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幕間・レオンサイド

初めて魔法陣が発動した時の驚きを、きっと自分は一生忘れないだろうと思う。


もう本当に後がなかった。

魔道具も最後だし、聖女呼び出しの座標の割り出しには何ヶ月もかかる。


前回までの6回はすべて不発。

薄く光った事もあったが、結果として聖女はおろか生き物すら呼び出せていなかった。


自分達が失敗に終わるという事は、自分達を支援してくれている派閥も失脚しかねない。

イーライ兄さんは第一王子。

それも正妃の子なので、支援を表明してくれている貴族が多くいる。

それでも他の王子が聖女を見つけるたび、目立った成果を上げるたびに支援者は離れていく。


2週間後に最後の召喚を控えたある日、

レオンは婚約者のアリッサ・ヴァイオレットに呼び出されていた。

アリッサは波打つ茶色の髪に、緑の瞳の美少女だ。海上貿易を行う、裕福な伯爵家の長女で、幼い頃からの幼馴染だ。


少し緊張した面持ちの彼女は、少し世間話をした後、本題を持ち出した。

「実は、こうしてお会いするのは最後になります。」

「それは…」

「ええ、ついにお父様が、婚約を破棄すると…こちらの書類にサインをいただければ、魔法契約は破談となりますわ。」

「アリッサ…」

「私、すでにギデオン第三王子殿下と婚約がまとまっておりますの。」

「そうか…」

これ以上話す事は無い、というムードのアリッサに何も聞かずに書類にサインをする。

「では…失礼いたしますわ。」

ふんわりと漂うヒヤシンスの香りを残して、アリッサは去って行った。


つい先日イーライ兄さんも、リリー・シルベスタ侯爵令嬢と破談になったばかりだ。

「ついに婚約者の家にも見捨てられた訳だね…」

ギデオンにはすでに婚約者がいる。

つまり、アリッサは初めから側室扱いという事になる。

第三王子の側室の方が、正妃より良いと思われたのは由々しき事態と言える。

陛下の通達の期限まで後一年しかない。

ギリギリまで待ってくれていたが、いよいよ差し迫って、自分達の今後を決めなければいけなくなったのだろう。

リリーの方は、トリスタン第四王子と婚約したようでこちらも側室だ。

本当であれば、正式な聖女が決まってからその派閥に属したいだろうが、すでに側近がいれば、後から入った者たちの発言力は弱まってしまう。

影響力を持ちたいなら、聖女が決まる前に所属を決めなければいけない。


ギデオン第三王子が最初に聖女を見つけた、と発表してから、10年経った今残っているのは、母方の公爵家と、公爵家の派閥。

それと兄さんの聡明さと、才能を買ってくれているロニセラ伯爵を筆頭とした、有力貴族数名。

彼らのためにもなんとしても成功させたかった。


そして運命の日、魔法陣からついに聖女が現れた。

肩くらいの長さの、ダークブラウンの髪とぱっちりとした目の少女。

優しげな眼差しが印象的だ。

彼女は聖女なのだろうか…


聖女にこの世界…自分達の派閥を気に入ってもらうために、いろいろな用意をしていた。


宝石でぎっしりと埋まった部屋。

見た目の良い者を大勢集めた部屋。

数々の国の衣装を集めた部屋。

贅沢な食べ物の部屋。

でもそのどれにも、案内しなかった。


藤の花の庭に感嘆の声を出した彼女を、ガゼボに案内した。

彼女であれば、欲で釣るような事をせずに、真摯に自分達の力になってくれるよう、お願いしたいと思った。そして、こんな子が聖女であれば、と祈った。

レオンにとってありがたい事に、彼女は聖女だった。

いろいろ質問したが、真面目で明るい性格のようで好感が持てた。

だが同時に、事前に立てていた、兄さんの即位計画を、大幅に修正する事になった。

実は、イーライ達の派閥は、聖女さえ見つかれば、確実に即位できるよう作成を立てていた。

その為に、最終的に1人の聖女が発動させる魔道具の効果を調査してあった。


その上で、確実性の1番高いものを実行する手筈となっていたが、その作戦はリナの人柄から変更の決議をとっていた。

リナには言っていなかったが、イーライ兄さんは人の思考が読める。

備わっての資質だが、中々読めない相手もおり、リナも嘘をついているかくらいしかわからないらしい…

それでも、兄さんにしては珍しく、リナを気に入っていた。

あからさまに豪華な部屋に、まるで興味が無さそうで、前向きなところが気に入ったとか。

それもあって、当初の計画では優先度が低めだった、正統派に聖女を育成するという計画を推し進める事になったのだった。


召喚に成功したあの日から、何度も支援者の貴族達に、早速イーライ兄さんの聖女としてお披露目をしては、と言われたらしい。


だが、それは2人とも反対した。

なぜなら、リナは学習意欲が高く素直だが、聖女の神聖魔法どころか、魔法を一切扱えない。


このままでは、他の派閥から苦し紛れの偽物、と取られかねない。

そうすれば、聖女かどうか改めさせろなどという輩が現れかねないし、本物だと言い張れるだけの地盤が今はない。

最初にリナの鑑定に使った、鑑定の魔道具は以前は信用が置かれていたが、今は魔法が使えれば改竄できる、とされて信用が薄い。

では実技を見せて証明しろ、と言われてしまう事を避けるため、しばらくは正式お披露目は無しになっていた。


過去の物思いにふけっていると、兄さんがやってきた。

「いよいよ明日だな。」

「クローバーフィールドは初心者向きだからね。念入りに調査もしたし…」

「成功させたいな。」

「そうだね。あれだけ真面目に取り組んでいるんだ、きっと間に合うよ。」

「お前の想いも通じるといいな。」

「そっちの方が、むしろ難しそうだなぁ。」

「顔と肩書きに舞い上がらない相手は難しいか?」

「ヒドイなぁ…僕にももっと他に、いいところがあると思わない?」

「普段から浮ついているから、本気で褒めても通じてないんだぞ。」

「兄さんに言われると痛いなぁ…この3か月真面目に口説いたつもりでも、いつも社交辞令だと思われているんだ。」

「人生初の一目惚れだからな。まあ、頑張れ。」

「兄さんはいいよね。黙っていても渋くてステキとか言われるんだからさ…」

ついブツブツいい出した弟を優しい目で見た後、

おやすみ…と挨拶をしてイーライは部屋をそっと出て行った。

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