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比翼の詩と、(旧:薄桜)  作者: 紬向葵
晦冥の秘事
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第五十八話 黒狐

【登場人物】

●平家

・ジン  元の名は(まもる)。字は仁。白髪の少年。

     現在は平家の長男。藤堂家に捕らえられている。

・サク  字は桜。仁と同じく平家の長男。

     原田家の者と共に襲撃された藤堂の別宅に向かう。

・チズ  字は千鶴。襲撃後の藤堂家に現れた。

・花心  数年前に生き別れた妹。

     翡翠と名乗り、フミと行動を共にしていた。

・真白  突如現れフミを殺害し、再び姿を眩ませた。

・林之助 千鶴と共に行動していた。ジンと花心と再会する。



⚫原田家

・ユキ 字は極之(みちゆき)。原田家の長男。

    雅号は対狼ついろう

・シゲ 字は茂之しげゆき 。山犬使い。

    まだ幼く喧嘩早い。

・トシ 字は勇臣としおみ。女好き。

    ユキの弟。ユキと共に対狼と呼ばれている。


●その他

・夜雀 容姿は海道。原田家と何らかの関わりが?

・慈実 シゲと呼ばれている。ユキの許嫁。

「…駄目だこりゃ」




最後の一滴を飲み干したユキは空になった徳利を投げ捨て、すっかり冷え切った頭で冷静に思考を巡らせていた。




「疲れてたとはいえ、流石に言いすぎたか…」




ユキは先程までの自分の行動を振り返り、両手で頭を抱え、大きくため息を吐いた。


いつの間にか朝日が顔を出し始め、その陽光の線はユキの目元に当たり刺すような眩しさを感じさせる。



“ユキ…ちゃん”



最後にシゲが放った一言が頭の中で木霊しいてもたってもいられなくなったユキは、勢いよく立ち上がりシゲの部屋に向かって駆け出した。


しかしもう少しで彼女の部屋に着くというところで大事なことを思い出し、足を止める。




「あー、いかん。報告忘れてた…」




(今回の任務の報告、まだ当主にしてなかったな…後回しは…流石にまずいか…)



ユキはしばらくその場で天井を見上げ考えた後、踵を返して反対方向に走り出した。


そして走りながら廊下の角を曲がろうとしたその時その奥から何者かが走ってくる足音がし、ピタリと足を止めた。




「一体誰だ。こんな時間にドタバタ走りやがって」




ユキは薄明るい視界の中、庭先にあったほうきを手に取りこちらへ走ってくる人物を待ち構えた。



(家臣か門弟かはしらんが、どついて説教してやる)




「ったく、ユ…の…あいつどこいったんだ……のに!」




心の中でそう呟きながら、ほうきを肩に担いだその瞬間、聞き慣れれた声がしユキは角からそっと覗きこんだ。




「は?お前何してんだ」




ユキは息を荒げながらこちらに走ってくる人物に向かって、眉をハの字に歪め問いかける。




「あ”?!!!いた!!ユキ!てんめぇ!!」




駆けて来たその人はユキの姿を見つけた瞬間目を見開き、走る早さを落とすことなくそのまま彼に突進し、腹部に頭突きした。




「おいトシ!!何してんだてめぇ!?殺されてぇのか!」




ユキはトシに頭突きされ、尻餅をつき自分を見下げるトシに向かって叫ぶ。


しかしトシはそんなユキに臆することなく、鬼に取り憑かれたかのような険しい表情で彼の胸ぐらを掴み無理やり立ち上がらせた。




「ユキ!!お前今まで何してたんだよ!!」




ユキはトシがここまで自分に対して怒りを剥き出しにしてきたことがなかった為、まさかのことに動揺し彼に胸ぐらを掴まれたまま目を何度も瞬かせる。




「いや、ちょっと1人で考え事したくて…」




そうボソボソと答えると、トシの手は離され腕は力なくダラりとおろされた。


そしてさっきまで額に血管を浮き上がらせるほど紅潮していた顔を青くし項垂れたトシをみてユキは何事かと呆ける。


先程も思ったが、トシは自分に対して食ってかかることもこのように表情をコロコロと変えるような事も滅多になかった。




「あいつが…」



「あいつ?…って」




トシが ”あいつ” と呼ぶやつは複数いる。


しかし、このように切なささえも感じられる呼び方をするやつは1人しかいない。


ユキはトシの方を掴み激しく揺すった。




「おい!何があったんだ!!」




トシは目線だけでユキを見上げ、睨みつける。


恨めしそうなその眼差しはそれだけで人を殺してしまいそうなほどに歪んでいた。




「あいつが…どこにも見当たらねえんだよ!!」



_______________________




「ふう…。そろそろ潮時かなぁ」




薄の揺れる丘の上で、自分の身に纏った袖や裾の靡く着慣れない装束をまじまじと見つめ少女は呟く。


そして手にしていた黒い狐の面をつけると、人の心を惑わせてしまうようなそんな深き甘い香りを纏い、痩せこけた頬を両手で叩いた。




「私が…必ず守るわ」




少女は草木の揺れる音にかき消されてしまいそうなほど小さな声で囁いた。


そして振り返り、そこにいた同じく面をつけた2人をじっと見つめ帯刀に手をかける。


深い闇を感じさせるような重たい声で彼らに声かけた。




「さあ、行きましょう」

最後までお読みいただきありがとうございます!

作者の紬向葵です。

この話が面白いと思った方、

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