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街を壁ドン
「なんだ!? 何が起きたと言うのだ!?」
「か、壁です! 街を囲う様に壁が現れました!! 地面からせり上がっていきます!」
「どうなってやがる!」
「不味い! 街に戻れなくなるぞ! 走れ!」
「扉だ! 扉が開いてるぞ!」
「この世の終わりかっ!」
「高いっ! 5m以上ある!」
騎士団や冒険者は大混乱。街の中もきっと騒然としているはずだ。
「まー驚くよね」
『アトハマスターノ御心ヲ人間共ガ理解出来ルカドウカ』
突如現れた高い壁を茫然と見つめる街の人間達。
「理解出来るかどうかはわかんないけど、利用してくれるかどうかなんだよね」
突然現れた壁、気持ち悪いはずだ。
でも壁相手に武器向けてるのはどうなんだろうね。
「人間は壁相手に武器振るですか?」
「錯乱してるだけじゃないかな」
『人間ってのは理解出来ねーなぁ』
壁に武器を向ける気持ちはオレにも理解出来ないな。
「ダンジョンが自身を守ろうとしてるのか? いや、今は考えてる時じゃないか…! 冒険者の斥候組! 壁と扉を調べろっ! 罠の有無、魔物の有無を徹底的にだ! 特に扉を調べろ! 場合によっては補強もするぞ! 森の付近、西側から行け!」
騎士団長が声を上げる。
「報告によればゴブリンだけではなくオーク、オーガ、トロールがこの街を目指している! 報告通りの数が来たら、総力戦になる! この壁を利用出来るか否かが勝敗を分けるぞ!」
冒険者達が走り出す。
「怪我人は回復しとけ! 休憩出来る時間は短いぞ! 食える人間はメシを食っておけ!副官っ! 来いっ!」
騎士団長が部下を呼んだ。
騎士団や冒険者の面々から離れた場所で内緒話を始めた。
「遠距離魔法と弓が使える人間を出来る限り集めて来れるか? あの外壁、物見台もあれば道も通っている。防衛戦に適した作りだ、まるで王城を囲む城壁だ」
「危険では?」
「今、確認させている。問題無いようならば使う」
「…分かりました。人を集めます」
「怪我人も出来るだけ使う。壁の上から投石や槍を突き出すくらいは出来る者がいるだろう?」
「はっ!」
「狩人や魔法省の連中も引っ張り出せるか? 可能なら市民からも人員を集めたい」
「それは…」
「レイヴン伯に協力を求めよ、休んでいる兵士にも声を…掛ける必要はなさそうだな」
騎士団長の視線の先には兵士の一団。
「ブレイン卿!」
「バッツ兵隊長! 良いタイミングだ。満足な休憩も取らせてやれなく、すまないと思う」
「いえ、この状況で寝ていては隊長から降ろされてしまいますよ」
「我々は訓練兵へ降格ですかね」
兵士達から笑いが漏れる。
「はは、頼もしいな兵士諸君」
笑顔を漏らしていた騎士団長のブレインさんはここで笑みを殺し、真面目な顔をした。
「今、あの壁を冒険者達に調べさせている。妙な状況ではあるが、使える物を使わずに市民に犠牲者を出すわけにはいかない。正直堀と柵では狼やゴブリン程度しか防げないからな」
ブレインさんの言葉にバッツさんも柵の先に広がった外壁に目を向ける。
「階段に物見台、開閉式の扉もあるとは用意がいい。おい、兵舎に戻りありったけの槍と弓矢を持ってこい!」
「はっ!」
「お前達は騎士団長の指揮下に入れ。冒険者達の調査が終わったら忙しくなる」
「了解!」
「バッツ兵隊長…」
「副官殿、領主様のところには私が行きます。その方が早いでしょう」
「…それは、助かるのですが」
「頼めるか」
「任せて頂こう。必ず動かしてみせる」
ブレインさんとバッツさん、お互いに頷くとバッツさんは離れていった。




