第五癒:夕食会
長い廊下を少し歩き、階段を下がると食堂に到着したようだ。
セバスチャンが、大きなドアをノックし
「聖女様がご到着でございます。」
ドアが内側からギィと開いた。
中は30人くらい座れるんじゃないの⁇というような大きなテーブルのある広間だった。
そこには、イーライ様とレオン様が座っている。
イーライ様が長机の頂点。
いわゆるお誕生日席に座っていて、その右隣がレオン様だ。
2人とも先程とは違った服装だが、少しシンプルになりとても素敵だ。
イーライ様は、黒地に縁に金色のボタニカル柄。
レオン様は、紺色に銀の模様が描かれている。
「やあ!とっても綺麗だよ。ドレス姿もとっても素敵だね。」
レオン様がさっと立ち上がり、席までエスコートしてくれる。
イケメンに席までご案内していただけるなんて、前世では一度もなかった体験だ。
本当に心臓に悪い。
私が自分には、この人たちを魅力するような魅力はない、という自覚が無ければ今頃、勘違いして恋に落ちていたに違いない、と思った。
「では始めようか。」
イーライ様が言って、皿の前にスッと手をかざす。
その次の瞬間!
目の前のさらにスープやサラダが現れた。
さらに大皿に鳥の丸焼きや、ローストポーク、何かの炒め物や、ゼリー寄せのようなモノがテーブルにギッシリと現れた。
おお!
これぞ魔法世界。
先程、ネリネに聞いた話では、こちらの世界には、あまり堅苦しいテーブルマナーはないらしい。
もちろん、他人のごはんを食べてはいけないとか、
食事中に席を立たないとか、
口にごはんが入ったままで、喋らないとか、
日本の食事ルールとほとんど変わらないし、別に前菜から食べ始めなくてもいいところは、むしろフランス料理のコースなどに比べたら、楽かもしれない。
真ん中の大皿は、料理長がサーブしてくれるので、
黙っていれば察して取ってくれるらしい。
はじめに、ドリンクに口をつけてみようと思った。
繊細な模様が彫られた、ガラスコップの中でキラキラの銀色の粒子が踊っている。
液体の色も見ていると淡いピンク色から淡い青、黄色と移り変わり、すごく綺麗だ。
「……!!美味しい!」
見た目に反して、濃厚なミックスジュースのような味がする。
「気に入ったかい?」
「はい!すっごく甘くて美味しいです!」
「そう。それは月の雫っていう飲み物で、宮廷では食事中によく飲むんだよ。」
「この甘い飲み物をですか…」
ウィステリアの人々は甘党なのかな。
「不思議かい?」
「もう一度飲んでみるといい。」
イーライ様がいいながら、同じ月の雫に口をつける。
「?!!!」
……?
しゅわしゅわして、ちょっと甘酸っぱい。
美味しいけど、さっきほど甘くないし、味が全然違う。
「この月の雫は、飲む者の気分次第で味がいかようにも変わる。」
「そうなんだ。だから兄さんとリナは、同じ飲み物を飲んでいても違う味なんだよね。」
「あとはその者の体調を考慮し、はじめに疲れていれば疲労回復作用があり、眠たければ覚醒作用がある。もちろん食欲がなければ、食欲増進作用だな。」
「すごい!!」
美味しいし魔法効果まであるなんて、さすが異世界。
ファンタジーごはんって憧れるよね。
あとはスープも掬うたびに味が違うし、パンはなんかバターを塗ったりしていないのに、しっとりジューシーだ。
パンがジューシーというのもおかしな話だけど、ジューシーなんだ。
「んーん!!美味しい!幸せ!」
神様ありがとう!
要望にしっかり食文化があるところ、って入れてよかった!!
ちなみ、個人的に虫食とか、苦手目なところは除外してもらった。
「こちらの食事が気に入ってくれたようで、よかったよ。料理長の出来立て料理も美味しいから貰ってみたら?」
レオン様は魅惑のスマイルだ。
そうだ。
すっかり忘れていたけど、そう言うのもあるのよね。
そうなると気になるのは…
テーブルの上にある、霜降り生肉の塊かな?
そう思った瞬間。
「お取りいたします。」
料理長が言うと、手を生肉にかざした。
そうするとびっくり!
肉がハラリ、と一枚肉塊から離れ、空中でさまざまなハーブを纏いながら移動する。
途中で芋類らしきペーストと、ベリー系のスライスを纏い最後にパイ生地をぐるりと纏う。
最後にボウッと周りを火が覆い、私のお皿の真ん中にサクサクに焼けたステーキのパイ包みのような物が着地した。
「サクサク!!パイと言うより薄いナンみたい。それにお肉がものすごく柔らかくて…油が全然くどくないんですね!爽やかな果実とこのじゃがいもみたいなペーストともすごく合っていて…食べた事がない美味しさです!!」
思わず日本の食材を連呼してしまったが、相変わらずレオン様は魅惑のスマイルだし、イーライ様はもくもくと食事をとっている。
「すみません。テンションが上がってしまって…」
「いいんだよ。実は、他の兄弟がお呼びした聖女様が、リナと同じニホンってところから来たって言っていてね。基本的な単語や食べ物の好みを調査させてもらっていたんだ。」
いたずらっぽい笑顔を浮かべながら、レオン様が言う。
バラしちゃった、でも気に入ってくれたみたいだから、といたずらが成功した子供のように楽しそうだ。
事前に調査までするなんて、やはり他の兄弟に遅れをとっていたのが、よほど大変だったんだろうな。
他の兄弟でも1番早い兄弟は、もう10年くらい前に聖女を見つけていたらしいし…
それにしても、魔法があるけど似た文化って指定しただけあって、花とか物の名前が全く一緒だったりするから不思議。
でも同じ方が助かるから、嬉しいんだけど。
こっちの世界にしかない物もたくさんあるようだし、楽しみもある。
「ふぅ。お腹いっぱいです。」
食後のコーヒー的な物を飲んでいたイーライ様が顔を上げ、口を開いた。
「明日10時頃迎えにやるが、体調は問題無さそうか?」
「はい!問題ありません!」
だって魔法の訓練なんて、待ちきれないもんね。
でも聖女の魔法ってどんな訓練するのかな?