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やつれるドワーフ
そんな中、海人族の冒険者が動き出したのは更に4日も経ってからだ。
湖の状態の確認と、文字通り魚に味をしめた結果だろう。
「はあ、ここの湖は天国だなぁ。なんか体の調子も良くなってる気がする… 若返った?」
「ほんとよねぇ、魚に飽きたらすぐに山菜やら山の幸が手に入るのもいいわぁ」
「やっぱ内陸の方が酒が美味しいよなぁ」
「でも酒場なのに妙にドワーフの元気がないような…」
「もう住もうぜここ。オレ達で湖独占状態だし」
それは冒険者じゃなくて漁師の考え方ではないのか。
「いい加減に調査してくれよ。お前らすっかり漁師じゃねえか」
「オレ達は海人族だぞー? 生まれた時から漁師なんだからしょうがねえじゃん」
「高い金払って来てもらってんだから、やることはしっかりやってもらうぞ?」
「ハイハイ」
魚の骨をむしゃぶりながら答える海人族に説得力はない。
「えーっと、それで依頼内容だけど…」
「説明しただろうが…まずここがダンジョンだってのは確認したよな」
魔物の死体が消えたからね。
「ああ、食おうと思ってたのになぁ」
「見ての通りだ、地面にそのまま置いておいたら勝手に消えちまう」
「以前はそんな現象起きなかった。それが起き始めてからまだそんなに時間は経ってない」
「そういえばダンジョンが街になってるなんて話聞いたことなかったもんなぁ」
そりゃあそうだろう。
「その日の夜にちょうどここから見てあっちの方向、そこの湖の奥で発光現象が確認された。現状そこの塔にいる主と名乗る存在がダンジョンマスターだと考えられている」
「まあ、ん百年も開いたことのない塔だろ? なんで今更動き出したんだ?」
「それがわかんないから調査するんだよ。今のところ魔物を出しては来てないが、街の中に突然魔物が溢れる可能性も十分に考えられる。この街を囲んでいる壁、オレ達がお前らに会いに行く前は無かった壁だ。なんでも魔物の襲撃に備えてここの塔の主が出してくれたんだと」
「いい奴じゃん?」
いい奴だろ?
「逆にオレ達街の住人を閉じ込める事も出来る様になっている訳だがな」
そんな考えも出来るのか。
「そりゃあ危険だな」
「だがダンジョンマスターの真意がわからん。魔物の襲撃に手を貸してくれたと思ったら、それが終わったら褒美と言わんばかりに金貨や酒、食い物などの嗜好品を配ったりしたらしい」
「ダンジョンの酒? 呑んでみてえなぁ」
「既にドワーフ達が呑み干した」
「ああ、この街って鍛冶ギルドがあるんだっけか」
「じゃあ残ってないか、残念だ」
「酒精がしっかりあるのに喉越しが良く、味がしっかりある酒だとさ。ドワーフ達は体に火の着くような酒を好んでいたと思ったが意外な事に味が分かるらしい」
「酒好きなドワーフ連中が大騒ぎする酒かぁ」
「あんまりその酒の話をしない方が良いぞ、話が長くなる上に連中が情緒不安定になる」
そこまでか…。何かしら供給できる環境を作ってやった方がいいか? や、DPの無駄か。
「まあ手前の湖はここ何日かで大体回ったぞ。一番強い魔物はやっぱケイブシャークだったな。だがその先の湖なぁ」
「だなぁ… なーんか嫌な感じがするんだよな」
「嫌な感じ?」
「手前の湖、かなり魚介類の種類が豊富で水草もしっかり生えてる。まさに楽園だ。こんなに豊かな湖がこんな山の中にあるのが不思議なくらいだよ」
そうなんだ。
『マスターが起きてから急に豊かになったんだよな。水の神の加護かマスターの種族特性かわかんねーけど。小魚程度だった魚が大きく育ったり水草の種類が増えたり。ケイブシャークも増えたからDPも結構はいるぜ?』
そうなんだ!?
「流石はアユム様です」
撫でないでくれ。
 




