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比翼の詩と、(旧:薄桜)  作者: 紬向葵
白夜の祈り
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第三十五話 誇り

【登場人物】

●平家

・ジン 元の名はまもる。字は仁。白髪の少年。

    現在は平家の長男。藤堂家に捕らえられている。

・サク 字は桜。仁と同じく平家の長男。

    原田家に捕らえられる。

・チズ 字は千鶴。行方不明。


●藤堂家

・イト 字は弦皓いとあき。藤堂家の三男。雅号は鬼刀律術者(きとうりじゅつしゃ)。音を使った気術を使う。

・ムギ 字はつむぎ。冷静沈着な少年。


●その他

錦葵にしき 突如現れた謎の美少年。

・童狩りの輩

気がついたら目の前には複数の血に濡れた亡骸と、鎌のような形をした神具を震わせながらこちらを見据える童狩りの輩の姿があった。


弦皓はそいつらをじっとりと睨みつけた後、血と脂に濡れた自分の刃を見つめ現状を把握した。




「まだやる?」




弦皓がそう一言告げると男達はビクリと肩を震わせた。




「まぁどっちにしたって生きて返すつもりはないよ」




刃についた血を振り払い再び青眼に構えると、不意に気配を感じ殺気立っていた心の波がほんの少し凪ぐ。


その瞬間誰かの手が肩に優しく乗せられた。




「弦皓、1人で抱え込むな。お前には俺らがいるだろ?」



「うん。そうだね」




声をかけてきた最年長の兄貴の傷だらけになった手を凝視し、他の仲間の負傷した姿を見て黙り込んだ弦皓を見た仲間達は「大したことない」と笑い、弦皓の背中を守るように反対方向に構えた。


その心強さに安心感を感じながらも目の前の輩に対する敵意を剥き出しにした眼差しで見据える。




「恨みの深さなめてんだろ?俺達、ただのガキじゃないんだよ」




弦皓の背後で仲間の1人がそう叫ぶ。


そうだ。


お前たちに一体何人の仲間が殺されたと思っている。


その度に死んだ奴らとの記憶を封じて、鍛錬に励んだことか。




「ふん!そんなこと知ったことではない!我らは神皇家の命で動いているんだ!神のお告げに従って何が悪い!」



「無礼者!汚れた口でその名を呼ぶな!」



「我々は神皇家から直々に役目をいただいた影の一族だ!お前たちにとやかく言われる筋合いはない!大人しく、その命を我々によこすのだ!」



「影の一族だあ?」



「そう!童狩りは儀式だ!神具を使ってお前らのようなガキ共の命を奪い、天へ生贄として捧げる。我らのおかげで今日も天が荒れずに善良な市民が平和に生活できているんだ。お前達はただの餓鬼じゃないと言ったな?ならお前達のように特別な環境で育てなかった我らのような凡人は天災にあって泣く泣く死ねとでも言うのか!?」




童狩りの奴らは語気を荒げ目を血走らせている。


弦皓は仲間と童狩りの奴らとのやりとりをじっと黙って聞いていた。




「だからこそ!武家の存在があるんだろうが!武士は善良な市民を守るために日々地獄のような稽古に耐えているんだ!そんな俺達を攻撃して何になる!?言っていることが矛盾しているぞ!」



「ふんっ。お前達の様なクソガキに市民が守れると?我らが大勢でかかった程度で何人も殺されたではないか?昨日の奴らは無様だったぞ?我らに取り囲まれとどめを刺されそうになっても、暴れることなく悟ったように硬く目を閉じてなぁ。『切腹させてくれ!』って懇願してきたぞ?ガキが一丁前に誇りだけ持ちやがって」




その男の一言に黙っていた弦皓も目を剥き、拳を握りしめた。




「ガキが誇りを持っちゃいけないのかよ…」




下を向いたままそう呟いた弦皓に、仲間達もハッとした様子で振り返る。


瞼の裏に熱い何かを感じぎゅっと目を閉じた。


乾いた瞳が潤され、それと対照的に心が乾きで嘆いているのを感じる。


走馬灯のように殺された仲間達との封印した記憶が脳内を巡った。


あいつらは、僕なんかよりもずっとずっと武士として誇りを持っていた。


地獄のような鍛錬にも逃げることなく誠心誠意刀と向き合い己気も心も成熟させていた。


その命がこんな薄汚い影の一族とかいう訳のわからない奴らに一瞬で踏み躙られた。


弦皓の握りしめたつかがミシミシと音を立てる。


切先は震え、怒りで肩は持ち上がっていた。




「弦…皓?」




仲間達は心配そうに声をかけてきていたが、弦皓の耳には全く届いていなかった。




「はっ。そいつ、震えているじゃないか。怯えてんのか?絶望して心中だけはするなよ?どうせ死ぬならこの神具に切り刻まれろ。あの世でお前の仲間が待っ…」




男の首は言葉を言い終わる前に落ちた。


ドンと鈍い音をたて地面に転がった男の顔は信じられないと言わんばかりに目を見開いたまま固まっている。




「弦皓!お前待て!!」




仲間達の呼び止める声は肉が引き裂かれる生々しい音と、男達の呻き声に掻き消された。


どれくらい刀を振り続けたのだろうか。


茜色に染まる夏の夕暮れは朱殷に汚染され、弦皓の心に暗い影を落とした。

最後までお読み頂きありがとうございます!

作者の紬向葵です。

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