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比翼の詩と、(旧:薄桜)  作者: 紬向葵
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第一話 新たな時間

挿絵(By みてみん)

「ここは…いったい」


目の前に広がる山々は所々が赤黄色に染まり、耳障りな音が絶え間なく頭を刺激する。

暖かく包む陽光を手のひらで遮り、少し広げた指先から垣間見る光景を隅から隅までじっくりと眺めた。


「あれは、山…?生き物はいないのでしょうか」


こんなに広々とした場所に1人だなんて独り言のひとつやふたつ言いたくなる。

暇を持て余しつつ辺りを見渡すと、川辺に動物がいるのを見つけ逃げられないようにそっと近づいた。


「ねえ、そこのあなた。楽しそうですね。僕も混ぜて頂けませんか?」


その動物はちらりと顔だけ振り向き、甲高い鳴き声をあげた。

こちらの姿を見るなりじっと睨みつけ、そっぽを向く。

”知らない奴に用はない”そう言ってるかのように向き直った。

わかりやすいその反応に思わず感心し「はは」と微笑む。

さりげなく静かに近寄り、隣に腰掛けた。

その動物は変わらず自分のしっぽを弄び、呑気に欠伸をする。

学んだ知識を頭の中で掘り起こしていた。


「あなたは恐らく猫ですよね?美しい声でした。ここで何をしてるのですか?」


猫は一旦しっぽ遊びをやめ、またこちらをじっと見つめてきたが結局何も言ってこなかった。


「やっぱり動物が話すというのは神話の中だけのお話でしたか。残念です」


「ちゃきち!」


猫を見つめながら小言を呟きため息を吐くと、背後から何者かの叫び声が聞こえ振り返る。


「茶吉!」


”にゃー”

その響きを受け止めたように猫が鳴いた。

全速力で走ってきたその人は、振り向き目が合うなり足をピタリと止める。


(凄い急停止。脚力が素晴らしいですね)


しばらく見つめあった後、目の前の少女が自分の存在に困惑していることに気がつき慌てて姿勢を正す。


「ああ、これは失礼しました。私、(まもる)と申します。この子はあなたの猫だったのですか?」


深々とお辞儀をしながらその声の主に挨拶をした。


「ええ、ありがとう。あたしは千鶴(ちづる)。茶吉を探してたの。ありがとうね」


濃紺の衣類を身にまとった少女は息を整えながら答え猫を抱き上げる。

そしてそのまま短い黒髪をふわりと靡かせ踵を返し、その場を立ち去ろうとした。


「あの、どちらに行かれるのですか?」


ひとまずここがどこなのかを探らなければと思った鎮は咄嗟に千鶴を引き止める。


「道場に戻らなきゃ。父さんが待ってるから」


「道場…?」


初めて聞いた言葉に眉を顰めるとその少女も訝しげに目を細めた。


「あなたその身なり、都の方から来たの?迷子?」


そう言われ初めて自分の格好をまじまじと見る。

全身真っ白で裾や袖の長めな衣類。

彼女と比べると対象的な色味の服装だ。


「あ、ええ。ここがどこか分からなくなってしまいまして」


千鶴は返事を聞いたあと、沈みはじめた真朱色の夕日をみつめ言う。


「流浪人の割には時間管理が甘いよ。もう日もくれる。男とはいえ危ないから、とりあえず家に来なよ」


そういうと千鶴は鎮の手をとり、また足早に歩き出した。


「えっ、あ、ありがとうございます」


その手の温かさにホッとする。

そうだ。これが人間のあるべき姿だ。


- (まもる)


それ以外の名は賜っていない。

生まれた時から昨日まで僕は、籠の中の番犬だった。

今日からは好きに生きようと思います。


この瞳に映る溢れんばかりの新しい情報を、戸惑いながらも、楽しみ、呑み込み、

知ることがこんなにも喜ばしいものなのかと改めて感じる興奮を噛み締めながら。

はじめまして!作者の紬向葵です。

最後までお読み頂きありがとうございます!

このお話が面白いと思った方、

続きが気になると思った方は

ブックマーク、評価お願いします!!


【人物】

・鎮 白装束で白髪の少年。別世界からやってきた。

・千鶴 道着を見にまとった少女。


・茶吉 猫

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