07
自分しかいないと思っていた温泉とか銭湯で突如鳴り響くカポーンはびっくりするよね。
「くあ、眩しい…」
窓から差し込む光に目を開ける。
『おはようございます、マスター』
「おはようコア」
コアの声が響く。
「あー、顔洗いたい…」
『水の魔石は台所に置いてあります』
「昨日全く反応してくれなかったけどな!」
お湯はもちろん水も出なかった。
魔力とかわかんねーよ!
『地脈からのDPと侵入者からのDPが入りましたのでお伝えいたします』
2日目にしてスルーされた!
ん? 侵入者?
「侵入者!? 不味いじゃないか!」
『外層…平原部分にいくつもの反応が感じられます。監視ネットワークがありませんので』
「じゃあ安心だな。それよりも水出して頂きたいのですが…出来れば桶も」
『桶が2DP、水は無料で出せます』
「水の魔石いらねえじゃねえか」
言ってくれよ。
『ですが、1週間の作成期間の間だけです。その先には必要になります』
「でも昨日から欲しかったんだ…」
『それは失礼いたしました。今後はいつでもお申しつけ下さい』
カポーン。
桶を2つ出して貰い、水を入れる。
一つの桶で顔を洗い、残りの水で食器を洗った。
追加で水を出して貰いタオルで体を拭いたよ。
「で、ポイントはいくつ?」
『2720DPです。地脈から1500DP、侵入者の滞在と撃破により1220DP入りました』
「…多いのか、それとも最初の10万DPが少なかったのか…」
『多いと思いますよ?』
「というか、撃破なんてどうやってしたんだ?」
侵入者用の罠なんてないし、魔物も召喚していない。
『グレイウルフとフィールドウルフ、スピアラビット、アースラット、グリーンマンティス、レブバタフライ、幻惑蝶、シーンスパイダー、弓草、虫食い蔓、ロウクロウなどの魔物の撃破を確認いたしました。亡骸の回収も行えたのでDPを使った召喚が可能になります。また、これらの魔物の召喚陣も作成可能です』
思ったよりも多い!
「なぜ…」
『ギミックの噴水の周りで多くの亡骸の回収が御座いました。あの噴水には謎解き以外のギミックも含まれていたんですね! おみそれしました。素晴らしいマスターに恵まれてコアは幸せです』
噴水の周り…。ああ、そういう事。
「コア、噴水はあくまでも噴水だよ。魔物達はただの自滅だ」
『自滅…ですか?』
「見に行こうか」
『はい』
部屋から出て、コアルームで安置されているコアを手に持ち屋上へと移動する。
「あれが答えだよ」
『争っていますね』
噴水の周りで土煙が上がっている。
背の高い草がなぎ倒されて、見晴らしがよくなっており多くの生き物が倒れている。
「平原の抜けた西側に川があって、東側は山なんだよね。大きな水場が近くにないから噴水の周りで縄張り争いが起こってるんだ」
色の違う狼同士が噛みつき合い、同じ色の狼同士でも噛みつき合う。
背の高い草が揺れながら大きな蟷螂に追いかけられていて、その後ろを更に別の虫が追いかけている。
『あの黒い狼はブラックウルフですね。データベースで照会できます』
「あれが群れのリーダーかな。どうにも周りに指示を出している様子だ」
『まだ亡骸を回収していない個体ですね。欲しいですマスター。倒しましょうマスター』
「んー…DPが無駄になりそうだよ。少なくともオレが召喚出来る魔物はあいつに負けて死体になった連中と元々召喚出来る低いランクの魔物だけだ。相当な数を出さないと勝てないんじゃないか?」
昨日マニュアルを覗いた限りでは、ファンタジーで定番のゴブリンを筆頭に草食動物っぽい魔物や体に優しそうな草くらいしか召喚出来ない様子だった。
ゲーム的に考えると、ダンジョンマスターLv1だ。
『マスターの特性のおかげか、水系統の魔物なら充実しております!』
「噴水以外のどこに水辺があるんだよ…」
『井戸がございます』
「なんの役に立つんだ」
てかオレの前世は何者なんだよ、妙に水々しいわっ!
『水が無くても戦える半魚人やウォーターイグアナなどなら呼べますよ』
「勝てるかわかんないし、勝てても持て余すからやめておこう」
こうやって話しているうちにも戦いが続いている。
「ポイントは今でも入ってくるの?」
『一日の終わりに。闇の神ナラヴィー様の力が一番強まる時間にまとめて入ります』
そういえばマニュアルに書いてあったな。
『今日はいかがいたします?』
「塔の中を強化しよう。塔に入って来られると困るけど、いつまでもこのままという訳にはいかないからな」
『畏まりました』
といっても、どうするかなぁ。ドルアーガか、トルネコか世界樹か。
そんな事を考えていると、お腹に響くような重低音と共に強い衝撃と振動がオレのダンジョンを突如襲ったのだった。