことになったと思うので撤退致しました」
「ほう。それまでにあの白髪の小僧と女共々、紬を斬り裂いていれば、弦皓の術も奪えたものを。無駄足だったということか」
「申し訳ございません」
「その言葉は聞き飽きた。今、時雨と氷雨が原田家の情報を探っているところだ。お前は2人と合流し都へ向かえ。そこに必ずあやつは現れる」
「…畏まりました」
「次の失敗は死を意味すると思え」
「はい…当主様」
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「お前は本当に身勝手で頑固でわがままだな」
「…すまない」
「ねぇ、本当に僕の苦しさ伝わってる?」
「君は…あのような別れを望んでいたのか?」
切なそうに瞳を揺らすその視線に盛大にため息をつく。
そんな顔をされてしまっては何も言えない。
「私は君と約束した。…1人にしないと」
第四章 晦冥の秘事
最後までお読みいただきありがとうございます!
作者の紬向葵です。
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