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新たなるぼいんぼいん
「ミルフィーユ=ウィンディア様に御座います」
言いながらミニバッフォが歩を進めようとすると、向こうからツカツカと大股でこちらに歩いてきた。
桃色のツインテールとかまんまだ。きっと胸部装甲も……。まあ薄い。
小柄、まあオレと同じくらいの背の女の子だ。
片手剣を差した冒険者スタイルの装備。剣使えるの? 動きやすそうな格好だ。
「ちょっと、なんであんな獣に先に挨拶に行くのよ! まずあたしに挨拶をするでしょう普通!」
えーっと?
ちたりとミニバッフォに視線を向ける。
「こちらにいらっしゃった順にご挨拶をさせて頂いておりますので」
「って事らしいよ」
「会場見たでしょ! あたしとあの牛しかいないんだから! あんたも人型ならまず人型のあたしに挨拶するべきでしょうが! まったく、わかんない子ね!」
「ミルフィ、ちゃんとあいさつ」
横で控えているハーピィが声をかける。
「わかってるわよ! ふんだ」
わかってないだろこいつ。
「えっと、オレは斎川歩。こっちがシヴィーで、こっちがコロだ」
「よろしくお願いいたします。アユム様の従者、シヴィーで御座います」
「わんわん!」
「わぁ、かわいい……」
だろう? ウチのコロは可愛いだろう?
「はっ!?」
コロの可愛さにやられていたが、正気に戻る。
「あ、あたしはミルフィーユ=ウィンディアよ! ミルフィ様と呼んでいいわ! こっちはハーピィのシャオリー、それと…………ジャル! いつまで食べてるの! こっち来なさい!」
さっきの獣だ。カバだ。白いカバ。
「もにょもにょもにょ」
口をもにょもにょ動かしながら、こちらをゆっくり振り向くと、ゆっくりと口の中の物を飲み込んで、ゆっくりと、ゆっくりとこちらに……。
「遅い!」
ようやく横に並んだカバを蹴るミルフィーユ。
ぼいんぼいん。ぼよんぼよん。
「あたしの騎獣、ヒポポタマスリーダーのジャルよ! ジャル! 挨拶なさい!」
「ばー!」
大きい口を開くと、オレの前で伏せをする。
「ちょっと! なんでそんなへりくだってるのよ! ちゃんと教えたでしょ! 普通に挨拶なさい!」
更に横腹をガスガス蹴られるが、脂肪がプルプルしているだけだ。
ぼいんぼいん。ぽよんぽよん。
「はは、可愛いじゃないか。よろしくなジャル」
「ばー!」
嬉しそうに声を上げ、顔をプルプルさせている。
「何よ! ジャル! あたしにだってそんな嬉しそうな顔しないじゃない!」
「ばー?」
「マスターの素晴らしさがわかるとは、良い魔物です」
満足した表情のシヴィー。
「あんた、ダンジョンマスターよね? 普通の人間の従者とか何考えてんの?」
「え?」
「鉄の犬は、まあいいわ。固そうだし、動きもアイアンモンスターの割には滑らかだし。でもそっちの女は人間じゃない。残酷なマスターや従者に目つけられたらあっという間に攫われるわよ?」
「え?」
人間じゃないよ? あれ、シヴィーってなんて種族だっけ? イービルアイズから進化して……悪魔なんだろうけど。
「マスターはお優しいですから。それにコロもいますし」
「ふん、美人なだけの従者なんて何にも役に立たないんだからね! せいぜい寝首をかけられない事ね!」
寝首を『かかれない』ね。指摘したら怒りそうだ、
「まーまー、喧嘩しなさんなって。せっかくの夜会、仲良くするさー」
牛の登場。
「あんたも背中の鳥とか何の役に立つわけ?」
「鳥じゃなくてチロッチさ。チロッチは痒いところに手が届く便利な子さー」
それ、毛づくろい要員だよね。
「最後のダンジョンマスター様が到着なさいました」
ああ、さっきの烏賊ちゃんね。




