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前もって同盟の文章の中に魔物の交換も盛り込んでいたのでコアがスムーズに手続きをしてくれる。
シエンタ様側のコアも受け入れ準備を整えていたので交換はスムーズにいった。
と思ったが……。
『ん? シャイン自体が未登録?』
「あ」
シャインはシエンタ様のコアから生まれた魔物ではないのでそこの手続きからだったようだ。
「そう言えばシャインも誘拐した子ね」
「こらこら」
「【誘拐】ではなく【保護】です。私の親にも相応のお金をシャイン様はお渡しして頂いております」
誘拐ではなく人身売買でした。
「ん? 魔女ってか魔女見習って魔物なの?」
「魔物よ。人が進化した存在ね。詳しくは秘密」
「了解、シャインにも聞かない事にします。全員も不用意に詮索しない様に」
「「「 畏まりました 」」」
オレに付き従ってくれていた魔物達が元気よく返事をする。
「エリーゼ」
「はい、アユム様」
グラマラスな肉体美を誇る馬面の白衣が前に出て来た。
「お前の下にシャインをつける。だがシャインは共同研究者だ。エルフィン達と同じように扱うのではなく、客人として接する事」
「承りましたわ。でもこちらの意に反する研究を行おうとする場合には……」
「勿論止めてくれ、その場合はオレに報告も頼む。シャイン、そうならない様に何か新しい事を試みる場合はエリーゼに確認を取るんだ。ダンジョン内でコアの監視からは逃れられないからな」
「勿論に御座います」
「そこさえ守ってくれればある程度好きな研究をしてくれて構わない。エリーゼの研究所に行き足りないものがあればエリーゼを通してこちらに申請をすること。それと住む部屋も用意させる。希望はあるか?」
「研究所に近ければどこにでも!」
うお、食い気味に来た。
「そ、そうか。じゃあ場所はフィルと……場合によってはゼノンに依頼して家を建てても良い。ただ家で研究を行うのは禁止だ」
「そんなっ!?」
「家は頭と体を休める場所だ。研究するところじゃないからな」
エリーゼもそうだったからあらかじめ釘を刺しておく。
「か、畏まりました……」
「大丈夫よシャイン。研究室には休憩室も仮眠室もあるから」
「そういえばエリーゼ」
「はい」
「エルフィン達から苦情が来てる。仮眠室を私物化するな。他のメンバーも使うんだから」
「あいつらっ!!」
「エリーゼ」
「も、申し訳御座いません……」
「フフ」
そんなやり取りをしていると目の前にいたシエンタ様が笑みをこぼした。
「あ、すいません。お客人の前で」
「いいのよ。エリックだったかしら?」
「はっ!」
「貴方には色々作って貰いたいから頑張りなさい? その分待遇は幹部と同等の扱いにするわ」
「ありがとうございますじゃ」
「期待してるわよ」
シエンタ様が楽しそうにエリックに笑みを向けた。
「そちらも立て込んでるみたいだし、こっちもエリックに色々お願いしたいから今日はこれで帰るわ」
「了解です。今日はきちんと歓待できず申し訳御座いませんでした」
オレの言葉に魔物達が一斉に頭を下げた。
「構わないわよ、お祭り楽しかったし。カレーも美味しかったわ。なんで研究してなかったのかしら? お米は作ったのに」
「そ、そうでしたか」
「例の魔物を支配する魔道具、詳細が分かったら知らせて貰えるかしら? ウチの傘下のダンジョンマスター達にも注意喚起させるわ…… まああんなもので支配されるようであればその程度のマスターだったという事でしょうけど」
「畏まりました」
「それと、量産もしない様にしなさい。バレたら近くのダンジョンマスター達が一斉にここに牙を剥くわよ」
「お約束いたします。そうですね、シャインも研究チームの一人に入れましょう」
「助かるわ」
「承りました」
オレの言葉とシエンタ様の返事、そして視線を受けたシャインが深々と頭を下げた。
「まあ、無事に確保できればの話ですけど」
「人間達もそこまで無能ではないでしょう?」
その言葉にオレは首を振る。
「人間側もバカではないですからね。機密を保持する為にアイテムを破壊する可能性もあります」
「ああ、そういうものもあるのね。その何とかって国で売ってないかしら?」
「ああ、えーっと……」
「ネイヴィエラです」
「「 それそれ 」」
オレとシエンタ様が同調すると同時にフィルが困った顔をする。
「アユム様、お隣の国ですよ?」
「そうだったね……」
「勉強不足ね」
「……シエンタ様もお隣の国です」
視線が泳いだのはオレだけではないようだ。
というか、シャインがお隣だと言うのであれば、意外とシエンタ様のダンジョンとは物理的に距離が近いのかもしれない。
「まあいいわ。とりあえず今日は帰るわね」
「はい。それではこちらを」
オレの促しに応じ、フィルが大き目なカートを部屋に持ち込んだ。
「こちらで作成した作物や布類です。日本由来の香辛料もご準備致しました」
フィルがお土産を説明しつつ、説明の終わった物を魔法の袋に詰め込んでいった。
「ありがと。今後必要になったら購入も可能かしら?」
「ダンジョンを維持するのに問題が起きないレベルであれば販売いたします。どうしても神々を優先する形になってしまいますが」
「ええ、そこは構わないわ。気に入った物があればDPやそのDP相当の魔物を用意するわね」
「よろしくお願いいたします」
元々同盟した時に話を付けていたことではある。これはオレの配下の魔物達への配慮だろう。
シエンタ様の従者の魔女がフィルから魔法の袋を受け取る。
「それじゃあ、また来るわね」
「はい」
オレの返事に気を良くしたのか、仮面ごしでも機嫌が伺える。
神殿経由で来たので、ミリアに先導を任せた。
神殿で見送ろうと思ったけど、神々と差別化をしなければとフィルに諭されたので屋敷からお見送りだ。
お祭りは結局楽しみきれなかったが、普段と違う日常になったなとしみじみと感じた一日だった。
『マスター、お土産なにがいい?』
「帰って来いって言わなかったっけ!?」
コアの奴まだ祭りを満喫してやがった!
残り物投下。
きっと需要はない。




