第六十話 令眼
【登場人物】
●平家
・ジン 元の名は鎮。字は仁。白髪の少年。
現在は平家の長男。藤堂家に捕らえられている。
・サク 字は桜。仁と同じく平家の長男。
原田家の者と共に襲撃された藤堂の別宅に向かう。
・チズ 字は千鶴。襲撃後の藤堂家に現れた。
・花心 数年前に生き別れた妹。
翡翠と名乗り、フミと行動を共にしていた。
・真白 突如現れフミを殺害し、再び姿を眩ませた。
・林之助 千鶴と共に行動していた。ジンと花心と再会する。
⚫原田家
・ユキ 字は極之。原田家の長男。
雅号は対狼。
・シゲ 字は茂之 。山犬使い。
まだ幼く喧嘩早い。
・トシ 字は勇臣。女好き。
ユキの弟。ユキと共に対狼と呼ばれている。
●その他
・夜雀 容姿は海道。原田家と何らかの関わりが?
・紅藍 巫女姿の女。夜雀の仲間?
・慈実 シゲと呼ばれている。ユキの許嫁。
「…は?どう、いうことだよ?」
シゲは動揺で言葉を詰まらせながらもなんとかそう呟いた。
「そのままの意味だ。お前は残血の女とそこにいる原田極之との子供なんだよ。その様子だと本当に聞いてなかったようだな」
ユキは怒りで頭が混迷しそうになるをなんとか堪え、疼き出した腹の傷跡を手で押さえつけた。
「勝手に適当なこと言いやがって…!!」
トシは自分を押さえつける紅藍を振り払い目を血走らせながら叫んだ。
その肌は仄かに赤みを帯びていて浮き出た青い血管を際立たせている。
「ユキ…さん…?おい…反論しろよ…なあ!!」
シゲはクロコの上で槍を構えたまま、動かないユキを見下ろし半泣きになりながら問いかけた。
ユキは黙って振り返り、久しぶりに年相応な表情を浮かべ涙するシゲの顔をじっと見つめる。
「お前は俺の子だ」
シゲは口を開いたまま涙で濡れた頬を拭うことなく固まる。
現実を受け止められないでいるようだ。
ユキは視線を夜雀に移し、その忌々しい顔をじっと睨みつけ続ける。
「けどな。意図的にってのはちょっと言い方悪いんじゃねぇか」
「そうだ!あいつとユキは確かに許嫁だったけどちゃんと…好きあっていたし…」
「じゃあなぜ!!そいつに父親だと言うことを隠していた?ん?母親の存在を隠すためじゃないのか?」
ユキに続いて反論したトシの言葉に被せるように含みのある言い方で夜雀は吐き捨てる。
紅藍も夜雀の隣でユキたちに蔑むような視線を送っていた。
「その冷眼はあの残血の女の物だったはず。どうしてお前がその目を持っている」
夜雀は手にしていた呪符を燃やしきると、刀を抜き払いユキに斬りかかる。
そしてユキの赤茶色の瞳の中に揺蕩う琥珀色を睨みながら問いかけた。
「ユキ兄!!」
「サク!くるな!俺はいいからシゲを守れ!」
ユキは応戦しようとするサクを制し、夜雀が押し込んでくる刀をなんとか押し返す。
力の差では確実に上だが、夜雀の余裕そうな笑みが一抹の不安を持たせユキは思うように攻撃できずにいた。
互いに一歩もひかない攻防戦の最中、不意に夜雀は刀から手を離しユキの手首を掴む。
そしてもう片方の手でユキの槍を掴むとその切長い瞳をじっと見据えながら呟いた。
「…お前があの女を殺したんだろう」
「はぁ!?んなわけねえだろ!!」
思いもよらぬその言葉にユキは慌てて言い返し、自分の槍の柄を掴む夜雀の手を離そうと力を込める。
その場にいた全員がピリついた空気と肌を刺すような冷たい雪に心臓を鷲掴みされたかのような衝撃を感じた。
「お前…記憶が欠如してる時間があるだろう」
ユキは夜雀の一言で明らかに狼狽を顔に漂わせ、初めて見た彼のその様子にトシとサク、そしてシゲも驚いたように目を見張った。
「あの女…まさか…」
夜雀は独り言のようにボソボソと呟くと、突然ユキの頭を鷲掴みし手を軸に彼の背後へ飛び移るとその頸に呪符を貼り付けた。
「ぐっ…あぁ!!!」
「…てぇめ…馬鹿ユキ…なにされたんだ、よ…」
呪符を貼られたユキはその場で崩れ落ち、そしてどうしてかトシまでもが苦痛に顔を歪め倒れ込んだ。
「ユキさん!!トシさん!?」
シゲはクロコから飛び降りユキの元へ行こうとするも、サクに襟首を掴まれ羽交い締めにされる。
「何すんだ!離せよ!!まさかお前あいつの仲間だったのか!?」
「なわけあるか馬鹿!落ち着け!!」
サクは足をばたつかせ暴れるシゲをなんとか押さえ後退り、夜雀達と距離をとった。
「ユキ兄がお前を守れって俺に言ったんだ!いいから!落ち着けおぼっちゃま!!お前が今行っても相手の思う壺だ!」
「うるせえ!!離せよ!!!」
サクは突然シゲの力が倍増したのを感じ慌てて抵抗するも、まだまだ細く華奢な腕からは想像もできないほどの力に押されたじろぐ。
トシとユキは完全に突っ伏し、夜雀はなんとも言えぬ複雑な表情でそんな2人を見下ろしていた。
「お前ら非道が…現実から逃避することなど俺は断じて許さない」
ユキは微か聞こえたその声とシゲ達のやりとりを音だけで聞きながら、次第にうつらうつらとしていく頭と黒くぼやけていく視界にのまれ、そこで意識を失った。
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「…おい。お前…なんでこんな所にいんだよ」
「あら、ユキちゃん。来てくれてありがとう」
見たこともない黒い狐の面を被ったその少女はいつもの動きやすさを重視したものとは違うある意味女性らしい装束を風に靡かせ、懐かしくも、どこか怪しい色を纏った声を発した。
「おい、そいつら誰だよ」
背後でトシが聞いたこともないほど困惑した声で黒面の少女に問いかける。
少女は依然として面をつけたまま、わずかに見える口元から不気味な笑みを漏らした。
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作者の紬向葵です。
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