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晴天の霹靂 3

「あの船は、ボールドウィン家の船であって、ボールドウィン家の船ではないのだよ」

 まるで禅問答のようなエドワードの答えに、セラフィーナは目を白黒させる。


「お父様の仰っている意味が良く分からないのですが」

「わたくしにも、分かるように説明していただきたいですわ」


 アメリアも意味不明だと質問に加わると、エドワードが「少々複雑な事情なんだが」と前置きして説明を始めた。

「トリートーンはボールドウィン商会の交易船だが、同時に王国海軍の軍艦でもあるのだよ」


 話を進めていくとスリックランドの建国時にまで遡るのだが、初代ボールドウィン伯が爵位を賜った際、当然の如く褒美として領土下賜の話もあった。

 ところが何を思ったのか、国王に向かって領土の恩賞を辞退したのだという。


「某に領土など不要。土に縛り付けて、領民からちまちまと税を取り立てるのは、某の性に合わぬ! それよりも広い海を渡り、数多の国と交易をするほうがよほど夢がある」

「貴校らしいの。しかし、わざわざ余に断らずとも、貴校は元々船乗り。己が船で自由にできるであろう?」

 数多の戦で活躍したボールドウィンの船を国王は思い浮かべるが、意に反して「あれは、ダメだ」とかぶりを振った。

「修羅場の数だけ無理をしたので、もう大きな航海には耐えられない。土地は要らぬが、できれば大海を渡るに堪える船を賜りたい」

 ボールドウィン伯の破天荒な要求に、国王は大笑いしながら「相分かった」承認したという。


「へーえ、すごい話ね」

「ところが、そのとき色々あって、賜った船に条件が付いていたんだ」

 当たり前の話だが、船を建造するとなるとお金が必要となる。

 特に大洋を渡るような交易船ともなると、その金額は小さな城の建設費と同等の大金になる。


 建国直後のスリックランドは、当然のことながら今ほど国も豊かではなく、数十年に渡る内乱によって国庫も疲弊していた。

 故に土地ならともかく、いくら国王の命だとはいえ、おいそれと交易船を下賜できる状態ではなかった。

 そんな中、臣下に知恵者がいたのだろう。ボールドウィン伯に船を下賜するのではなく、軍艦の一隻を褒賞として貸与してはいかがだろうかと提案した。


「平時はボールドウィン家が交易船として自由に使い、維持・管理も我が家で受け持つ。しかしあくまでも所属は王国海軍で、非常時には軍艦として徴用し兵装をする。そういう約束が取り交わされたんだ」

「ご先祖様はその提案を受けた、と?」

「茶目っ気もあったんだろうな。軍艦を借りるとは面白いとか言って、嬉々として受け入れたらしい」

 初代当主の行いを苦笑いを浮かべながら説明する。

「それは初耳ですが……」

 衝撃の事実に驚きながらも、アメリアは「今の話が相続とどうつながりますの?」本題から外れない。


「あなたが仰ったのは、トリートーンの所属が王国の軍籍で、書類上我が家に貸与しているということだけです。少々驚きはしましたが、それと相続には関係がないのではありませんか?」

「その軍艦というところに問題があるんだ」

 エドワード曰く貸与の絶対条件として、一族の直系者が最低でも1年以上船長の任に就いて、トリートーンに乗り続けなければならないという。


「書類上とはいえ、曲がりなりにも王国海軍の軍艦で、なおかつ正式に国王陛下から貸与された船だからな。氏素性の分からぬ者に指揮を任すわけにはいかないのだよ」

「なおのこと、あなたが」

 言いかかってアメリアの口が止まる。商会の経営に多忙なエドワードに、船に乗っている時間を捻出できる余裕などない。


「ならば、ジェームスではダメなのですか? あと3年経てば、あの子も10歳になります。それまで相続を待って戴ければ……」

 アメリアの対案に、エドワードが否定的に首を横に振る。

「私もそれは申請したよ。だが、受理されなかった」

 貴族の相続の関係から、10歳を過ぎれば例え成人でなくとも、然るべき後継者を立てれば相続に関して大人として扱われる。

 末息子のジェームスは現在7歳。残念ながら後継者を立てる年齢にも満たしていない。


 そこで何とかならないのかと陳情に出向いたのだが……

「うちの事情をおきながら知っておきながら、法務局の堅物どもが一切の例外を認めないと抜かしやがって!」

 杓子定規に特例を拒否した法務局に役人に激昂する。

 我を忘れた夫の怒号に「あなた、声が大きい」と窘めるが、

「つまり……セラがトリートーンにクルーとして乗り込まないと、他家が認めてくれないと?」

 尋ねる声は細い。


「そういうこと。だ……」


 八方手詰まり。

 エドワードが頭を抱える。仔細を聞いたアメリアも言葉が出ない。言おうにも妙案が思いつかないのだから。


 だが……

「どうして? 悩む必要ないじゃない!」

 話をすべて聞き終わって、セラフィーナが1人明るい声を出す。

「要はわたしがトリートーンに乗れば良いんでしょ?」


 いやいや。何言ってるの、アンタ。

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