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コータ君にこちらの魔物の情報を与えるのもあれなので、コータ君はドミニク達の家に残して屋敷の指令室に移動。とりあえず今日は家から出ない様に言っておいた。
屋敷にはシエンタ様達も一緒である。
シルバリオの案を通す為に松本部屋でジョージに指示を出した。
結果として神々の試練の間に詰める騎士達、商人達が騒然としている。
未だかつて、このような事態が無かったためしょうがないといえばしょうがない。
本来であれば人と魔物の戦いをただただ見守っていた、ここの元締めとも言われるジョージが闘技場から神殿に顔を出したからだ。
『ジルノス殿、少しよろしいか』
『あ、ああ。すまぬ。其方がこちらに顔を出すとは思っていなかった』
『異なことを、ここはダンジョン。なればモンスターがどこにいても不思議ではあるまい。この闘技場とその周辺施設は別段安全エリアではないからな』
ジョージは相変わらずの純白の甲冑姿だ。
『それで、どのような用件であろうか?』
『我が偉大なる主が欲しているアイテムがある。それを持っている人間がこのダンジョンにいる。だがこのダンジョン内で我らが大々的に動いては、君たちも不安になるであろう? だから諸君に動いて貰おうと思ってな』
『ほう?』
ジョージの言葉に目を細めるジルノス。
『我らへの配慮、感謝する。それで、いくつか質問をしても構わぬか?』
『答えられる範囲であれば』
ジョージが頷いて続きをと促す。
「ジョージにすべての質問に即答しないようにと」
「畏まりました、アユム様」
回答を考えるのに時間がかかる質問をされたら、こっちが指示を出しているのがバレるかもしれない。
オレが監視している事実は余り人に知られない方がいい。
『騎士団の人間の誰かか? それで私に仲介して欲しいと?』
『…… 違う』
ジルノスが目を細めた。
『ふむ、私もまだこの街に来て日が経っていない。この街の人間には顔が利かないのだが』
「ジョージにこの街の人間ではないと」
「はっ」
オレの指示がシヴィーを通してジョージに伝わる。なんか面倒だなぁ、念話使えるようになりたい。
『…… その者は騎士団の人間どころか、この街の人間でもない』
『そうなると冒険者か? 冒険者の中には、確かに貴重なアイテムを持っている者もいるだろうが…… 手放すか?』
難しい表情のジルノス。まあ無理矢理奪うので。
それは君達のお仕事ですからね。
『ジルノス殿、諸君らはこの国を守るのが仕事であったな』
『ああ、当然だが…… それが?』
だがジルノスはこれだけの会話で何かを思いついたかのように、表情が厳しくなる。
『この国の人間ではない、と。ジョージ殿……』
『ネイヴィエラとかいう国の軍に所属している間者だそうだ。この街とダンジョンの調査に4人ほど入っている人間。その1人がアイテムを持っている』
『真か!?』
驚愕の表情を浮かべるジルノス。
ジルノスの周りの騎士団員もだ。
『我が主が既に一人を確保した。残りは3人。その内1人は街の中にいるらしく、2人はここに潜っている』
『その人間が分かるのか?』
『人相書きを用意させる事も可能だ。我が主の望む物を貴殿らが我らに献上してくれるのであれば、それを提供しよう』
いまチムの上の3人がせっせと描いてくれているからね。
『…… すまないが、我ら騎士団が任務で手に入れた物を献上出来る相手は国王や王族の方々だけだ』
『………………』
その言葉に沈黙するジョージ。
オレも言葉を考える。
その反応を見たジルノスが口角を片方だけ上げた。
『だが『譲渡』するのであれば問題ない。何年もの間小競り合いを繰り返している相手の間者の情報。簡単に手に入る物ではないからな。して、そのアイテムとは?』
『ジルノス殿も人が悪い。鉄色の茨で象られた冠らしい』
『それはどのようなアイテムなのだ?』
『…… それは知らぬ方が良い。ただ貴殿らが所持を望んだ場合は、我らと敵対する事になるであろうとだけ言っておこう』
『了解した。先ほど言っていた人相書きを貰えるだろうか』
『準備させよう』
チム達が短い時間で大量に描きあげている。流石は芸術の神様の加護持ちだ。
出来上がっている一部を転移したシルバリオが受け取り、シルバリオ自身も転移する。
神々の試練の間の居住エリアにはゲン爺とラッシーセルキーやリックもいるが、統率されている騎士団が牙を剥いたらやられてしまう。魔物としての格が違うシルバリオならば安心だ。シヴィーは一度依頼の為に冒険者ギルドに顔を出してしまったので念のため出さない。
『ジョージ』
『シルバリオ殿、ご足労を』
『問題ない』
ゆったりとしたローブ姿の青年、シルバリオが紙の束を抱えて登場した。
『お前か? ここの人間達のリーダーは』
『ああ』
初めて見たが、街に行ったときに付けておいた認識阻害のアイテムのおかげで魔物的威圧感が皆無となっている。
『約束せよ、必ずアイテムをこちらに渡す事を。出来んなら殺す』
「うおいっ!?」
思わず声が漏れてしまった。
『逃がしても殺す。失敗しても殺す。持ってこなくても殺す。持ってきたうえで渡すのに躊躇うようであればそれでも殺す。我が主が一瞬でも不快と感じさせた、そう私が判断した場合も殺す。皆殺しだ。それを認識したうえで受け取れ』
思わず頭を抱えてしまうっ!
ジョージやジルノスだけでなく、周りの騎士団員も含めて沈黙が訪れていく。
ああ、ダメだって! せっかく友好的に協力関係が築けそうだったのに!
『…… 随分な物言いだな』
『我が主の為に働けるのだ。感謝し頭を下げるべきお前たちの態度には目を見張るものがある。我が主の望みの品を入手するという幸福な機会に対し、軽率な考えをもつ人間共に釘を指すのは当然であろう? ジョージよ、本来であればお前の役割だ』
「なるほど。確かに連中の態度はなっていませんし、ジョージも足りてませんでした」
「オレの考えを汲んでくれないキミたちの事を忘れていたよ……」
ジョージやゲン爺達と違い人間達との接し方をほとんどの魔物達には指示をしていない。
そもそもシルバリオは生まれてまだ二週間程度しか経ってないんだ。他の魔物達だってこんな感じだったじゃないか。失敗だ。
『ジョージ殿』
『む、いや。だが…… そうだな。シルバリオ殿、ここは穏便に』
『ジョージ、其方は彼の方から直接これが欲しいと言われた事はあるのか?』
『ありませぬ』
『で、あろうな。彼の方は高潔だ。すべてを望む力があり資格がある。だが未だかつて、我らに対し我儘を押し通そうとした事が記憶にない。そのお力を自身の為だけに振るうところも我は見たことが無い』
『むう……』
『そんな中、此度のアイテムだ。我が主がこのダンジョンと人間との関係性を重視し、人間に依頼をした。ダンジョンの出入り口を塞いで中の人間を皆殺しにしアイテムを回収すれば済む話なのにも関わらず、わざわざ人間をお使いになられる意味がこの者たちにはまるで分かっていないように見えるが?』
『そのような暴虐、我ら騎士団が許さぬぞ』
『…… 我らが偉大なる主は我らにも人間に甘い。それは良い、それが彼の方の美徳であり我らが彼の方に付いていく理由の一つでもある。だがすべての魔物が彼の方と同じように人間に甘いわけでは無い』
シルバリオはおもむろにつけていたブローチを外す。
『黙って言う事を聞け』
『ひいっ!?』
後方に並んでいる騎士の面々から悲鳴が上がり腰を抜かした。
それでも何人かは武器を取り、何人かは盾を構えて前に出る。
『よせっ!』
『シルバリオ殿っ』
周りにいた騎士達を制止するジルノスとシルバリオを止めるジョージ。
「シヴィー、シルバリオにそこまでにして戻るように伝えて」
「畏まりました」
シヴィーにお願いしてシルバリオに念話を飛ばして貰う。
これはシルバリオが悪いというよりオレが悪いな。元々ダンジョンの魔物達は人間、というかすべての侵入者的なモノに否定的なんだから。
「シルバリオご苦労様」
「はっ!」
シルバリオさん、捨てセリフに『失敗したら街ごと焼き払うぞ』とか素敵に脅して帰って来ました。
「明日以降、闘技場をモニタリングしてジョージやゲン爺と人間達とのやり取りを良く観察するように。お前の家にモニターを用意しておく」
「はっ!」
「常にモニターを見ていても暇だろうから適度に見てくれればいいよ。特にゲン爺と鍛冶師や商人との会話をしっかり見てくれ。来週に何を思ったか教えてくれ」
「畏まりましたっ!」
「…… しっかり見るようにね」
召喚して間もないからか、オレの指示に疑問も示さないのも問題といえば問題だ。
元々神々の指導を受けていたフィル達や、ここでの活動の中で進化したシヴィー達はオレの指示に疑問点が生じると質問もして意思の疎通を図ってくれている。
基本的にYESマンばかりだが、こちらの意図しない事をやらない様にするために色々考えてくれる魔物が増えているからそれを見習ってほしい。
「なんか色々大変そうね」
「すいません。せっかくご招待したのに」
「いいのよ。お祭りはそこそこ楽しめたわ。カレーも美味しかったし」
「そう言ってくれると嬉しいです」
「お土産に期待するわ」
「お任せ下さい」
シエンタ様もこの辺は他の神様と同じだなー。
でも他の神様と同じような扱いをしていいのだろうか? 流石に差を付けないとダメかな?
「シャインとそっちのドワーフの交換も行いましょうか」
「分かりました。フィル、エリックを」
「ご準備は出来ております」
色々と鞄に詰め込んでいるエリックの準備は万端だった。
「シャイン。彼があなたのマスターよ」
「畏まりました」
「エリック、迷惑をかけないようにな」
「お任せください」
『んじゃ、手続きしとくぞー』




